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夢に咲く花 105

 蝸牛を拘束しても、事態決して収束したとは言えない。ゾンビ虫に侵された人々は多くいるし、そもそも放たれたゾンビ虫は野放しのままだ。それらの問題を解決しない事には終わったとは言えないだろう。

しかし、ここは力を抜いていい場面のはずだ。孝宏も地面に座り込んだ。



「蝸牛が動いた時はもう終わったかと思った」



 孝宏は声を上げて笑った。



「確かにぞっとしないね」



 ルイからも乾いた笑いが零れる。



「…………でも、カタツムリって何?」



 文脈からカタツムリが山の化物であるのは何となく察したものの、ルイにはカタツムリという生き物なのか解らなかった。それはタツマも同様だ。

 タツマは魔術を行った状態のまま、部下に指示を飛ばしていたが、二人の会話が耳に入り、孝宏に視線を向けた。



「え?カタツムリってここにいねぇの?俺の国じゃあ別名デンデンムシって言う小さな生き物なんだけど」



 小さな、孝宏は言いながら親指と人差し指で、自身の知っている蝸牛の大きさを示した。山程もある化物と比べるにはあまりにも違い過ぎる。

 


「んー…………僕は初めて聞いた……けど」



 実際はどうなんだろう。二人が誰に尋ねるでもなく呟くその前に、タツマが口を開いた。



「二人ともよくやった。後の処理はこちらでするから安心してほしい」



 本来、他国で行使するには大規模すぎる魔術は、報告だけで済むものではない。だが、孝宏やルイに何らかの責任を取ってもらおうとは、タツマは微塵も考えていなかった。


 自国の兵を引き上げる際、妨害になるならば武力を持って排除して構わないと、予めカノ国と取り決めていたし、タツマは今回のこれを、それの範囲内で済ますつもりでいる。


 タツマに取って孝宏とルイの二人が矢面に立たされることの方が問題であり、万が一にもカノ国に、特に孝宏とマリーの存在を知られるのだけは避けたかった。その為に大規模な魔術で化物を氷漬けにしたのだ。これを隠れ蓑にして旨味を頂くつもりで、今も部下が奔走している。ただ予想よりも派手になっただけだ。

 タツマが少しだけ困ったように微笑んだ。



「私としては君には打ち合わせ通りにしてもらうつもりだったんだけどな……」


「っ……すみません」


 ルイは謝罪を口にしわずかに頭を垂れた。孝宏はそもそもルイがどういう選択をしたのかすら解っておらず、ここで初めてルイがタツマの思惑から外れた選択をした事に気が付いた。


「まあ、先に勝手に変更したのは私だ、謝る必要はない。おかげで期待していた以上の成果だよ」


 タツマは腰に手を当て、不敵な笑みを浮かべた。それだけでルイは朧気ながらも推測できたが、期待以上とはどういうことだろうと、孝宏が首を傾げた。



「それってどういう……」



「あれはまだ生きているということだよ。生きた素体からのサンプルは貴重なんだ。おかげでカノ国の者たちが来る前に色々と採取できるというものだ」



 実に楽しそうに笑うタツマに、孝宏とルイが曖昧に頷いた。



「それにしてもルイは良くも私に合わせられたものだ。おかげで私の負荷も少なく済んだ。オウカが君の自慢をしていた時は親バカがとも思ったが、なかなかどうして、素晴らしいじゃないか」



 予告なしに変更された術式を聞き取り、そこから予測を立て補助魔術で合わせてくるなど知識があっても簡単にできる事じゃない、とタツマが言った。



「ありがとうございます」


 素直に驚嘆したとタツマがしみじみと頷くと、礼を述べるルイも嬉しそうに声が弾む。しかし孝宏はというと目を見開いてルイとタツマを交互に見ながら、適当な相槌を打って頷いている。

 孝宏が理解できたのは、タツマがルイを手放しで褒めているという一点のみだ。



(ルイってもしかして、俺が思っている以上に凄いんじゃ……)



 ナキイはルイを優秀な新兵と評したが、それはあくまでも兵士としてだった。

 それが魔術師としてなら、ルイの優秀さは同年代の中では群を抜いている。そもそもルイの歳で魔術師の資格を持つ者は非常に少なく、事実ルイは十八の時資格を取ったのだが、魔術師資格取得最年少記録から三番目に若かった。



 孝宏はそれまでルイをちょっと魔術が使えて、魔法具も作れる器用な奴程度にしか認識しておらず、ナキイの指摘後は民間人なのにチョットしたプロレベルという認識に変わっていたが、その評価すらも変えなければならないかもしれないと思い始めていた。



(プロ中のプロが感心するレベルなのか……)



「ルイってば実は才能あふれる感じなん?」



 ルイは一瞬嬉しそうに頬を緩めたニヤついたが、孝宏の目を気にしてすぐに表面を取り繕った。



「はぁ?今更何?僕みたいな奴がゴロゴロいるわけない」



 ルイは顔を顰め大げさにため息を吐いた。実にルイらしい照れ隠しだが、孝宏は真面目な顔で頷き腕を前で組んだ。


「魔術がすごいだけかと思ったら、魔法具も上手に作るし……」



「え?」



「プロにべた褒めされるほどの魔法使いだったとは」



「いや、それは言い過ぎ……」



「そうか。ルイは天才だったのか……」





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