冬に咲く花 18
今度は両手とも指を絡め合い、手の平をしっかりと合わせる。二人の背は大して変わらないのにも関わらずカダンの手は大きくて、孝宏の手はすっぽりと包み込まれた。
所謂恋人繋ぎと言うやつだがどうして、指をほどこうと力を抜いても、押しても引いてもぴったりと張り付いているかのように解けない。恋人繋ぎなんて甘い響きとは裏腹に、相手を決して離さない実用的な握り方でこれからは見方が変わりそうだ。
「今度は、離さないから」
カダンに先程までの笑みはなく、狩りに行く前のいつもの真剣な眼差し。黒く大きな瞳が孝宏を捉えて離さない。
カダンが深く、浅く、呼吸を繰り返した。それが徐々に一定になってくると、僅かにわずかに瞼を下ろし目を伏せた。
(……熱い?)
初めはチリチリと弱い静電気の様に掌で弾けていたのが、カダンの呼吸が一定になるのに従い熱を帯び、掌全体がじんわり温まった。次第に熱はより高く、より深くまで染み入り、握り合った手に熱を保ったまま、孝宏の腕を遡り始めた。熱は腕の内側ををなぞりながら、スルリと首を一回りした。
「あっ……」
ゾクリとして声が漏れる。聞き慣れない上擦った高めの声が、自分の口から洩れたなど通常なら身悶え、もしも相手が友人なら殴り返しただろう。だが今の孝宏には恥ずかしがっている余裕がなかった。何せ熱は揶揄うかように翻弄するのだ。
熱が脊髄を通って心臓にたどり着き、鼓動に呼応し温度を増していく。そして心臓に熱が集中すると一気に四肢へ、脳へ駆け巡っていった。全身を熱に支配されていくのを自分ではどうしようもなく、ただ訳も分からずカダンを睨め付けた。
足の先から頭の天辺まで焼け付くような熱が素早く螺旋を描いて駆け上がり、内側を縦横無尽に駆け巡る。体の芯まで熱に侵され、足元から崩れそうになるのを辛ろうじで堪えた。
孝宏が熱に浮かされぼやける意識の中、目の前の男は歯を見せニッと笑っていた。
(何だよ……楽しそうじゃないか)
特別に思ったわけではないが、カダンに対して何らかの感情が湧き上がる前に先を越されてしまった。
「どう?感じる?」
孝宏にはその言い方が意地悪く聞こえた。
カダンにしてみれば、ちょっとしたお遊びなのかもしれない。揶揄っているだけのつもりかもしれないが、魔術が使えないことに対して真剣に悩んでいた身としては面白くない。だがそれも自身に余裕があればこそ、腹を立てられると言うものだ。
「すごく……熱い」
孝宏は息も切れ切れで、その表情は苦悶に歪み涙が滲む。
「でも……こんな……どうして……」
どうして、こんなにも息苦しいのか。
震えていたかもしれない。孝宏は顔をうつむけて歯を食いしばり、呼吸を整えようとしたが、上手く息が吸えず浅く早くなっていく。苦しさが増し、大粒の涙がむき出しの地面に黒いシミを作っていく。
「俺の魔力がタカヒロの中に流れてるから」
「魔力……て、これ?……熱い……苦し……よ」
カダンのひょうひょうとした物言いは、苦しいだけの孝宏からするとあまりにも違い過ぎてどこか遠く、他人事のように聞こえる。
本当に彼は今、自分と同じ時間を共有いているのか甚だ疑問だが、カダンは自分の為にしてくれていると思えば止めてほしいと言い難く、孝宏は自分がいかに辛いか強調しただけに留まった。
しかし孝宏の控えめな自己主張はカダンには通じず、やはり飄々と軽く的はすれな返答が返って来た。
「そんなに熱いの?まあ、魔力によるかな。多分俺のは特殊だから……かな?でも解りやすいでしょ?」
そう言ったカダンの語尾はやはりすこぶる軽い。だが彼の言う通り、確かに言うと通りに解りやすかった。