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夢に咲く花 77

 孝宏は唾を飲み込み喉を鳴らした。考えれば考えるほどこんがらがう思考に頭がおかしくなりそうだった。


 イヤイヤ、まてまて。

 ナキイさんが俺に何かをしたとは限らない。


 だって、カダンが何らかの魔法で俺を監視してるなら、ナキイさんが《何か》をしなくても俺を連れ戻しに来たはずだ。遠視魔法とか盗聴とか色々あるだろうし。

 でも、ナキイさんと会って、すぐに連れ戻しに来るわけではないのが気になる。必ず時間差がある。

 やっぱりナキイさんが何かしてるんだろうか。




  軍が、ナキイさんが森での襲撃に関与している可能性は低いとは考えている。

 仮にそれが真実として、じゃあどうしてナキイさんが俺に対して、何らかの魔術なりを使用する必要があるのか。


 答えは一つ。個人的にでも組織的にでも、少なからず、俺に興味があるからだ。

 俺はこの世界の住民でないのだから、戸籍なりの記録なりはない。調べれば遅かれ早かれ解ってしまう。

 ソコトラで俺が村の襲撃を知っていたと告白した時、そばで聞いていた兵士がいた。カダンは大丈夫って言ってたけど、誤魔化せていなかったとしたら?

 確かな証拠がないんだから、こっそり調べたりするかもしれない。


 そうか、俺はスパイか何かと疑われている可能性もあるのか。

 あのナキイさんに。すごく優しそうな人だって思ったんだけど、もしもそうだとしたら少しだけ、そう少しだけ嫌だな。でもカダンはそれを察して捕まらないよう警戒しているのかもしれない。


 やっぱりカダンがこの国の敵とかなのかも、いや、それはない。さすがにない。分からないことが多すぎるから嫌な風に考えるんだ。そうそう、きっとそうだ。




 孝宏が隣を歩くカダンを、横目で盗み見ると目が合った。


 眉尻を下げ首を傾げるカダンに、もはや緊張感など皆無で、一人で緊張している孝宏の可笑しさが余計に浮き彫りになる。


 実際、何も考えなければ、彼らに、カダンに違和感など覚えなければこんなにも緊張せずに済んだろう。


(でもカダンが監視じゃなくて俺を守ってくれているつもりなら、理由は一つしかないよな)


「もしかして、カダンって今でも俺を勇者だって思ってるのか?」


 初めから勇者ではないと否定している孝宏にとって、勇者の理想像ははるか高みにある。及第点に届いているとすら思っていなかった。


 派手に火を操れるが、戦闘はからっきし。いつも誰かに守られている。

 多少はピンチを救ったりしたが、ヒーローは最後にやってくる法則からすれば孝宏は常に引き立て役に過ぎず、やはり勇者ではなかった。

 故に孝宏はカダンたちの自身に対する評価も、魔力も禄に操れなかった、初めの一か月の内に一変しそのままだと思っていた。勇者失格と内心は思っているだろうと。

 孝宏にとっては恥ずかし記憶である、帰りたいと泣いたあの夜に、彼らの幻想は打ち砕かれているのだと、そう思っていた。


「もしかしてって…………」


 カダンは一瞬言葉を失った。孝宏の言葉に怒りに似た感情が音もなく沸き上がり、喉の辺りで燻っている。


「もしかして俺のこと馬鹿にしてる?俺は今でもタカヒロたちが勇者だって思っているよ。だって夢に見たし間違いない。この世界を救うのはタカヒロたちだよ」


 交わった二人の視線を通じてピリッと電気が走る。カダンの苛立ちや怒りが痛いほど伝わってくるが、孝宏も止めるわけにはいかなかった。


(怖気づいたら俺の負けだ)


「でも俺たちよりカダンやカウル、ルイの方が強いし、勇者っぽい。魔法も武器も使いこなしてさ。格好いいよ」


「それはカイさんに鍛えられたから。あっ、カイさんってのはカウルとルイの父親なんだけどね、あの人は中途パンパを許さない人で、村でもここまですることないってよく人から止められてたよ。気軽に教えて何て頼むんじゃなかったって思っていたけど……思わぬところで役に立つもんだよねぇ」


 人生何があるのかわからないとはよく言ったものだ。カダンはカラッと笑い、双子が寝ている部屋のドアノブを握った。


「カダンって何でナキイさんが嫌いなんだ?」


 孝宏は話を終わらせてはいけないと、無理やり会話を続けた。二人分の寝息が聞こえてくる部屋は暗く、彼らの姿は見えない。会話は中に入れば強制的に終わってしまうだろう。


 カダンはすでに片足を踏み入れている。


「別に?嫌いってわけじゃないよ」


 カダンはにっこり笑って言った。闇を背景に微笑むカダンはとても美しかった。







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