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夢に咲く花 76

「カダン!あれはいくら何でも失礼だ!」


 孝宏は自身の腕を引き、前を歩くカダンに向かって厳しく言った。


 カダンは明らかにナキイに対し敵意を隠そうとしていない。孝宏の怒りも同然だった。しかし、カダンは打って変わり、涼しい顔で振り返った。


「ごめん。タカヒロに何かあったんじゃないかって心配でつい興奮してしまって……タカヒロの言う通りだ。あの人には後でちゃんと謝るよ。でもタカヒロも夜に黙っていなくなるのは辞めてほしい。また何かあったのかと心配になるから」


「それは……確かに。俺もごめん」


「ううん、わかってくれれば良いんだ」


 カダンは孝宏の手を離した。大きいとはいえ狭い船内部屋まで何分も歩くわけでもなく、部屋に戻る僅かな時間、二人は黙って歩いた。孝宏は浮かない表情をしている。



(大体何でいつもカダンが俺を捜しに来るんだ?変だろ)





 まず気になるのはなぜカダンがここにいるか。夜中にいなくなった俺を探しに来たなら理解できるけど、昼間もわざわざ俺を探しに来ていた。

 ソコトラとか、山賊とか色々あったから、心配だって気持ちも解らないでもないけど、ここは兵士が守る安全な鳥の腹の中なんだから、外へ出れない状況でそこまで気にするのは過剰気味だ。夜ならいざ知らず昼間も。子供じゃあるまいし。



 今考えきれる原因は三つ。


 一つは軍の中に、森でマリーを攫おうとしたあの山賊やその仲間が、いるかもしれないとカダンが考え疑心暗鬼になっている場合。


 二つ目は俺に直接言えない何らかの理由でカダンが俺を見張っている場合。俺に言えない時点に俺にとって不都合である可能性が高い。


 三つ目はカダンが異常なほど心配性で、俺自身に固執している場合。でもさすがにそれはなさそうだ。一人になることはよくあるし、俺に執着しているなら常にそれらしい言動があるはずだけどそうでもないし。



 一つ目が原因である場合。カダンは誰が犯人だと思っているんだろうか。


 分かりやすいところだと、ナキイさんが第一候補に挙がる。

 何しろカダンがやってくるのは不思議とナキイさんと一緒にいる時だ。

 


 けどナキイさんは正規の軍人でしかも王子の護衛役を務めるほどの人物だ。身元は確かだろうし、離反を企てたりや敵対する国のスパイなどないと思いたい。


 軍全体が森での襲撃に絡んでいるのなら、もっと方法はいくらでもある。それこそ今回の作戦のように正式に要請すれば良い。


 そもそも森で襲撃された後に皆で話し合って一度は軍が関与していないだろうってまとまったのに、もう一度疑う理由は今のところないように思えるんだけど。


 仮にカダンが新しい事実を発見して、見方を変えたというのならあり得ないこともない。


 でもそれなら俺たちにも知らせて注意するように言言うだろう。現にこうして危機感を持たずに船内をふらふらしているのは俺だけでなく、カウルやルイも気分転換に部屋を出るなんてそっちゅうだ。



 森の襲撃の黒幕などではなく、軍が別件で俺を調べているとしたら、カダンが警戒する理由になるし、言わないのも、確信がないか心配をかけたくないかだろう。




 では二つ目が理由である場合はどうだろう。



 カダンは俺に何かを隠していて、それで俺が自由に動き回られると困るんだ。

 ならどうして隠さなきゃいけないんだろう。


 前にカダンが俺たちの存在が珍しいとかは言っていた。

 俺たちが他人のメリットになりそうな点は、異世界人で珍しく、自分の意志とは関係なく強力な力を持っているが故に人によっては良い研究材料という点だ。魔術を基本とするこの世界においては軍事利用もしやすいだろう。


 じゃあカダンは純粋に俺たちの身を案じて監視している?軍につかまってモルモットにならないように。初めはそんな事も言っていたし。

 そうだとしたら単純に嬉しいけど、俺の唯一の武器は凶鳥の兆しの炎だけ。特徴はどんな魔術でも打ち破る強引さで、それはオウカの魔術が同じ効果を持っているし、それにマリーのも同じことが言える。強力だが代用が効かないわけでない。

 今更俺たちにそれほど興味を持つかな?餅は餅屋というじゃないか。


 じゃあ逆に秘密があるのがカダンたちならどうだろう。拘束されるだけの理由をカダンたちはすでに持っていて、捕まるのを恐れて接触を避けている。犯罪者か実はスパイとか。

 もしもそうなら、ナキイさんがカダンたちを、優秀な新兵みたいだって言ったのと、一応辻褄は合う。

 俺がナキイさんと仲良くすればボロが出るかもしれないし、敵に塩を送るようになっては面白くないはずだ。

 カダンがあの化け物の仲間だとすると、俺を仲間に引き渡そうとするのかな。でも俺は戦争なんて巻き込まれるのは本当は嫌だし、人を殺せと言われても、俺自身にはやるだけの理由がないから殺したくないし、そもそも暴力とかいったのは俺には向かない。

 こんなにやる気のない奴足手まといにしかならないし、しかも代用の効く力をわざわざ拘る必要もない。

 俺ならさっさと不安の目は積んでおきたいと考える。


 でもこれはさすがにないかな。もしも、仮に、万が一、そうだとしたら、カダンが双子の両親を殺したも同然で、双子が加担していたならなお悪い。

 最悪のパターンだけど、もしそうなら、俺のあいつらに対する罪悪感はなくなるし、見ず知らずの村人たちに同情心が少しは湧くかもしれない。最悪な気分になるけど。



 でも仮に、カダンが監視しているとして、その理由よりも何よりも、一番は、カダンがどうやって俺の居場所を突き止めているのか、という方が俺にとっては問題だ。


 嗅覚と聴覚に優れたカダンだから、それらをフル活用すれば、俺を追いかけるのもできるかもしれない。

 だけどナキイさんはさっき色んな魔力が混ざっていると言ったんだ。

 あの時は凶鳥の兆しで頭がいっぱいで気づかなかったけど、俺の魔力と凶鳥の兆しの魔力と二つ混ざっているだけなら≪色んな≫という表現を使うか?いや、少なくとも三つ以上の魔力。誰の?俺と、凶鳥の兆しの魔力、それから別の誰かの魔力。


 カダンは前にも俺に暗示をかけたんだから、黙って俺に魔術を使うのに抵抗はないはずだ。



 ナキイさんと一緒にいる時に現れるのが偶然じゃないとするなら、カダンは俺に何らかの魔術で監視をしているとしたら。


 ナキイさんはカダンが表れた三回とも、俺に何かしたことになる。





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