夢に咲く花 72
そこは昔使っていた子供部屋だった。
子供一人で使うには広く、部屋の隅に敷かれた可愛らしくデフォルトされた動物のマットレスと大きなオモチャ箱。遊ぶスペースには困らなかった。
反対側にはクローゼットと今では窮屈になった、大きなベッド。
それらももっぱら遊び場だった。小石や虫の卵を持ち込んだり、布団に潜ってお菓子を食べたり。悪いことはいつも隠れてやった。
そのベッドの上に彼女は腰かけていた。
燃えるような長髪が彼女の表情を隠してはいるものの、俯き加減で首を傾げると、赤い口紅がからかうように笑みを浮かべている。
彼女が素足でベッドの上で胡坐をかいた。
出会って日の浅い彼女だが不思議と躊躇はなかった。
シャツのボタンを外しながらゆっくりと近づき、彼女を跨ぐようにベッドに膝をつくと、彼女の大きな目がこちらを捉え艶めいたのを見て胸が高鳴る。
ベッドに彼女を押し倒した。
「あっ」
か細く戸惑う声は女性にしては低く、ハッとして彼女の顔を見ると、すでに彼女は彼女でなく、男の、見知った少年へと変貌していた。
驚きはしたものの、すんなりと受け入れられたのは、おそらく初めからわかっていたからだ。
始めの彼女は、初めて彼と出会った時の容貌とよく似ていた。
「初めてなんで……あの、その、や……さしくお願いします」
少年は頬も耳も真っ赤に、潤んだ瞳で見上げ、行為をさも当たり前のように受け入れている様は、欲情にまみれている。
俺は少年に口付けを落とそうとした。
「…………! 」
ナキイは三段ベッドの一番下段でカッと目を開いた。
他の者は皆寝静まり、寝息とうなされているのか、苦しげな声が聞こえてくる。
ナキイはそのまま、一度は目を閉じた。
――ピピピッピピピッ……――
突然聞こえてきた、身に馴染んだ呼び出し音に、ナキイが舌打ちした。
一瞬の内に現実世界に引き戻され、カフスから下される命令を聞きながら、素早く起き上る。
ナキイは頭を乱暴に掻き、大きく溜息を吐くと、上着を掴み部屋の外へ出た。
目的の部屋の前まで行くと、テムラが立っていた。
護衛という名の監視役を業務的に交代すると、去り際テムラが言った。
「こんな時間に呼び出して悪かったな。今度奢るよ」
「気にしなくてもいいが、まあ、奢られてやっても良いぞ」
「何だよ、気にするなって顔でもないだろう」
「ああ……これはな、悪夢を見てな。寧ろ起こしてもらえて良かったよ」
「ちなみにどんな夢なんだ?」
「………………俺が犯罪者になる夢だ。嫌にリアルで気持ち悪い夢だった」
「ほう、お前が犯罪とか似合わないな。じゃあ、ここは頼むよ」
去っていくテムラを見送りながら、ナキイはぽつりと零した。
「そうでもないさ」
これからタカヒロを探らなければならない。
もしもその結果彼が黒だとしたも、拘束し突き出す。命令には従うさ。
まずは探る方法を考えなければならないだろう。不用意に触れればこれまでの二の舞いどころか、気付かれかねない。すでに警戒されているのだから、慎重になるべきだ。どうするべきか。
ナキイはテムラも指摘した、不機嫌に歪めた表情の、目付きをさらに鋭くした。
せっかくなので、R−18版をムーンライトノベルの方に上げました。
https://novel18.syosetu.com/n4401ha/
ちゃんとエロシーンを書くのは初めてで、頑張って出来るだけエロくしたつもりです。
ページで女偏 孝宏編 仮眠室を出た後 で分けてますので、好きなページをどうぞ