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閑話~ナキイの話~

この話は59話と60話の間に挟むつもりだったものです。

蜘蛛の巣を焼いて回った後、孝宏と別れた後のナキイの話です

「……はい、これから合流します。……はい……承知しました」




 孝宏は休んでも、ナキイにはまだやるべきことが残っていた。

 巨大蜘蛛の駆除をしているマリーの護衛。これがナキイの本来の任務である。

 一応役目を最後まで果たしたと対面を保つ為だったが、現場に着くとほぼ終わっていた。


 孝宏が蜘蛛の巣を焼いて回った成果だ。

 新手が現れず作戦の終わりが見えた。だだ、それだけで、疲労は大きくとも、兵士たちにはまだやる気がみなぎっていた。


 町のそこかしこで、巨大蜘蛛の死骸がゴロゴロと転がり、生きているものも追い詰められ、耳障りな鳴き声を巻き散らせていた。

 そこへ容赦ない刃が、次々と振り下ろされいく。


 マリーは一晩中、休みなく剣を振るっていた。疲労で限界も近い様に思われたが、ここで蜘蛛に止めを刺せる者を休ませるわけにもいかなかった。

 

(さっさと終わらせないとな)


 マリーになるだけ負担をかけないよう、ナキイは片っ端から巨大蜘蛛を拘束していった。後は、ただ剣を振り下ろせば、それだけで終わる。


 確認されている最後の一匹を片付けると、マリーは握っていた剣を消し、地面に座り込んだ。

 糸の切れた人形のように、だらりと手足を投げ出している。

 最早限界だったのだろう。懸命にバランスを保とうとしてたが、ナキイが手を差し出したとたん、もたれかかるように倒れ込む。

 ナキイは仕方なく、孝宏と同じく抱き上げてマリーを連れて飛行船へ戻った。

必然的にマリーと密着する事になるのだが、それを羨望の眼差しで眺めてくる者は多い。

 耳の傍で聞こえてくる規則正しい寝息に、ナキイは苦笑を漏らし、彼女を起こさないようゆっくり歩いたて、飛行船に戻った。

 マリーを部屋に送り届けると、ナキイの仕事もいったんは終わりだ。休むため部屋に戻ったナキイに、同室の兵士が声をかけた。


「なあ、お前が連れていた女の子、朝方、……その、変じゃなかったか?」


「彼女も夜通し巨大蜘蛛退治していたんだから疲れたんだろう?」


 初めナキイはマリーに好意を寄せている者だろう思った。いちゃもんを付けられるのではと身構えたが、相手は何やら煮え切らない様子だ。


「そう……なのか?いやぁ……」


「一晩中剣を振るっていたんだ。無理もないだろう?言っておくが変な真似をするなよ。あれは殿下のお気に入りだ」


「え?違う違う、さっきのマリーって子じゃなくて?もう一人の方だよ」


 マリーではない女の子と言えば一人しかいない。だがどうしてこの兵士が孝宏を気に掛けるのか、ナキイは少し気になった。


「ああ、タカヒロの方か。そうだったかな」


「もしかして…………」


 兵士の表情は硬い。


「彼女は男か?」


 若い大人の女性だと思っていたのが、少年に見えたのだと言う。まあ当然だろう。彼女は正真正銘少年で、男だ。気になったという事はそういう事なんだろう。


「残念だったな、彼は男だったよ」


「やっっっぱりかぁぁぁぁ………」


 がっくりと項垂れる同僚に憐れみと親しみを感じた。その兵士の姿はつい数時間前の自分の姿に重なる。


「ちょっといいなぁって思ってたのに、男だったのか……」


 火の蝶を操って町中を巡っている時の兵士達は一様に驚いていたので、他にも孝宏に恋慕している兵士はいたのかもしれない。いや、考えすぎた。性別が変わっていれば普通は驚くものだ。無視出来るのはよっぽど興味がない場合だけだ。

 作戦の要に興味がない兵士などいやしないだろう。


「男なんだよ。まいったよな」


 ナキイは吐き捨てるように言った。



 その晩のこと。休憩中の兵士達の集まるその場所は、協力してくれた民間人の、つまりは孝宏たちの話で持ち切りだった。


 話の中心はもっぱら双子やマリーだ。


 カウルはルイがこさえた複雑な武器を使いこなすだけでなく、いくつもの魔法具を駆使して戦った。しかも軍から支給された魔法具でさえも、兵士の多くが見知らぬ能力を引き出したのだ。その場の誰もできない事だった。

 マリーは、身の振り方、剣の扱い方、蜘蛛に対する警戒の仕方を、その場で、恐ろしい速度で洗練されていく様が、華麗で残酷で美しくも畏ろしくあった。

 ルイに至っては高度な魔術を行使するだけでなく、彼らが使うの道具のほぼすべてを作ったのいうのだから誰もが言葉をなくした。


 カダンは蜘蛛に止めを刺せる唯一の武器を早々に落とした為、現場が混戦状態に陥ったと評価されていたが、現場の兵士は口をそろえてそれを擁護した。カダンがいなければ、兵士の多くは命を落としていただろうと言うのが彼らの言い分だった。


 彼らのあまりもの非凡さに、中には他国の間者と疑うものまで出る始末だ。


 ナキイも一度は罠の可能性を考えた。それほどまでに、彼らの能力は自分たちに好都合で異様だったのだ。


 ただ彼らが、かの魔女の子供たちなのだと言われると、不思議なもので納得してしまったのだ。



「その中でもあのタカヒロとかいう女はパッとしなかったな。戦わないし、逃げるばかりで全く使えなかった」


「まあまあ、初めからそういう予定だったろう?何を期待していたんだよ」


「だって、他がアレだぞ?戦えないといっても、彼らの基準が高いだけかもって思うだろう?普通さぁ」


「お前の普通なんて知らねえよ。でもまともに見えていないならわざわざ現場に連れてこなくても良かったんだよ。ないと思ってた場所から出てきたりさぁ。ちゃんと見えてないなら意味ないって身に染みた」


「だよな。もうないって言われたら、ないって思うよな」


 孝宏の見落としが、現場の兵士達に混乱を与えたのは事実としても、初めからその可能性を含めた上での作戦であったのにも関わらず、好き放題言う若い兵士たちの会話は、傍で聞いていたナキイにとって耳障り以外の何物でもなかった。


 作戦を把握しきれてなかった兵士の責任転嫁だ。ナキイがそう言おうと口を開いた時だった。


「ヒタルナキイ殿はおられるか?」


 来訪者は、長くはないが短くもない垂れた耳と、短く飾りのような尻尾を持つ、兎人の二十台も半ばの女性の兵士だ。


「俺だ。何か?」


 魔人が人口の半分以上を占めるこの国に置いて、軍隊でもそれは変わらず、それ故なのだろうが、同人種同士交流は特に多かった。ナキイも獣人の知り合いは多いが、彼女は見覚えのない相手だ。


「ああ、タカヒロと言う女性が、実は男だったと言う噂を聞いてな。本当だろうか?」


 兎人の女は大真面目な表情だ。噂がどんなふうに広まっているのか、ナキイはため息を吐いた。


「そうらしいな…………が、どうして俺に?」


「親し気に話していたと聞いて、知り合いかと思ったのだけど……違うのか?」


「知り合いというか、巨大蜘蛛が現れた時偶然一緒にいただけの関係だ。会えば挨拶を交わす程度には……でもどうして?彼に興味でも持ったか?」


「ああ、将来有望な男子とお近づきになりたくてね。もしよければ紹介してもらえないだろうか?」


 横で二人の会話を聞いていた男の兵士が、笑って二人の会話に割って入った。


「将来有望なら目の前の男の方が良いだろうに、狼人たちならまだわかるが、なんだってあんな小僧を……」


 女の兵士は得意げに男の兵士を見下ろし、にやりと笑った。


「お前たちも今話していただろう?六眼はほとんど見えていなかった。戦闘には不慣れで、戦いでは使い物にならなかったと」


 それがどうして有望になるのか。割って入った男だけでない。他の兵士達も、ナキイにも分からなかった。


「壁に潜む蜘蛛に気が付いたのは、実は彼なんだよ。私が見えるのかと聞いたら、見えない、とはっきりと言っていた。けれど壁から崩れ落ちた小石だけで隠された何かに気が付いたんだよ。これは普通なんですか、とも訊かれたな」


 あの時の混乱ぶりはどの現場でも大差なかった。なのでどの兵士も女の言わんとするところを察したようだった。

 ある者は目を見張り、ある者は口を閉じるのを忘れ、孝宏の話題を持ち出した兵士たちは驚愕の表情を浮かべた。


「皆の噂を聞いて驚いたよ。彼は誰もが巨大蜘蛛に気を取られている中で、六眼がろくに見えていないのにも関わらず、目の前に沸いて振ってくる脅威に目を奪われることなく、上から降ってきた小石一つで、敵の罠に気が付いたんだ。彼だけさ。戦闘に不慣れな15の子供がだ。彼の冷静な判断力は十分尊敬に値するね。誰にでも向き不向きがある。戦闘が出来ないのはさして問題ではないのさ。少なくとも私にとってはな」


 彼が戦えないのなら私が守れば良いのだからね。兎人の兵士はカラカラと笑う。


「なるほど、あれはタカヒロが……そうか」


 ナキイは自分のことではないのに、それどころかほとんど孝宏とは関係がないと言っても過言ではない程の関係にも関わらず、嬉しく、誇らしくなった。



「と言うわけだ。頼めないか?」


「挨拶を交わす程度の仲だ。機会があれば構わない……それよりもあんたの名前を知らないんだが」



「ああ、それは済まなかった。私はイユセ・ナツトだ。よろしく」



「俺の名前は……知ってるか、よろしく」


 二人は握手を交わした。



 孝宏に助けられたという親子が訪ねて来くるのは、この数日後の出来事である。




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