冬に咲く花 15
孝宏は真っ直ぐに家の裏に回った。
家の裏には腰程の高さの塀に囲まれた井戸があり、井戸から3m程離れた場所に小さな物置がある。物置のとなりには二本の木の柱と、その先端にロープが渡して張ってあり、現在は獲物が逆さまにぶら下がっている。孝宏はハッとして足を止めた。
丁度カダンが井戸の傍で手に付いた血を流している最中だった。布の上に広げられた生々しい毛皮が目に飛び込んでくる。
「タカヒロ、帰ってたんだね」
カダンが孝宏に気が付いて声をかけてきた。
「いや鉢探しに来たんだ。これを植えようかと思って」
孝宏は余計な物を見たくなくて、出来るだけ自然に見えるよう視線を手元の赤い草に落とした。
肉が肉として加工されるまで、頭では知っているつもりでも実際に見るのではまるで違う。初めて見たときは隠れて朝食を吐いてしまった。その時の衝撃は今での鮮明に記憶に残っている。
「ってそれ!?まさか見つけたの?すごいね、俺初めて見たよ!」
孝宏が落とした視線を追って、両手で大事に持っている物に目を止めたカダンが、左手で自分の太ももをパーンと叩いた。
カダンが小走りにこちらに近づいてきたが、カダンの持つ小刀が目に入り、孝宏は左足を一歩引いてしまった。血の付いたままの小刀は、孝宏にとって今も恐怖で、まだしばらくは慣れそうにない。
「もしかすると、タカヒロにもきっと恋人が見つかるかも知れないよ」
「な!?は!?っえぇ!?」
今までの流れでどうしてそうなるのか。しかし全く的外れでもないカダンの発言に、しどろもどろになり上手く言葉がでなかった。
否定する間もなく肯定したも同然の反応があまりに恥ずかしく、心臓がトットットッと早く打ち、顔が熱くなる。どうしていいかわからず指が鍵盤をはじくようにバラバラに動いた。
弾みで手に持っていた幸せの草を落としそうになり、慌てて胸に抱え込んだ。
カダンは手に持っていたナイフを、井戸の側に器用に投げて地面に差した。桶の水を組み直して、自分に付いた血を綺麗に流し、獣と毛皮には丸めていたシートを広げて被せる。
作業をしながらカダンが言ったのは先程の言葉の続きだった。
「スズキが街に行く時も、マリーが訓練している時も、よく変な顔で見てるでしょ。バレバレだよ」
「別に俺はそんなつもりじゃ……」