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夢に咲く花 46


 

 マリーは草むらの影から見た光景を思い出し顔を引きつらせた。


「そう言えばそんなこともあったかな。でもあれは魔法を使っているようには見えなくて……別の印象を受けたと言うか…………何というか………」


 マリーが口ごもる。昼間とはいえ雨戸まで締め切った部屋は薄暗く、赤く頬を染めたマリーの顔を誤魔化した。

 孝宏の傷を癒す行為のはずが肌を愛撫しまぐあう――ようにみえる――様子は、どうしても情事の最中であるかのようで、見ているだけでたまらなく恥ずかしかった。

 そう見えてしまった原因はカダンにあるのだが、悶え苦しむ孝宏も要因の一つだ。孝宏は体内に注がれる魔力に凶鳥の兆しが反応し苦しかっただけなのだが、遠目に見ているだけではそれが解りづらく、結果誤解を招いてしまった。

 マリーには解らないが、二人はああなる事を予想していたに違いない。ルイはというと、嫌気が滲むため息を吐いた後はずっと彼らに背を向けていた。兄弟同然の従兄の濡れ場など見たい者などいるはずもない。


「別に普通だったと思うけど……」


 カダンは首を捻る。さも当然と言わんばかりのカダンに、マリーがつい声を荒げた。


「普通?アレが?ルイだってかなり引いてたよ?!」


 わざわざする必要もないのに、唇を傷口に密着させ肌の上を滑らせ、挙句の果てには孝宏の上の馬乗りになり押さえつけ手で撫で噛み痕を残す。それのどこが普通なのか。

 マリーが見たありのままの光景を口にすると、傍で黙って聞いていたカウルが口をグッと真一文字に結び眉間の皺を一層刻む。眉間に指を当て軽く首を横に振った。ただ一人カダン本人がきょとんとしている。


「何のことだか。傷とかに軽く吹きかけただけだよ。遠くから見たからそう見えただけ」


 カダンはため息交じりにこぼす。それがあまりにも自然で、マリーはそうだっただろうかと再度あの日の記憶を思い返したが、どう思い出してもカダンは孝宏の肌に直接口づけていたし孝宏は可哀想な程に悶えていた。

 納得していないマリーを見て、カダンはワザとらしい大きなため息を吐いた。椅子に座り興味なさげに頬杖をついて、しっかり閉じられた窓を見る。 


「カダンってあまりタカヒロと会話とかってしてなかったじゃない?前は嫌ってるのかと思ってたけど、逆なんだ」


 カダンのそっけない態度は、マリーには関係ないらしい。一方的に喋り続ける。


「興味はあるけど、逆に気になりぎてどう接して良いのか分からないってやつでしょ?青春って感じでなんかムズムズする。歳も同じくらいだし、お似合いだよ、うん!」


 親指をカダンに向かって立てる。異世界では通じないハンドサインにカダンが首を笑みを浮かべ首を傾げた。


 マリーが一人盛り上がって行くのを、カウルはハラハラしながら見ていた。

 カダンが孝弘絡みの話題を嫌がるのは初めの頃からずっとだ。ルイもカウルも、カダンの孝弘に対する扱いがあからさまに違うのに気が付きつつも深く尋ねたりしなかった。

 なのでカダンが不機嫌に眉を潜めずわざとらしくない、自然な笑みを浮かべたのは、カウルには意外だった。


「俺がタカヒロを嫌ってるって、そう見えてたの?」


「ええ、だってあまり喋ってなかったし……まあ、それはタカヒロに限らなかったけど、でもタカヒロと話す時は、私にはカダンが不機嫌に見えてたから。私と話す時はそうでもなかったし余計にそんな感じがしてただけかもしれないけど」


 カダンは椅子から立ち上がり、床に座り込むマリーの前に両膝を付いてしゃがみ込んだ。


「え?」


 カダンの妙に真剣な眼差しが知らない人の様に感じる。マリーは緊張し身を強張らせた。それを見たカダンがふんわり笑った。


「まさかタカヒロを嫌ったりしてないよ。そう見えたのは、多分俺にとってマリーが特別だったからかも。マリーと話している時は……すごく………何ていうのかな、ワクワクというか、緊張……していたから」


 カダンはカウルを見るとハッと目を見開き、気まずそうに視線を落としたが、マリーと目が合うと恥ずかしそうに頬を染め微笑んだ。


「え?」


「へ?」


 突然何を言い出すのか。マリーも、傍で立ってみていたカウルも理解が追いついていなかった。

  カダンは地面とマリーとの間で視線が泳ぎ、やがて意を決して顔を上げ、今だ照れが残る顔ではにかんだ笑顔を見せた。 


「ずっとマリーのこと素敵だなって……本当だよ。俺、マリーが好きなんだ」


「あ、ありがと………でも、私は……」


 突然の告白に嫌味な印象はなく、むしろ人懐っこい笑顔にマリーは笑顔を引きつらせながらも若干耳が熱くなった。

 マリーが引きつった笑顔しか浮かべられなかったのは、恋仲になりえないはずなのに間違いなく目の前の彼を魅力的に思う自分がいて、背後のカウルの存在を思い出しヒヤリとしたからだ。

 年下の男など恋愛の対象にならないと思っていたが、こんな時でなければうっかりその気になってしまったかもしれない。もしくは女としてライバルになりえると警戒せざる得ないか。

 それだけカダンは美しくて、見事だった。今の会話の流れでどうしても拭えないはずのわざとらしさをどこかに隠し、やや上から見下ろす形なのにも関わらず、高圧的でなく伺うような下出な態度。今初めて出会ったかのような印象さえ受ける彼は、頬を染め子供っぽさを残しつつも妖艶さを兼ね備えていた。そのギャップがマリーにはたまらなく魅力的に映る。

 マリーはこの時初めてカダンは他者を魅了する能力に長けていると確信した。


「タカヒロからマリーに鞍替えするつもりなら諦めろ。いくらカダンでもそれは許さん」


 明らかに不機嫌なカウルの声がして、マリーの目は大きくて堅い手に覆われた。逞しい腕が背後からマリーを抱き寄せ胸で優しく受け止める。

 特に喧嘩をしたわけでもないのに、腕輪を無くしてしまった気まずさからギクシャクして一週間。ようやく元に戻れそうだ。


「へえ……」


 カダンがにやりと笑った。それは双子と喋っている時のいつもの彼だ。


 マリーはホッと胸を撫で下ろしつつも、瞬時の変わりようにやはり揶揄われたのだと少し残念な気持ちになった。マリーをか、おそらくはカウルを。

 少々デリカシーに欠けるが、マリーにとってすればそんなことよりもカウルとの関係が重要だった。マリーは体重をカウルに預け、頭を胸に軽くすり寄せる。マリーの目を覆っていた手が今度は頭を優しく包んだ。


「自分が孝弘と喧嘩して面白くないからって、こんな八つ当たり仕方はどうかと思うぞ」


 カウルもカダンがマリーに対して本気で好いているとは思っていなかった。カダンの言動を腹を立てている言うよりも、むしろ呆れていると言った方が正しいだろう。


「あんな男を相手するからこじれるんだ。自業自得だ」


「あんな男って誰?タカヒロのを言ってるの?」


「ん……いやぁ……」


 今の話の流れから≪あんな男≫が孝弘でないのは明白だったが、マリーは他に心当たりもない。≪あんな男≫に心当たりがなさげにしているのはカダンも一緒だった。


「何のこと?」


 知らないと言わんばかりのカダンにカウルは半ばあきれつつ首を振る。


「別に心当たりがないなら良いんだ。気にするな」


 この手の話題で図星を付かれたカダンの機嫌がすこぶる悪くなるのを、カウルはこれまでの経験上良く知っていた。カダンがとぼけている内に、出来るだけこの話題を終えたくて、カウルは早々に会話を終了させた。




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