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冬に咲く花 12

 ヒラリヒラリと舞う蝶は、気品と美麗さと炎をまとっていた。


 チラリチラリと火の粉を撒き散らし、孝宏の周囲を炎に包んだ。清潔な白いシーツと乾燥した藁に降りかかった火の粉は見る間に燃え上がり、孝弘は未だ癒えない傷を負ったまま、ルイの用意した魔法陣の外に飛び出した。

 床に這いつくばっていたが、足と背中に熱を感じて無我夢中で床を転がった。

 すると魔法陣の中ではまるで感じていなかった疲労が襲い、思うように動けないばかりか、強烈な吐き気を覚える。

 震える足に力を込め、食卓の椅子に手をかけて立ち上がろうとした時、孝宏の手元から不自然に炎が吹き出した。

 吹き出した炎は生きているかのように勢いよく腕を遡り、胸を、頭を、胴を、足を飲み込み、皮膚は黒くただれ、痛みが骨まで達した。


 孝宏の絶叫が台所に響き渡り、彼はその場に崩れ落ちた。それからカウルに頬を叩かれるまで、動けず、その場で震えていた。



 炎に包まれてからカウルが来るまでの間を、彼はよく覚えていなかった。ただ気が付けば炎は消え、焦げた家具も、黒くただれたはずの皮膚も綺麗なままで、台所は夜の静寂に包まれている。

 悪夢を見たのだろうと、ルイがホットミルクを作ってくれたが、皆が部屋に戻って一人になって、結局その日は一睡もできずに夜があけた。








「面白くないな」


 作物が膝丈まで伸びた畑の中で、孝宏は額の汗をぬぐった。骨まで沁みるほどの寒さだと言うのに、服が汗で肌に張り付き、急速に体温を奪っていく。


 異世界に落ちてしまってから繰り返される生活に、孝宏は面白みが感じられなくなっていた。とは言え初めから興味が全くなかったわけではない。

 地球とよく似ているが違う世界は、忘れていた探究心がくすぐられ、始めの一週間は慣れるために翻弄し、次の一週間は好奇心を満たした。


 空に昇る二つの太陽に、真っ青な色の果実。獣の耳や、背中に翼の生えた人間が闊歩する街は、探索していて楽しかった。しかしそれも一ヶ月が経った今は、反動からか倦怠感に襲われ地球が恋しく思い出される。


「確かに異世界ってかんじだよな」


 畑の中、雪に埋もれて整列した植物は、地球と同じく緑の葉を茂らせているが、その合間を縫うように動き回る小さな影もまた、同じように葉を茂らせた小さな若木だった。


 若木たちはいくつかある枝を器用に使い、畑の脇に山と積まれた雪をせっせと運んでは畑に撒き、押し固めては運んでと繰り返している。


 真っ白な雪は、次第に艶やかな氷となり、冬の弱い日差しに反射して七色に輝く。

 この地方では雪はめったに降らない。なのでこの雪はルイがわざわざ、池の水を雪に変えたモノだ。雪で覆い固めるため、土中の実の甘さが増すのだという。


「よっこいせ!これ本当にやり方!あってるのか!疑わしいよなっと……」


 せっせと働く若木に混じり、孝宏も雪を運んでいた。初めは見ているだけのつもりが、いつの間にか同じようにせっせと雪を運んでいるのはほんの気まぐれだ。



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