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冬に咲く花 10


「少し位は眠かったり、怠かったりしない?」


 調子が良いに越したことはないと思うが、彼には違うらしい。真剣な目つきで床の文字を、床に付けずになぞり始めた。


「おい、ルイ。どうしたんだ?」


 カウルがルイの背中越しに床を覗くが、ルイは構うことなくポケットから紙を取り出し、床の文字と照らし合わせている。


「魔法陣、この設計図とはあっているけど……」


 ルイが自信なさげに呟く。相変わらず表情は曇ったまま。今のままで何がいけないか尋ねたい気持ちと、邪魔をしてはいけない理性とがせめぎ合い、結局何も言えず次の言葉を待ったが、ルイは《調べる》と言い残し自身の部屋に引きこもってしまった。


 孝宏は呆け有り余る体力を持て余していた。このままじっとしているのは耐えられず、無意識にアグラをかいた膝を揺らす。


「光の力が強すぎるんだよ」


 カダンが文字の一部、陣の端、壁に接する部分を指差した。


「この式じゃあ、光が集まりすぎる。タカヒロがじっとしていられないのはそのせいだね。多分ココとココを入れ替えて、これをココに加えれば良いと思うんだけど……」


 カウルが浅く、何度も頷く。そればかりか地球出身の二人までもが同様に頷くあたり、置いていかれているのは孝宏だけのようだ。

 カダンとカウルは当然として、地球人の二人まで頷くのはどういう訳だろう。自分の意識がない間に、世界に馴染んだ二人に途方もない距離感を感じる。


「つまりね、バランスが大事なんだよ。一方の力が強いから、本来とは違う作用が生まれる。魔法はそういうものなんだ」


 カダンが説明してくれても、孝宏にはさっぱり理解できない。


「まあ、解らないのも無理はないか。しょうがないから説明してやる」


 カウルが大げさに咳払いをした。


「そっちの世界ではどうかは知らないが、闇は夜に通じ、光は昼に通じる。傷や体を癒すのは夜で、すなわち闇。光は活動するのに必要な力をくれる。単純に言えば通常よりも強力な力と、強靭な肉体を手に入れることができる。便利なようだがその反面、体に疲労が蓄積されても気付きにくい。多用すれば気が付かない内に体の機能が壊れ、最悪突然死ぬことだってある」


 そのあとをカダンが引き継ぎ続けた。つまりね、と孝宏に笑顔を向ける。


「今のタカヒロが元気なのは、光が作用していて体は癒えていないのに、無理に動かしているということ。光の力がなくなれば、とたんに動けなくなるよ。地球だって、ずっと動き続ければ体を壊すでしょ?薬で誤魔化しても、癒えてはいないから倒れちゃう。それと一緒だよ」


 夜になれば眠りについて、体を休めると同じ。今一番必要なのは動く体ではなく、傷を癒し休めるということ。それならば、寝心地の良いベッドなり、気分的にも休める場所があるだろうに。それが台所で寝転ぶはめになっているのはどういうわけだろう。確かに心地よいが釈然としない。


 孝宏以外の四人が魔法陣談義に花を咲かせて数分後、ようやくルイが部屋から出てきた。


「思ったより早かったな。魔法陣の式はわかったか?」


「もちろん。伊達に魔術師を目指してないよ。本当は、本なんて見なくてもだいたいわかっていたんだけど、念の為に確認しただけだよ」


 ルイは手に持った紙を見ながら、床の文字を数箇所書き換え、最後に床を三回叩いた。



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