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夢に咲く花 11


 男たちはうすら笑みを浮かべながら、孝宏を子供だと言い笑い合っている。


「こんなんじゃ、値が付くのかも怪しい。本当に大丈夫なんですかい?お頭」


 お頭と呼ばれたのは、何もせずただ立って見ているターバンの男。


「もしも奴隷にするなら、少々厄介な年頃だが……まあ、悪いようにはならないさ」


 

 誰もが同じように笑っていたのだが、男が一人何かに気が付いき、笑ったまま顔を引きつらせ、言葉を失った。


「どうした?相棒。さっさとそれを取っちまいな。ふん、魔法具なんて付けてやがる。生意気なガキめ」


 これ幸いと孝宏は心の中で得意気に舌を舐めずり、盗賊まがいの連中を一気に焼き払うつもりで、怒りを腹に溜め始めた。しかしその男はなかなか籠手を取ろうとせず、むしろ眺めては、奇妙にぶつぶつ言っている。


 仲間の二人も、ターバンを巻いた見ているだけの頭の男も、何も答えない男にじれったく思い始めていた。


 頭にどうかしたのかと尋ねられ、ようやく男は口を開いた。


「お頭、こいつはもしかすると取らない方が良いかもしれん。むちゃくちゃじゃい。何かがおかしい気がする」


「おかしいってどういうことだ?」


「こいつは封印具なんじゃが、ただの封印具ってだけなら何て珍しいことはない。しかしこれは…………こんな子供に付けるようなチャチイ代物じゃあねぇ。しかも術式はめちゃくちゃで、それでもしっかり封印具して機能している」


「………つまりどういうことだ?」


「この形式の代物を作れる職人は、ほんの一握りしかいない。と言ってもこれはそれほど複雑じゃあねえから、俺でも読み解けるがな」


 男は一度言葉を区切り、咳払いをした。


「一見するとこれは単純な、しかも術式を間違えて彫ってあるんじゃが、本当はいくつもの封印の術を、掛け合わせた式になってるんじゃ。様々な術を組み合わせることにより、複雑かつ、封印の強度が増す。これをそこらへんの魔術師が着けても、動くのがやっとかもしれん…………これほど強力な魔法具を着けて、平気な顔をしているこの子供は間違いなく…………化け物じゃい」


「お前がそう言うならそうかもしれねえな。よし、お前ら、このままこいつらを拘束しろ。万が一魔法が解けても抵抗できないようにしっかりな」


 男は孝宏たちをロープで縛り、一か所にまとめ周囲に小さな像を三体置いた。三つの像は淡い光を放ちそれぞれを結び、淡く銀色に発光する壁を作り出した。壁の向こうが霞む。


 これからどうなるのだろうと、孝宏は転がされたまま男たちを盗み見た。

 盗賊か山賊か。こんな輩をなんと呼ぶのかは知らないが、身なりは良くとも、中身は碌な人間じゃないのは確かだ


(きっと逃げる隙はあるはずだ…………何か……どこかに、きっと……)


 ふと茂みの向こうが気になった。マリーの悲鳴は聞こえたが、カダンの声は聞こえなかった。遠くの匂いも嗅ぎ取れるカダンだ。もしかすると無事に逃げて、様子を伺っているかもしれない。


(全員捕まったとかないよな?洒落にならん)


 孝宏は男たちの視界から完全に外れたのを確認して、少しだけのつもりで目を閉じた。暗転の中で、腹の奥を探る。


 いつも感情のままに疼く腹の奥も、籠手を装着してからと言うもの、それまでが嘘のように静まっていた。


 火が噴かないよう常に気を張っていたので、心の平穏は取り戻したが、今は窮地に立たされている。


 カダンやルイは魔力の制御ができるようになれば、自分で外せると言っていたがそんな日はいつ来るのだろうか。


(俺、いつまでもこのままのような気がする)




──そんなことはないさ。やろうとすれば、案外今すぐにでもできるかもよ?──




 不意に聞こえてきた声。孝宏は男たちを見上げた。幸いにも、男たちは背を向け何やら話し合い、こちらを見ていなかった。


(ああ、でもこの男たちの声じゃなかった。誰だろう?もしかしてカダン?)


 それともそれ以外に人がいるのだろうか。周囲を探ろうにも、体が動かせないのでは見える範囲は限られている。孝宏が知る限り、自分たち以外では車を引く牛が二頭だけ。


(やべっ!)


 周囲を伺っている時、孝宏はうっかり男の一人と目を合わせてしまった。慌てて逸らしたのが、余計に不自然だったのかもしれない。

 それは孝宏を化け物と言いきった男で、猫背気味の背中を一層丸め、ジットリと孝宏に視線を向けてくる。

 男がゆっくりと結界の傍に歩み寄りこちらの様子を伺う気配を感じながら、孝宏は視線をまっすぐ地面に向けたが、とても誤魔化せるとは思えない。自身の荒く震える息づかいが嫌に耳に付く。心臓が激しく打ち付け、焦りが孝宏を一色に染め上げた。




──恐怖を閉じ込めるな──




 再び聞こえてきたその声はずいぶんと間抜けを言う、と孝宏は思った。孝宏はすでに怒りと恐怖に震え心を歪ませている。


 そんな時、茂みの奥からやってくる影があった。


「お頭連れて来ましたぜ。探しているのはこの女でしょう?」


 野太い男の声がしたと思えば、茂みの奥、マリーたちがいた方向から男と、その男に連れられたマリーが現れた。

 孝宏を怪しんでいた男もそちらに気を取られ、完全に孝宏を忘れてしまったようだった。

 むしろ今、孝宏を気にする余裕のある男は、この場には誰一人としていないだろう。当の孝宏でさえ、疑われていることよりもそちらに気を取られ完全に無防備でいた。


 助かったとか、今のうちに何とかしようなどと考える余裕もなく、目の前の光景に思考の殆どを支配されていた。

 先ほどの悲鳴、やはり二人も襲われていたのだ。しかもおそらくは風呂の最中に。


(マ……ママ…………マッパァー……?)


 マリーは出来るだけ身を屈め、周囲の視線から身を隠そうとしているが、男たちの下世話な視線が彼女にまとわりつき、好奇の目にさらされている。


 口の中に布を詰め込まれ悔しそうに、それでも羞恥心など感じさせない眼光が、ターバンの男をまっすぐに射抜き、男は不機嫌そうに眼を細めた。


「なんて恰好させてやがる。凍死させるつもりか?」


「ですがお頭、この女風呂の最中で元から何も着てなかったんですぜ?それに服を着せようとしても、魔法を使うわ、反撃してくるわで…………何もできない小娘って話じゃなかったんですか?」


「そのはずなんだがなぁ。まあ、それでも言っておくが、この女には傷一つでも付けたら承知しねぇぞ」


「いきなりどうしたんですか?…………まさか……ほれ……」


「この娘は無傷って約束だ。ふざけてないでさっさと連れて行け。」

















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