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冬に咲く花 9

 そもそも始まりはカダンが暗示的な夢を見たあの日。マリーと鈴木が立て続けに現れた日の事だ。畑の手入れを魔法の人形に任せ、ルイ自身はが畑の脇、木陰で魔術書を読んでいた時だった。

 風が吹かない中、林の奥で木がワシャワシャと揺れた。初めは気にも止めていなかったが、それは次第に間を詰め数分後、それらの影がルイの視界に入った。それらは三本の《カンギリ》の木だった。

 カンギリは言葉を喋る木で大陸北部に主に生息する、植物でも人でもなく、根を張らない為どこへでも自由に移動する特別な生き物だ。


―異世界への扉が開いた―


 左端のカンギリが言った。


―犠牲者が三人現れた―


 真ん中のカンギリが言った。


―ううっ…―


 右端のカンギリが呻く。


―犠牲者を…勇者とぅええええ!!―


 右端のカンギリが言い切らない内に、大きく開かれた口から大きな塊が中からこぼれ落ちた。透明の液体にまみれ、ベチャっと音を立てて地面に落ちたそれは、明らかに人の形をした生き物だった。

 人の形をした生き物は激しく咳き込み、獣の呻きに似た声はものの数秒で止み、その後立ち上がりはしたものの、そのまま動かなくなってしまった。

 ルイは透明の液体がカンギリの樹液だどすぐに気づいた。カンギリ独特の甘い匂いがあたりに充満していたからだし、何よりカンギリの中から出てきたのだから、少なくとも彼らの体液なのは間違いない。


「これは一体何の真似?わざわざ人間を体内に取り込んで……」


 カンギリが一斉に枝葉を揺らした。


―ワシャワシャ―

―ワシャワシャ―

―ワシャワシャ―


 カンギリ同士は枝葉を揺らして会話する。人にわかるはずもない。すでにカンギリが吐き出した人間はカチコチに固まっている。樹液が固まるのが早いのもカンギリの特徴だ。


「それで、僕はカンギリの樹液を溶かすために、すぐにお湯を沸かしに行ったんだ。けど、家に帰ると、カダンとカウルが知らない人たちと一緒にいて、異世界から来たって言うからいろんな話をして……」


「それで俺を忘れたんですか?」


「……うん、でも呼吸しているのは確認したから緊急性は低いと思って…………その本当にごめんなさい!」


 なんて衝撃的な話なんだろうか。生き物の口の中から吐き出された結果がこれだ。吐瀉物なんて単語が脳裏を過ぎる。美しい響きはかけらもない。

 目を覚ましてすぐは拘束されたと恐怖を感じたし、思うところがまったくないわけではないが、献身的に看病してもらえ今は快調そのもの。孝宏には不都合などないように思えた。


「でも、思い出して助けてくれたんで大丈夫です。ありがとうございます」


「……お前、変な奴だね。怒らないの?」


「まあ、結局助かりましたし?それにおれすごく調子良いですし、全然大丈夫です」


 カダンは死にかけたと言っていたが、孝宏自身はそれが信じられない程いつも以上に快調で、今ならグランド10周くらいはできそうだ。両腕を振ってアピールするが、ルイの表情が思いかけず曇った。



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