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ここから、進んでいきます。
海晴に話せば、好きにしな、と一言。自分がどうこう言う立場でないとか。
喜んではいたものの、やはり寂しそうに感じたのは気のせいではない。世泉としても少々複雑な心境であった。
何度か帰ると約束したら、嬉しそうにしていた。
その後に三芳のところにも行き伝えた。三芳は世泉の好物、いちご大福をお祝いにと渡し、応援して見送ってくれた。
年が明けて早1週間。
街外れのほうではあったが、度々呪詛をかけられた人間が暴れているのが多く見られるようになった。また人間でない他の種族も頻繁にかけられているようだった。
王である千歳注意を促し現状を告げた。街には次第に緊張感が増してくる。民は不安を募らせ王に謁見を求める者まであった。しかし、徐々にそれも薄れていった。
自分たちにはナーガがいるではないか。と口々にした。彼女には大きな、否、見えないくらい大きく重くのしかかる責任と重圧があるのだ。
「被害件数、これで10だな」
「まだ1週間ですよー。」
「動き出している、みたい」
「それは、どういう」
雅はげっそりと項垂れていた。千歳は何か異変を僅かにだが、感じ取っているようだった。
「前にも話した通り、僕が、この姿になった、原因」
「王さま…」
「世泉、これ…」
千歳は世泉に遠隔通信のため、と言って1枚の封と、もうひとつ、セピア色の封を渡した。伏見の大きな神社へ向かい、出迎えてくれる人に渡せとだけ。世泉も詮索する事は無かった。
そこで話したいこともある、とだけ。
昔の争いがどんなものであったかなんて分からないが、取り敢えず、すぐに支度して伏見の街へ。
伏見の街は他種族の多い街で、妖と呼ばれる類の種がちらほら見かけられる。
宇治の街から北へ行くと伏見。南へ下ると太秦という街がある。東国はこの3つの街で成り立っている。それでも他国に比べれば、とても小さな国。
3日かけて伏見の境まできた。元々、王の屋敷はそれぞれの街と街との境近くにある。
また、こちらに向かう際に千歳に一緒に連れて行けと、こいつが案内してくれる、と。
真っ黒で気持ちよさそうなふわふわな毛に、真っ赤な目をした生き物を見せられた。皆は鵺と読んだだ。聞いたことはあったが、数少ない希少種だとも聞いていた。世泉の肩幅より大きいぐらいで、背丈は胸下ぐらいの、顔は美人だ。
人間以外の種がいるならば、それは動物にも言えることで、様々生き物がいるのだ。
名を聞くとリエフと言うそうだ。このこの主人は世泉の向かう伏見に先に出発したとのこと。
「リエフ、お前は疲れてないか?」
「グルルゥゥ!!」
下顎を撫でれば気持ちよさそうに目を細めた。リエフは希少種の鵺の中でも希な方らしく耳が三角で、額の真ん中には角が1本凛々しく生えていた。
そして、屋敷に置いてきた槐を思い出す。上手くやっているだろうか、と。やっぱり連れてきた方が良かったか、と。千歳も雅もいるのだし、大丈夫だと世泉は頷いた。
だいぶ陽も落ち、暗くなり始め月が白く見えた。何処か宿を探すにも街外れのほうでは中々見つからない。それにこの獣もいるわけだ。人を喰いはしないだろうが、初めて見る人ならば誰しもが怖がるに違いない。
小さくなれないか、と聞いてみるも分かるはずがない。足取り重く歩を進める。
小さな村だがなんとか宿を確保した。リエフのことも快く引き受けてくれたのだ。開き戸から入るにはギリギリで宿主が後ろから押し、世泉が前からそっと引っ張るという形で事なきを得た。
そうして中に通されると何故だかボンっと音を立て、膝あたりまで小さくなったのだ。確かに、今までの大きさじゃ廊下もぎりぎりだ。ましてや、部屋には入れない。その状況を察したのだろうか。
「可愛くなったな」
「キュルウゥゥ!」
「あ、ちょっ、おい、くすぐったい」
戯れるように、足に擦り寄り、世泉が座ると服と羽織りの間から顔を出した。
その後夕食を食べ、一緒に風呂へ行き汗を流した。寝ようとしたきに枕元まで寄って来て、まるで自分を枕にしろとでも言っているようで、遠慮なくそうさせてもらった。腹の方は体毛は薄くて丁度いいやわらかさ。一気に眠気に襲われた。お風呂の後でいい匂いに包まれながら、睡魔に身を委ねた。
次の日は朝早く宿を後にした。なるべく早く会うようにとも言われていたので、その通りに日がまだ完全に登っていない内に出発。
中々いいものだ。空気も澄んで綺麗だ。雪もキラキラと宝石のようで、冬の草花は朝露で潤っていた。
リエフはまだ眠そうに欠伸をしていた。小さいままでとても可愛らしい。
千歳の言う通り、リエフが先導してそれについて行った。着いたのは昼過ぎ。
「神社とは聞いていたけど…やっぱり」
伏見に神社といえば此処しかない。
赤く大きな鳥居がズラリ。1本道だがなんだか迷いそうだ。出られるのか。
神社の入口には1本だけずっしりと大きな赤い鳥居が構えていた。参拝者が通る石畳の上にぽつりと、その鳥居とは対象的に小柄な黒い狐が1匹。世泉たちを見て確認すると、歩き出した。同じように世泉とリエフも歩き出す。
度々振り返っては、付いてきているかの確認しているのが、なんとも健気でリエフに負けず劣らず可愛い。
そうして今この鳥居をくぐっているという訳だ。
人影が見えた。足下が見え、赤い袴を着ている。その袴を着た女性と思われる人が少し膝を曲げお礼を述べると、狐に手を伸ばし、その狐は嬉しそうに女性の腕へ飛び乗った。
「案内、ありがとう。 ……初めまして、じゃないね。久しぶり、世泉」
淡いミルクティー色の腰あたりまでの髪に、口元のほくろ。青と赤が混じった目。すらっとした背丈。
「陽和か、5年くらいか…」
そう陽和とは、5年ほど前に知り合った。宇治の街へ行く前に。つまりここには、何年か住んでいたことがある。
「これ、千歳からだ」
「? ああ、ありがとう」
例の封を渡すと、心なしか愛おしそうに、それを懐に(ふところ)へしまった。
3言ほど話して陽和が切り出す。
「千歳から聞いてる。取り敢えずこっちで話しましょ。彼もいるから」
彼とは、リエフの主のことだろうか。
連れていかれたのは立派な木造の屋敷。下足を揃え、玄関から続く廊下へ。世泉と雅が寝泊まりしている屋敷より、少し大きいくらい。
ずっと世泉のそばを離れなかったリエフが急に走り出した。そのリエフが入って行ったであろう広い居間へ通されるとそこには、ルカが陽和と同じ髪色の少女と話していた。
リエフはルカの膝の上にくるまっていた。ルカがいた事に疑問を持つもそれは言わない。世泉は結構な面倒くさがりだと思う。
「あっきたきた! どうぞ座って」
少女は陽和と双子の旭陽だ。彼女とも面識があった。
「こんにちは、空木さん。リエフのこと、ありがとう」
「あ、うん。こっちもリエフのおかげで楽しかった」
世泉が来たのに気づいたリエフは足に擦り寄った。
「リエフも、空木さんのこと好きみたいだね」
ルカはリエフの頭を撫でた。
「お待たせしました。では始めましょうか」
お盆から、茶の入った湯呑みを差し出す。その言葉に気が引き締まる。世泉は千歳から渡された封をテーブルの上に広げた。
世泉は手をその広げた上に持っていき、空に六芒星を描いた。
そうすると、千歳との通信が可能になるらしい。マナをこの術式に込めるのだ。
「相変わらず凄いの創るよねー、千歳は」
「並大抵の人じゃあ、無理ね」
結構難易度の高いものらしい。千歳しか創れないとか。
数秒間をあけて通信が入ったようだ。千歳の声がこの、紙1枚から発せられた。
『揃ってる?』
「ええ。あの話のこと、よね…」
『肯定。100年前のこと』
世泉は聴き入った。その時起こった悲劇に。
突如現れた強大な敵に成すすべもなく、人々の殆どが死んでいったという。たった独りの男に全てを奪われた。
その時、竜人族が応戦し、封印にまで至った。その生き残りが千歳だという。他の竜人は全滅したと、千歳はどこか弱々しく言った。
重い空気が部屋一帯に広がる。しかし、急に通信にノイズが入った。慌てて千歳を呼ぶ。
『…き、こ…え………街が騒が、し……僕は、そっちに……限界…みた』
「千歳?」
それ以降千歳が喋ることは無かった。この紙越しに聞こえてきた、騒音。リエフが紙に向かって低く唸った。
「私は戻る。じゃあ…」
「待って、俺も行くよ。急いでるなら、リエフに乗せてもらえばいいから」
「ガァルゥゥ!!」
「気を付けて、こっちも調べてみるから。情報が入り次第連絡する」
「うん、分かった」
じゃあ、と息付く間もなく駆け出した。
宇治の街で何が起こっているかは分からないが、急いだ方がいいことに間違いはない。元の姿に戻ったリエフの背に、世泉とルカは乗った。
徒歩2日と半日かけて来た道をあっという間に駆け抜けて行く。凄いスピードだ。いったいどれくらいの速さが出ているのか。周りがほぼ霞んで見える。
見えてきたのは崩れた民家。まだ外れの方だというのにこの荒れよう。また、呪人が現れたのだろうか。それにしても、悲惨すぎやしないか。
瓦礫に埋もれた人の助けを乞う声が聞こえてきた。スピードを落としていたリエフの背から飛び降りて駆け寄った。
「ルカ、先に行ってくれないか、私は生きてる人がいないか、もう少し見ていく」
「…分かった、気をつけて」
そう言って中心部へと駆けていった。
「大丈夫か。ちょっと待ってて」
「黒い、人が…悪魔が…」
「…あまり喋るな」
彼女の言う悪魔とは呪人なのか、瓦礫を払い除けて女性を起こす。他に人は、と聞いたが夫も息子も出払っているとのことだった。
幸い怪我も擦り傷と打撲のみで、世泉の治癒でなんとか回復できそうだ。
彼女を安全な場所へと連れていった。その後、とてつもなく大きな音が響き渡った。街の中心部まで全速力で走った。
なんだこれは。
すっかり崩れ落ちた数々の民家や宿。その奥には、千歳とルカが傷だらけで倒れているのが確認できた。世泉は2人の名前を叫びながら駆け寄った。
「一条、千歳…なにが」
世泉は急いで治癒をかける。致命傷はなく、ただ弄ばれたような傷跡ばかり。
突如、背中の方から、低く、しかし軽快な声が聞こえた。
「こんなところに居た」
背筋が凍るような。ゾッとするような黒い重圧。殺気。誰を探しているのか。
目も髪も黒く染まっていて、あの女性が言ったように、本物の悪魔みたいだ。この状況を作ったのもきっとこの男だ。
「お前、誰だ…」
「なんだよ、忘れちゃったの?ぼく悲しいよ。 …ねぇ、千歳」
千歳の知り合いか、とも思ったがそれは、悲しいと言うのに対して、同意を求めるような口調だった。
世泉には全く覚えがなかった。しかし、次の瞬間世泉はまたあの感覚に襲われた。
ドクン、鼓動が激しく高鳴る。頭が痛い。息が苦しい。
「思い出した? …ねぇ、世泉。ぼくはね…」
「っ…はぁ…ぁ、な、んのことだ」
「…あーあ、残念だな」
「だ、から、なんの…」
世泉が問うた。一息置いて男は答えた。
「…ヘル、シャフト」
「ヘ、ル…シャフト…っ、あ゛ぁぁ」
「うつ、ぎ…さん?」
「世泉、聞くな。耳を…塞いで」
千歳はそう言って、力を振り絞るように、相手に向かって咆哮した。それは難なく回避される。
「危ないなー」と一言。微塵も思っていないくせに、と悪態をつく余裕もない。
さらに頭がガンガンと、何かに殴られているような感覚。ルカと千歳の呼びかけにも答えられない。
(私が守らないと…いけない、のに…)
どこも傷ついていない私が、と、世泉は身体を起こそうとするが、男がこう言う。
「まぁいいよ。どうせ、終末に会えるんだからね?」
ひどく蔑んだように言い放った。終末とは何を意味するのか。状況は最悪のようだ。男が去って幾分か苦痛も消えた。何のためにここへ来たのか。わざわざ、壊すためだけに来たのか。
まだ、あの感覚が忘れられない。
あの後2人をなんとか歩けるまで回復させ、両脇に抱えながら屋敷まで運んだ。雅がドタバタ走って、状況を理解するとボロボロと涙を零しながら、介抱を手伝ってくれた。
それもひと段落ついて、縁側で腰を休めていた。
「大丈夫だ、2人とも生きてる。泣くな、雅」
「うぅ、よみさまぁぁ! 僕、何にもできなかったです。王さまは完全じゃないのに、ルカさま見たくカッコよくなるって言ったのに…ぼく…僕は」
千歳にここに残れ、ここを守れ、言いつけられ力になれなかったのがよっぽど悔しいのだ。目を真っ赤にして泣き腫らした。
しかし、泣き疲れて世泉の腕の中で眠ってしまっていた。やっぱり、まだ子供なんだと、ここにいる間は本当に辛かったのだ。
けれど、これだけでは終わるはずがない。自分が何をすべきか。これからの事を。
ここにいても分かる、街の雰囲気。暗くて重苦しい。復旧作業は明日から。気持ちを作り直さないと、と意気込んだ。
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大部分の復旧作業が終わろうとしていた。幸い思ったより大きな被害はなかった。崩れた民家が数十軒。あとは小さくおさまった。
千歳やルカも完全に回復し、復旧作業を手伝っていた。あの日から重苦しいかった空気も、今では元に戻っている。この国は兵もおらず、定まった決まり事もない。自由に自分たちの力だけで生きてきた。それのおかげでもある。
「空木さん、どこか行くの?」
「少しな、一緒に行くか?」
ぜひ、と返事をしたルカはとても乗り気だった。
世泉が向かったのは、ルカを見つけた場所。あの泉。陽が沈んで行く時間帯。その時が1番綺麗な泉を見られる。深夜のあれは別格だけど。
「お前ここで倒れてたんだよ。覚えてるか?」と聞くと、あんまり風景は覚えていないと言った。
「綺麗だね、不思議」
「そうだな。こっちに来てみろ」
そう言ってルカの腕を引いて泉の中へ。ルカは慌てていた。がおもいっき引っ張ったのでそのまま、大きな音を立てて、泉のそこへ沈んだ。
ぶくぶくと空気が水面へと浮いていく。そして2人一気に水面へと出てきた。
「酷いよ、空木さん」
膨れっ面でそう言った。
「でも、冷たくもないだろ?」
「そう言われてみれば…でも俺」
「絶対温度持ってるんだっけ」
「うん、これでも北出身だからね。でも空木さんも冷たくないの?」
「ああ、この水は温度もなければ、濡れることもない。腕上げてみて」
「うわぁ、凄いね」
「あとはな、水の中でも息が出来るんだ」
もう1度ルカを水中へと引きずり込んだ。案の定また驚いていたが、楽しそうにしていた。子供みたいだ。世泉は心が温かくなるのを感じた。
2人でゆっくり、樹の下の丘まで歩いた。世泉は泉の中を見るように促した。さっきまで見ていなかったモノが飛び込んでくる。ルカは目を丸くした。
「これって…」
「凄いだろ? ここだけ地盤が低くて、こんなになったんだ」
「何時からあるの、この泉」
「さぁな。少なくとも10年よりは昔だな」
水の下は緑が生い茂っていた。そこには沢山の草花が揺れていた。太陽の光を浴びて生き生きしている。
ふと気になった疑問をルカにぶつけた。
「ねぇ? なんで陽和のとこに」
「シノノメ様に聞いたと思うんだけど、あのリートの人選のこと。呪人こと」
「もしかして、その…」
「そう、俺も一応呪詛返しできる人的なやつかな」
軽く言ってのけたが、凄いことではないのだろうか。呪詛返しができる者は極わずかだと聞いている。やっぱり物凄い実力者ってことだ。
「私はそんな奴と、戦って…」
世泉はブツブツとなにか自問自答していた。ルカは何やら楽しそうに横目でそれを見ていた。
そして静寂が訪れる。木々の葉風に揺られざわざわとそれだけが聞こえた。
「もう、起こらないといいよね」
「でも孰れは滅びる。私も、一条も。カタチあるものには限りがある、抗えない。抗ってはいけない。受け入れるだけ」
世泉は冷たく、人形のように何も感じないとでも言うように。ルカは戸惑いを隠せなっ買った。世泉の目からは光が失われていた。どうしたのか尋ねたら、元の菫色の瞳が戻っていた。
「私なにか余計なこと言ってた?」
「ううん、何でもないよ…帰ろうか、もう暗くなるよ」
それからも、度々世泉の影のような部分が見え隠れしていた。ルカはそれを何度も見ていた。千歳や雅も薄々は気付いているようだった。
千歳は、何処か苦しそうな雰囲気を醸し出していた。一切顔に出すことは無かった。
変化があったのは、それだけではなかった。
他の3国でも度々起こるようになった事件があった。それが、人が攫われるというものであった。特にこれといった関連性もなく、ただ誘拐を繰り返しているそうだ。
それが何を意味するのか。また、呪人の件数も遥かに多くなっていた。
世泉やルカはそれに応戦し、街の安寧を守っていた。またそれが、力を使うたびに、世泉の影を一層濃く、深くしていた。
ある日の朝、千歳の元へ出向いた雅が慌てて2人を呼び寄せた。
「っ…どうなんですか?!」
「命は問題ない。けど、消耗が激しいな」
千歳の息は荒く、白い肌が更に青白くなっていた。雅は子犬が喉を鳴らすように、寂しそうな顔つきで、治療中の世泉に半ば叫ぶように問いかけた。
世泉は冷静に分析していた。命に問題ないかもしれないが、危険な状態であることに変わりはない。
彼女は以前、『この国のマナは僕で、僕がマナでもある』と。つまりは、この東国のマナが穢されれば、千歳も同じ目に遭う。
逆もまたしかり。
千歳が死んでしまえば、たちまちこの地も死んで行く。荒れてしまうかもしれない。
なんとしてでも、助けたいと思った。この国は彼女なしでは成り立たない。それこそ、"ナーガ"という王がつくったものなんだ。
世泉はつきっきりで千歳の容態を見ていた。良くはなってきている。しかし、未だ眠ったまま。
最近は呪人の話は聞かなくなった。その代わりに、誘拐事件の件数が異常なほど発生していた。
民衆に、全ての国に、あっという間にその情報が広まっていった。
ルカも自国に帰ってしまった。そりゃあ、ルカほどの力がある者が、長く他国に留まっている暇もないだろう。誘拐事件のことを含め、彼にも新たな命令が下るのだろう。
ここに残るは、雅と世泉だけ。千歳はこの有様で。今ここで、襲撃されればあっという間に終わりを迎えるのだろう。
そうなる前に、やるべき事を。最悪が少しでも薄れるように。
世泉と雅は2人でマナが穢された原因を突き止めていた。
男が言っていた『終末』へのカウントダウンがもうすぐそこに迫っている。