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SiXTEEN  作者: 井口
Act.1
10/15

取り敢えずあげときます。

修正が多分入ると思いますが…


10話以降はただいま執筆中です。1週間で約10万字ほど書く予定ですので、お待ち下さい。


来週からまた更新させていただきます。

 来る日も来る日も、封じては現れる死喰退治に明け暮れる日々だった。これらが再び存在している理由もまだわかっていない。多くて1日に5体。一気に現れればいいものの、時間帯も数もバラバラでほとほと参っていた。


 しかし今日は何事もなく、でもそれが逆に不安を煽った。非凡が続くとそれが平凡になり、急に平凡になればそれが非凡に感じるのはそれなりに恐ろしいことだ。


 戦争が続けば、また戦争か、とか、まだやってるのか、とか、(いず)れはそうなってしまう日が来るのも愚かしい。


 動物のように、本能という何ひとつエゴのないものじゃなく、思考力があるからこそ、知識を習得しここまで生き残ってきている。


 自由思考だけで我らは調和できない。しかし思考力だけあっても、それでも調和を保つことはほぼ不可能に近い。保つことが出来ていたとしても、いつか崩れる可能性の方が多いと言っていい。


 知識を得た生命(いのち)は誰かが下にいないと不安を募らせ、生きていけなくなる。


 常に上を目指して、自分の力を示し、存在と威厳を見せつける。そいう人間は少なくはない。


 今ある幸せでいいのではないか、それ以上何を手に入れる必要があるのか。




「空木さん、お願い」


 世泉は首元のペンダントを死喰に向ける。


此方(こなた)に還れ」


 死喰はそのペンダントに静かに吸い込まれていく。


 ふぅー、と、ひと息ついてからルカの方に振り返る。お疲れ様、と苦労を讃えながら後処理を始めた。



 市の人々から絶え間なく感謝を述べられ、悪い気持ちには当然ならない。




 屋敷に帰ってからはそれこそ今まで通り、食卓を囲んで、お風呂に入って、寝床に入る。けれど心無しか異様な空気を感じ取った。


 悍ましいくらいの圧力が唸りながら音を立て始めた。

 何事かと、外に出て確認する。ルカも雅も紫苑もみんな外にいる。空を見上げている。槐も怖い顔をして空を威嚇する。



「ねぇ、何アレ」



 世泉の着物の裾を引っ張る紫苑。彼女の指差した先には青黒く渦巻いている雲。起ころうとしている事なんて分かる筈なくて。ただ突っ立っていることしか出来ない。


 そんな3人を他所(よそ)に世泉は、



「来てしまった…」


「お姉ちゃん?」



 小さく呟いた。何かを悟った言葉。その声を聞きとった紫苑が尋ねたが世泉が答えることは無かった。

 ルカも世泉の異変に気づいて名前を呼んだ。以前として真っ直ぐ、一点を見つめている。



「行かないと」


 足をゆっくり動かし始める。ルカが慌てて手首を掴み引き留める。



「空木さん、どこに行くつもり? 何か知ってるの」


「…行かないと」



 同じように繰り返す。目を見れば、あの時と同じ。大樹のある泉で見せた表情とその瞳。


 虚ろ目で光は一切ない。感情の映し出されないそれにひどく困惑した。


 雅も久々に世泉のそういった姿を見てしまい不安を顕にする。



「世泉さん」



 もう1度強く彼女の名前を読んだ。それでも返事はない。歩きだそうとする。



「世泉!」



 動きが止まる。

 ルカは止まったままの彼女の顔が見えるように前に移動する。


 しかし言葉を口にする前に、大きな爆音が邪魔をした。


 青黒い渦の中から、言葉では表せないような歪な形をしたモノが顔を出していた。それから、レーザー光線のような鋭い光が次々と撃ち放たれる。街が次々破壊されていくのがわかる。


 人々の悲鳴と号哭。耳が痛い。



「雅と紫苑はここに居て、これ使って北国(きた)と通信して。国王に繋がるはずだから」


「わ、分かりました! 行きましょう、紫苑さん」


「…うん」



 なるべく安全なところで、と付け足す。そして世泉に向かい合う。



「世泉、行くよ」


「…あ、ああ」


「行くなら、今だよ。 …守らないと」




 "アレ"がある所に近づくにつれて、押し潰されそうなほどの圧がかかる。体が萎縮する。


 走っている途中に周りを見渡せばボロボロの民家ばかり。埋もれてしまい息絶えている姿を幾つも見た。それでもまだ攻撃は止まない。次々と命を奪っていく。酷い惨劇は留まることを知らない。


 降り注いでくる光線を避けながらなんとかたどり着くことが出来た。


 そして響いてきた大きな笑い声。気分を害するその声の主はおそらく、西王、オーベル・アゼマ。世泉は見たことすらなかったが鎧にある王族代々のエンブレムとその声特徴的な耳の形が物語っていた。



「一条、あれは西王でいいんだよな」

「間違いないよ」



 2人とも上を向いたままで言葉を交わす。



「フハハハハッ!!!! 堕ちろ、堕ちろぉ! ここは我のモノだ!」



 眉を歪めながら口から零れてくる暴言。耐えきれず世泉は声を張る。



「何が、我の国だ。ここは千歳の、竜王の国だ」



 低く、押し付けるような声だ。ルカはまた異変に気づく。さっきと同じ虚ろ目になった世泉を一瞥してオーベルの方に向き直る。



「竜王、か…奴はもういない。小賢しい娘が。思い出しただけで腸が煮えくり返る! 2度と我の前でその名を出すな!」



 そう言いつつ世泉らの方へ近づいて来る。はっきり顔が見え、青筋立っているのがわかる。


 攻撃が止み、月明かりが黒く染まった鎧を怪しく照らす。



「王はまだ生きてる。此処はまだ死んでないぞ」


「はっ、奴は四獣でもあったな。だからと言って我の手で殺せばいい話だ」


「人間は愚かだな、何故、そこまでしてここが欲しい」


「なぁに、簡単なことだろうっ!」



 世泉に向けて大剣を振りかざす。反応が遅れる。それを咄嗟にルカの握ったモノが押し留める。甲高い金属音を響かせて弾いた。


 リートの時には一切武器を持たなかった彼がそれを持っている。黒を基調に(あか)のラインが入った、オーベルにも負けないくらいのオーラを放つそれ。



「我が全ての王に相応しいからだ…4人も王は要らぬ! 」


「西国の統治も儘ならぬ貴方に、(カローリ)は無理です」



 カローリは確か、北国で王という意味のだったはず。世泉はそうだった、彼は北国の人間だった。過ごした時間は少ないけれど、それ以上に濃いものだった。

 そしてオーベルは言う。



「貴様は…確か、北王のところの、ルカと言ったか……。 小童の癖してよく言うわ! 北王(ラヴロフ)も鍛え方がたりぬようだな」


「貴殿よりはマシだと思いますが、ね」



 怒気を含んだ声は鋭く尖って聞こえる。怒ったルカは初めて見た。誰だって自国の王を悪く言われたらそりゃあ、苛立ちはあるだろう。


 対してオーベルは聞き入れぬ、と言うように鼻を鳴らして見下した。そんなはず無かろう、と。自信ありげに胸を張ったようにも見えた。



「御託はいい。もう東国(ここ)は終わっている! 1日とも持たず滅びる。そして我が国となる! フハハハハっ!!」



 傲慢にも程があるのではないか。怒りより恨めしい、馬鹿馬鹿しく思えてしまう。


 ギロリ。はっきりその音が聞こえてくるようで、オーベルは世泉とルカを睨みつけた。鬱陶しそうに、目を細くして。

 そして傲慢な王様はこう続けるのだ。



「我の軍勢が西からここに来る、そうしたら終わりだ。 ……まぁ、それまで我の相手を出来るかもわからんがな?」



 不敵に笑った。



「バカにされるのも大概飽きたよ。西王殿」


「ほぉう? では我と殺り合う覚悟があるのだな?」



 敗北が見えているがな、と、余計な一言を付け足す。



「それは分からんぞ、慢心は心の隙になりえるからな」


「戯れ言を、我が油断などする訳がなかろう! 」



 キンッ!!

 金属のぶつかり合う音が激しく響く。時たま火花が見えている。


 世泉とルカ2人に対して、相手は大柄な男と言っても1人だ。力の差が見えてくる。咄嗟に屋敷を飛び出してきたため、世泉手ぶら。太刀も何も持っていない。出来ることは後方支援に限られてくる。


 ルカの攻撃に合わせて、タイミングを見計らい、マナの最大限の力を駆使して攻撃を放つ。


 しかし、何度も避けらる。



「はっ!? くっ…!!」


「! っ、一条」


「なんだその程度か、貴様。大口を叩いておきながら…ふっ、無様よな!」



 ルカが民家のある方へと吹き飛ばされる。ガラガラ、ドカン。崩れる音がより痛々しく聞こえた。世泉は大きな声で彼の名を叫ぶ。


 オーベルはルカの吹き飛ばされた方へゆっくりとだが、歩みを止めることなく近づいていく。容赦なく、その怪しく光る銀の大剣をルカへ振り斬ろうとする。


 それはルカには届かない。ルカも覚悟をしていた様だが、今起きている現象に目を丸く見張っている。



「まに、あった…」



 オーベルの腕と剣の先の位置が違っている。その腕のあたりには黒と紫の(もや)がかかっている。



「空間…移動?」



 ルカがそう呟く。


 その通りだ。オーベルの周りのマナと、別位置のマナとを空間で結びつけて、傷害を防いだのだ。簡単な操作ではないことは見ればわかる。だから彼はこんなにも驚いている。彼女がこんな力を持っていたなんて。


 マナを扱うことでさえ、そう簡単にはいかないというのに。


 でもそんなことを考える暇もない。オーベルは自身がとどめを刺すところを一瞬で無いものにされ、苛立ちを顕にしていた。



「小娘が! 貴様も竜王と同じく鬱陶しい!」



 矛先は世泉へと向けられた。警戒を強めてオーベルと対峙する。



「ちょこまかと攻撃しおって、小賢しいわ!!」



 振られた大剣から鋭く細い突風が地面を割いた。間一髪で難を逃れる。しかし、あの時から着ていた着物の左半分がボロボロに破けてしまっている。



「世泉、上!」



 ルカの焦り、叫ぶ声が聞こえた。上を確認する間もなく降ってくるのは鋭い魔弾。ものすごい数のそれは傷付けることにすら遠慮はない。それはそうだ。だって彼女らを排除するための攻撃だから。



 マナの状態変化を使って固く透明な壁を張る。ルカの方にも同じようにそれを張る。援助は得意だ。それらを難なくやってのける世泉の存在とても頼りになるものだった。


 攻撃が止んでから、倒れたままの彼の元へと急いだ。



「すまない、今治癒するから」


「いいよ、大丈夫。それより、西王は」


「フハハッ、もう遅い!!!」



 上空へと浮上したオーベルの持つ剣先から大きなマナの圧を感じる。次第に大きくなっていく。数秒もしないうちにそれは放たれる。細い1本の線となって向かってくる。すぐに結界を張る。


 威力に耐えられなくなり、ピキピキ、音を立ててヒビが入り始めていいる。次の瞬間、それは簡単に壊れて、また次を展開する暇もなく、ふたりで直に攻撃を受けることになった。


 痛い。そんなものでは計り知れない。



「息絶えたか」



 こもったように聞こえた声。ということは生きているのだろうか。瓦礫の中で必死にもがいて光を探し出す。


 その小さな動きにも敏感に反応を示すオーベル。



「ほぉ、あれを受けて生きておるとはな…。貴様らの執念は認める他ないなぁ」



 不敵な顔をする。


 そんなもの認めてもらわなくていい。何様だ。そう言いたいけれど、思った以上の深手で上手く身体を動かす事も儘ならないのだ。


 これで最期なのか、そう悟った。必死で自己回復を繰り返す。ルカはあの時咄嗟に世泉を庇ったため、彼女に覆いかぶさった状態となっていた。彼の息もちゃんとある。



「一条、分かるか? 聞こえるか?」



 問いかけても返事はない。もう1度と声をかけてみると、小さくだが痛みに耐えるような声が聞けた。自身の治癒もほぼほぼ終わり、彼の傷を修復しようと手を体に当てる。こうした方が早いのだ。



「ごめんね、俺…」


「喋らない方がいい、恐らくだが、奴も気づいてる。生きてること。次はないな」



 それにルカも頷いてゆっくり体制を立て直す。瓦礫の下から出てくると、既にふたりの前に佇むオーベルの姿があった。



「! っ…」



 どうすることも出来なくなってしまった。遂に来た。息を呑んだ。緊張と恐怖が交差する。ドクドクと流れる血流をしっかりと感じ取っていた。



「しぶとい奴らよな、貴様らも」



 竜王も、と、付け足す。まるで本当に、いなくなってしまったかのような言いぶりに眉を歪める。



「最期に、慈悲をくれてやる。我の下に付かぬか」



 なんだ急に。そんなものは願い下げだ。それなら本当に死んだがマシだと思ってしまう。



「俺は遠慮するよ」


「勿論、私もだ」


「ふん、無駄にしたな。まぁいい地獄へ送ってやる」



 再び振り上げられた大剣。それを目で追う。覚悟を決めた時だった。明らかに怪しいという感じの男の声がした。



「お待ちください。王よ。偉大なるメレフよ」



 腰を低くしてそう発した男。黒いフードにローブ。見覚えがあった。聞き覚えもあるその声。



「なんだ、折角の余興を楽しんでおるところだ、邪魔をするな」


「そう言わずに、聞いてください。王自ら手を汚すことはなりません。ここは私めにお任せ下さい」



 それに、踊らせていた方がまた楽しめるのでは、と言って、より一層深く腰を折った。

 どんな反応が帰ってくるやら、ルカと世泉は焦りと緊張感に苛まれる。



「そこまで言うのなら今は引いてやろう。我は先に帰る」


「はい、良いご判断です」



 黒い霧の靄が浮かび上がりそのまま吸い込まれるよに、中に消えてしまった。

「命拾いしたな」と最後に告げていった。



「さて、話をしようか? ねぇ、世泉」



 先程とは違った声音で世泉の方を見ていた。


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