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みじめな僕の、間抜けた嘘

作者: フランボワーズ

どうもフランボワーズです。

n年ぶりにここに戻ってきました。

寝付けない夜の徒然のままに、キーボードに手を走らせ生まれた小さな物語です。

お題は@wordenoghさん作の診断メーカー「最後の嘘をつきました」よりいただきました。

↓こちらURLです↓

https://shindanmaker.com/484159

僕は、さりげなさを装って最後の嘘をつきました。

それは、現状打破のための嘘でした。


「幸せなんて、どこにもないんだ」と。


だってもう、仕方がないだろう?


もう一度君に会いたいなんて言うには、僕の覚悟は足りなさ過ぎました。仕事が大変になって君にあんまりかまってあげられなくなったのは僕のせいなのに、「たまには遊びに行こう?」と控えめに提案してくれた君を突っぱねてしまったね。

「今は大事なプロジェクトを抱えてるんだ。僕がやらなきゃ」

そうだね、ごめんね、とうつむいたのは、言外ににじみ出た最後のシグナルだったのかもしれない。さみしいよ、愛してよ、と……。今更なにを言っても言い訳にしかならないのはわかっています。当時の僕は馬鹿で向こう見ずでした。君の愛を無条件に受けられるものだと信じ込んでやまなかった。



「私たち、もうダメかもしれないね」

珍しく休みだった日曜日の夜。いつも通りの夕飯を終え、二人で並んで座ったままテレビを見ていたら君がポツリと言いました。

「なにか言った?」

「……なんでもないよ」

普段通りに寂しげに微笑んでみせるその顔をよくよく眺めないまま、「そう」とだけ返事をしてまた画面に目を戻した僕のことを、君はどんな思いで見てたんだろう。その時の僕はこれが最後になるとは思ってもみなかった。

傲慢な奴です。笑ってくれ。君が僕の隣にいることも、僕に向けられる寂しげな笑顔も、当たり前のように思っていた。そんな僕だから、君に愛想を尽かされるのも当然だよね。

次の朝目覚めたときに、朝食のにおいはするのに、台所に立つ君の姿が見えなくて少し焦った。いつものようにきちんと整えられた食卓。その隣に丸っこい見慣れた字でメモが置いてあって、それを手に取った瞬間、僕はひどくめまいがしたんだ。

『ごめんね。私、もうあなたとはいられません。

 今までありがとう。さようなら』

ぐうっと歪んだ視界の中で、君のかわいい文字が踊り狂っていた。目覚めとともに感じた朝食のいいにおいも、ただただ吐き気を誘うばかりだった。情けない男だね。

その日は全く仕事が手につかなかった。何度も君の携帯を鳴らしては、「おかけになった電話番号は、ただいま電波の届かないところにいるか……」という不吉な音声を聞いていました。やっと君と連絡が取れたのはその日の夜の事だったのをありありと覚えています。

「……ッ、もしもし、君か、どうして」

『ごめんなさい。私、もう、わたし……』

電話口の君はひどく取り乱していたように感じられました。僕はどうにも悲しくて、そして情けないことに少し腹を立てていたので、比較的きつい口調で君をなじってしまった。今までの自分の所業を棚に上げて、ね。

『お仕事お仕事って、いつもそればっかりなんだもの』

しゃくりあげながら君は言いました。僕はいらだって「だってしかたないだろ」と吐き捨てるように言ってしまった。君がとぎれとぎれに息をのむのを聞きながら僕はただ黙っていた。この時の僕はまだ君が謝って戻ってきてくれると思い込んでいたんです。だから、何も言わなかった。でも君にそんな様子はなく、とうとう結論が出ないまま朝になった。

いつも通り出社した僕を待ち受けていたのは、君の置手紙には及ばずとも大きなショックでした。部長に呼び出され行ってみると「君が担当していたプロジェクト、担当者が変わるから。引継ぎ資料用意しといて」とだけ告げられたのです。多少食い下がってはみたものの、僕はしがないサラリーマン、部長に逆らえるはずもなく、すごすごと退散するしかありませんでした。

悔しい思いを抱えて自分の席に戻ると、遠くのほうから複数人の楽しそうな笑い声が聞こえてきました。そっちをそっと見やると、僕とほぼ同期なのに僕より上司からのウケがよく、いつも周りに女子社員のいるあいつの姿がありました。

「今度さぁ新しいプロジェクト担当すンだよねー」

「えーすっごーい!」

「さすがァ、信用されてるのね」

「まーね。俺の実力ならうってつけって感じっしょ?」ここで彼は少し声を落とし、「正直前任者はぽんやりしてたらしいから俺に回ってきたんじゃねーの?」と言って笑いました。

そこから先の会話は頭に入ってきませんでした。僕のプロジェクトを継ぐのは彼だということだけが頭をぐるぐるしていたんだ。もう何もかもが嫌になって、全部投げ出して、会社を飛び出してきました。


それから僕は、家に帰ってこのメールを打っています。真っ暗な部屋の中、一人パソコンに向かって。君と過ごしたこの部屋は、たった一人でいるには広すぎるね。

君がこれを読んでくれるかはわからない。差出人を見て、開封もせずにデータの藻屑にしてしまうかもしれない。それでもいい。僕は自分の気持ちを整理して、けりをつけたかったんだ。

あの夜電話したとき、僕は君のことを「僕を捨てた非情なやつ」と決めつけてしまっていた。だからこそ「幸せなんて、どこにもないんだ」と君に言った。本当の幸せを知らないつもりのまま嘘をついた。そうすれば君が心変わりしてくれると思って。甘ったれた奴だ、今ならわかる。

どうかこれを最後まで読んでくれたなら、聞いてくれ、君は僕の最愛の人だ。いまも、変わらず。君は薄情だった僕のそばで黙って支え続けてくれた。君を失ってから気づいたんだから、どれだけ鈍いんだって話だね。すまない。


さあ、僕は何もかもを失った。今度は間違わないように歩いていこうと思います。まだ余地があるのなら、情けない話だが、戻ってきてくれ。

ダメだとしたら、君の幸せを祈っている。

なんとも言えない気持ちになりますね(私が)

これから彼はどう生きていくのだろうか、果たして彼女はこのメールを読んだのだろうか。

答えはみなさんの胸の中の二人にお任せします。

幾通りもの未来が、彼らには残されているのだから。


お読みくださりありがとうございました。


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