夢と記憶と
そこは真っ暗な世界だった。上も下も無い真っ暗な場所。そこへ、ひとつの光が遠くの方からやってきた。
ものすごい速さで来たかと思うと、目の前でぴたりと止まった。
『やぁ、お久しぶりだね。名も無き英雄君』
どうやらこの光の玉が喋ったみたいだが、何を言っているか全く分からない。
「久しい? 英雄? 何のことだ。お前は何か知っているのか?」
何か知っていそうな雰囲気だったので、これは記憶を取り戻すチャンスに違いない。と、早口でまくし立てていく。
『まぁまぁそんな慌てなくても、逃げないよ。それより知りたいんでしょ?記憶のこと。まずは自己紹介だね!』
何だこいつは?異様にテンションが高い。
『一言で言うと僕は、君の記憶の欠片だよ』
「!?」
『びっくりするのも無理ないよね、自分の記憶と話してるんだから。 これから君に起こった事の顛末を話すね』
静かに待った、全てを聞き逃さないように全神経を集中させた。
『ある国に、腕の立つ剣士が居たんだって』
「なんで俺の話なのに昔話みたいな喋り方をするんだ?」
たまらず、聞いてしまった。
『そっちのほうが聞き甲斐があるでしょ?』
とか意味不明な事を言いながら話を続けた。
『ある日、とても恐ろしい魔物が出没するようになってね。その魔物は毎晩、町の人をさらい続けたんだ。人々は、夜も眠れない日が続き、町の活気は段々薄れていった。それを憂いた王様は、その魔物に懸賞金を懸け腕のたつ者に討伐に行かせたんだけど全く歯が立たなかった』
『当然その剣士にも討伐命令が出され、町へ向かったんだ。でも、そいつはただの魔物ではなく人の記憶を覗き、相手を油断させる形に変身できるやつだったんだ』
そこでひと息ついた光は、なんだか悲しそうにも見えた。
『剣士は、強かったけど愛した人を切ることはできなかった。剣士は、魔物から記憶の支配を無理やり引き剥がし、そいつの心臓を一突きにしてやっつけたんだ。でも無理した弊害で剣士の記憶は、どこかへ飛んでいってしまったんだとさ、おしまい』
さっきと打って変わってテンションが戻っている。
「じゃあなぜ俺は海岸に居たんだ?」
『それはあいつが死ぬ直前に最後の悪あがきで飛ばされただけだね』
「なんと迷惑な。では、俺の記憶はもう戻らないのか?」
『そんなことないんだなぁ』
なんかイラっとくる返しだ。
『偶然、君の記憶は、精霊の森のクリスタルに封印されているんだよ。もしかしたら、誰かが守ってくれているのかもね』
そんなことない俺は一人で戦っていた。他の奴は皆死んでしまったのだから。
「じゃあ、なんでお前はここにいるんだ?封印されているんだろ?」
『なぜか本体とは離れてしまったみたいなんだ。だからこうして君の前にいる』
『そろそろ時間が来たようだね。』
少し辺りが明るくなっている気がする。
『最後にプレゼントがあるんだ・・・僕の分だけ記憶を戻そう』
「本当か!どれだけ戻るんだ?」
『ほんの僅かだよ。 そう君の名前』
辺りが一気に明るくなってきた。凄く眩しい。
『君の名前は...』