記憶の無い男
「ここは・・・?」
よく晴れた空から太陽が燦々と降り注ぐ浜辺に一人の男が打ち上げられていた。
ボーっとする頭を動かして考えてみる。昨夜、何をしていたかを。
「分からん何にも思いだせん」
わけも分からないまま取りあえず辺りをよく調べてみるが、全く知らない場所のようだ。
後ろは海、前は、森と山 このまま餓死してもおかしくは無い状況だ。
30分ほど経っただろうか、向こうの方から誰かが歩いてくる。
「助かった・・・」
男は安堵の表情を浮かべ、近寄ってきた女性に歩み寄った。
すると、女性はいきなり血相を変えた。
「どうしたんですか!? 全身傷だらけじゃないですか」
今まで周りの様子しか見ていなかったので、自分の体の様子など気にもかけなかった。よく見ると全身切り傷と擦り傷だらけだった。いやむしろ怪我をしていない所を見つける方が難しいぐらいだ。
「すぐ手当てしますね」
女性は、慣れた手つきで治癒魔法をかける。 どんどん傷が塞がっていく様は、何度見ても不思議な光景だった。
「ありがとうございます。 もしかして教会の方ですか?」
修道女のような服と首から提げた十字架から予想はついた。
「ええ、まだ見習いですけど」
「そうなんですか。 もしよければ村の方まで案内してもらえませんか?」
「結構ですよ 私も今から戻るところなので。 そうそう自己紹介がまだでしたね。私は、修道女のミラ あなたは?」
よく考えれば昨日のことすら覚えていないのだ。記憶喪失の自分が名前を覚えているわけが無い。
だが いざ自分の名前が分からないとなるとパニックに陥るものだ。
「俺は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・誰だ?」