第十三話 ――恋だね
目を覚ますと体が強く固定され動けなくなっていた。
「か、金縛り!?」
横を見るとその正体は布団だった。布団は俺に強く抱きつき寝ている。
「本当寝相悪いなこいつ」
布団が顔を頬に息を感じるほどまで近づけてくる。俺の鼓動はどくどくと加速していく。
「ほ、本当に寝てるんだよな? こいつ」
布団は腕を俺の首に回した。
「ご主人。…………」
布団は途中で言葉を止め、間を置いてからこう言った。
「……大好き」
暖かい吐息が耳にかかる。
「お、おまっ。な、何言ってんだよ!?」
「ご主人? もう朝ですか?」
俺の大声に布団が目を覚ます。眠たそうに目をこすっていた。
だが布団は起き上がらず、さらに俺に接近し、胸に頭を乗せる。布団が俺の腕を動かし、俺が布団に抱きついてるようにする。
「なにしてんだ?」
「もう少しだけこのままでいいですか?」
布団が甘い声でねだってくる。拒否することはできなかった。
しばらく待っていても布団は動く様子がない。このままだと学校に間に合わねぇぞ。
そろそろいいか? と言おうとすると布団が飛び上がるように起きる。
「も、もうこんな時間!? って、ご主人何やってんですか!?」
布団の顔はみるみるうちに赤くなっていく。
「お前覚えてないのか?」
布団に問う。
「も、もしかして私はご主人と一線を超えてしまったのですか!?」
「なんてこと言ってんだ! 覚えてないならいい!!!」
顔が熱くなるのを感じる。感づかれないように布団に枕を投げつけた。
――学校で
「今朝のあれはなんだったんだ……」
「ん? 今朝がなんつった?」
土屋が振り向いて俺に問う。
「いやっなんでもない!」
「?」
「ほんと何もないからっ!」
土屋を押し返し前を向かせる。
でも、今朝の布団のあれはなんだったのだろうか?
「まさかあいつも俺のこと……んなわけないか」
全くこれだから思春期の思考回路は困る。俺はこれで爆死していったやつを何度も見てる。そいつらの仲間になんかなってたまるか!
「今日のお前なんかあれだな」
土屋がまた振り返ってくる。
「なんだよ」
「きもい」
ストレートな言葉が胸に刺さる。俺そんな表情に出てたか?
なぜか胸のあたりがモヤモヤとする。なんて言うんだっけ? こういうの。考えてみるが全く言葉が出てきそうにない。不本意だが茜さんに相談してみることにしよう。
「――恋だね」
出されたお茶をいきよいよく吐き出す。
この人に相談した俺が馬鹿だった。ちょっとした気の迷いだったんだ。許せ俺。
「間違いないわ」
茜さんはタオルを渡してくれた。
「なわけないじゃないですか」
「可能性は0ではないわ」
「それもそうですけど……」
俺が言葉を濁らすと茜さんがこういう、
「そうやって誰かのことを意識しているってことは好きってことなんじゃないの?」
「……うぐ」
返す言葉がない。
「でも、好きってことがわからないんですよ。なんかいいなって思う女の子はいたことはありますけど、でもその子と手をつないだりとかデートしたいとは思わないんです」
すると茜さんはクスッと笑い、こう答えた。
「その子と“一緒”にいたい。とか“一緒”に笑っていたい。それが好きってことなんじゃないかな。
茜さんはひかりちゃんにしか恋したことないからよくわからんけど、もっと自分に素直になってみたら?」
「一緒に……ですか」
脳裏にひかりや布団の笑顔が浮かんでくる。
「今の茜さん、ちょっとかっこいいですよ」
そう言って立ち上がる。
「そりゃどうも」
保険室を出ようとすると茜さんが「ちょっとまって」と言った。
「なんですか?」
そこで止まり茜さんの方を振り返る。
「コンドームはちゃんとしろよ」
前言撤回。
「やっぱ最低ですね」
ゴミを見るような目を茜さんに向け保健室を後にする。
「止まるなよ。少年」
光太が出て行ったあと、茜がそうつぶやいた。
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