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美咲シ合歓ノ木  作者: 猫野美胃
この社会における外部記憶領域技術士の役割について
2/5

外部記憶領域技術士試験

僕が東京の大学へ進学してから3回目の夏だ。

八月半ばを過ぎたにも関わらず、日中最高気温を定期的に更新し続けている。

今夏は風が吹かないためか体感温度は更に高く、街頭から人並がごっそり消え失せている程猛暑だ。


僕も最近は活動時間帯を夜にして夏の暑さを凌いでいるのだが、今日は珍しく早朝から目が覚めている。というか昨夜から眠れていない。

この親しみ深くなった六畳間にも空調設備は完備されており、もちろん寝苦しくない程度には冷やされている。だが今は、別の理由で僕のTシャツは汗で湿り肌に張り付いていた。


「またシャワー浴びるか。みいさんも一緒にどう?」


こちらに背を向けたまま寝ている同居中のミイさんに囁くも、気づいてもくれない。分かっていたことだ、一人狭狭しいユニットバスへと向かう。




こう徹夜とかの変なテンションだと欲望が顕になり易いと思う。汗を流すために風呂に来た僕は、いつの間にかユニットバスの中で血走った眼で棒を右手で嬉々として握り締め、左手にはぬらぬらとした液体が満ちるボトルをべこべこと呼吸させ汗を流していた。気が付けば風呂に篭って一時間くらい経っていた。


これはやりすぎたな、出るか。


結局汗を浮かべながら部屋に戻ると、ミイさんが激怒して待っていた。

部屋中に立ち込める異臭に鼻をひくつかせ、顔を獣の様にしかめて無言の抗議をしている。おいおい、ミイさんとの付き合いもそれなりになるが、こんなに怒髪天しているところを見たことねえぞ、これはやばい。


以前読んだ”関係修復の必勝法”のセールスフレーズである”アプローチの一歩目が肝心!男としての度量が試される!”がなぜか頭に浮かぶ。そうだよね、ここで軟弱な態度を示せば今後軽んじられる、軽んじられればついと出て行かれる。ビシッと決めてみせよう。

そして僕は部屋中の窓を全力で開け放ち、深々と土下座を猫に捧げた。


「ごめんよ、ミイさんが塩素系の洗剤だめだって知らなかったんだよ」


猫のミイさんは床に伏す僕の背中をわざわざ飛び越え、ベランダにある雨どいを伝って屋根へと消えていった。その立ち去る背中は、怒りの程を十二分に物語っていた、猫のくせに。僕はベランダに出て、屋根へ向けて遠吠えする。


「覚えていろ!今晩は高級マグロ缶だ!すぐにひざまずかせてやりますよ!帰ってきてくださいよ!」


あと忘れない内に冷蔵庫の買い物メモにしっかりと書き足した。




部屋には僕一人が残された。眠れないが、やりたいこともなく暇だ。

仕方なく未だ冷めやらぬ掃除のテンションを生かすことにした。


時刻は午前6時、静かにベランダの欄干を拭き万年床の敷き布団を干す。

あと多くはない家具もベランダに全部並べた。物がなくなった六畳を見れば、日焼けによる色あせ具合が場所ごとに異なり、パッチワークのようでちょっと楽しくなった。畳の目に沿って雑巾を何度もかけ、汚れやほこりを無心で綺麗にし続けた。

一面雑巾がけが終わる頃には、部屋は明るく、そして熱くなっていた。時刻は午前10時を過ぎたところで、道路のアスファルトから登る熱気と照り返しで部屋はサウナ状態になっていたのだ。



ぼ一っとする意識に何か引っかかる。今日はなんで早起きしてたんだっけ、、、

少しづつ覚醒する脳の動きに伴い、背筋に冷たい汗が流れた。



「合格発表の時間を過ぎとるうおおおおおお!」


8月に受けた外部記憶領域技術士試験の結果発表が本日の午前9時であり、

緊張して眠れず、夜を明かしたことをはっきりと思い出した。


「なに掃除してんだあああうああああ!」


端末を開こうにも雑多に押しやった家具の山が邪魔して、どこにあるかわからない。掻き分け探すこと10分、やっと見つけた端末を開き電源を入れる。が、今度はそこから手が震えてしまい進まない。時間が経つほど緊張の糸がどんどんと心を締めつけてくる。じっと端末と睨み合ったまま、1秒、10秒、はたまた1分の時が経ったあと、意を決して端末を操作し、通知のメールを目をつぶって開封した。



安っぽいメール開封音の後、うっすらと開けた視界には合格通知の文字が伺え、、、いやいや信じないよ!どこか不の文字が付いているかもしれないし、文字反転して隠しているかもしれない。

そこから、それこそ舐めるように100回以上確認するとどうやら本物らしいことが分かった。その瞬間、全身の細胞が浮足立つような感覚であふれ、手足が勝手に震えだす。声を出そうとも思ったが、いつの間にか渴ききった喉は開くことさえ出来ず、すうーっと気が遠くなり、力なく畳へと吸い込まれる様に倒れこんでしまった。僕はどうやら喜びと脱水症状でプチ痙攣したらしい。




倒れたまま少し寝て、水を飲んで、振り切っていた感情と痙攣とが収まると、ようやく確かな喜びが脳から体中に流れ出した。足の先まで喜びで満たされた僕は、自然と頭を伏せ神に感謝の祈りを捧げていた。


「ぃいいいんやあああああほおほおおおおおおい、これで人生楽勝だあああああああい、ありがとうITの神様あああ。」




今回僕が手にした資格は、現代社会においては“向こう50年人生ファストパス”などと呼ばれる代物だ。これがあれば世界の一流企業から超好待遇でスカウトして貰える程に、社会的需要が高騰している資格なのである。やはり良い環境で、楽して、そう楽して儲けたいという僕の野望はここに完成した、いやここから始まるのである、素晴らしい。




*****

現在進行形で人間の在り方を変え続けている革新的技術、それが“外部記憶領域技術”である。人間の脳が持つ記憶を電気信号に変換し、外部記憶領域と呼ばれる外付けドライブに記憶として半永久的に保管することを実現した技術だ。この発明により既存の知識、技術は一から習得しなくともよくなった。ショッピング感覚で超一流の知識、教養、技術を習得出来てしまえるようになったのだ。もちろん装置使用に際しては、適性や訓練が結構必要であるし、ちょっとしたトラブルでも超高度な専門性が要求されるという問題はある。だがそれらを踏まえても、社会構造を変えるには十分なインパクトを与えた技術である。またその技術者も厳しい認定制となっている。

*****




興奮も一時間強もすれば落ち着いてきた。

僕はもう外気技術士な理性的な大人だから、一時間もこうやって祈りつづければ、こうやってクールになれるのだ。


「夏の熱さにも、冬の寒さにも負けず、嫌がる先生に試験対策してもらった甲斐があったな。よし、とりあえず皆んなに一報をせねば。」


まずは、ベランダに向かい声をかける。


「ミーイーさーん、おい山田さーん、無事受かりましたよ一!」


そして、数少ない友達に端末を取りだし、メールを一斉に送る。

“おい私だ。暇ですか?お時間ありましたら是非遊びに来い下さい。”


30秒もせずに端末が着信音を告げる。画面には岬都場沙の文字が見える。早すぎる、こいつはメール依存症だろうか?心配だ。


“そんなことより結果はどうなったんだ?”


次は10分くらいして端末が着信音を告げる。画面にはゴジラの文字が見える。ゴジラからは早くもお祝いの返信だった。


“おめでとう!暇!何時ごろ行けばいい?”


無事に2人全員から返信が貰えたこと、気にかけてくれていたことに素直に嬉しく思い、メールを作成しながらついニヤニヤしてしまう。友達が2人というのも少ないかもしれないが僕には十分だ、人間身の丈にあった交友関係作りが肝心と”ママにこっそり教える!我が子の友達作りのお手伝い“に書いてあったしな。


“諸君、1600時に我が家に集まられたし!あと合格しましたありがとう!”

と返信し、残る片付けに精を出す。早朝とは異なり力がほとばしる、これが外気技術士の力か恐ろしいぜ。



本棚を壁際に戻しながら、ふと本当に良い奴らと知り合えたなとしみじみと思う。

岬くんは同じ学部、同じ研究室で一緒に新世代型の人工知能の研究開発を行っている。根が真面目で良いも悪くも裏表がない。あと下の名前で呼ぶとキレる。

ゴジラは別の学部だが岬君の中学来の友達らしく、岬君づてで食堂で飯を一緒する機会が多く、その内好きな女優まで把握しあう程の仲となった。

最近は試験のために、二人とも付き合いを悪くしていたのだけど、変わらず接してくれたし、たまに励ましのメールをくれるほどだった。

晴れて試験が終わったことだし、久しぶりに3人でどこかに遠出でもしようかと二足遅い夏の予定を膨らましながら、未だ熱量を増す陽の光の下で布団を叩きつづけた。




日も僅かに傾きはじめ、掃除を終えて畳の上で心地よく疲労した体を寝転がしていると、集合時間10分前に岬君が、ちょうどにゴジラが来た。

岬君は過去に10分遅い嘘の集合時間を伝えて激怒させて以来、嫌がらせのように絶対に10分早く来るという悪癖持ちだ。


迎えに出ると岬君は紙媒体の古本を、ゴジラは四角張ったビニール袋をそれぞれ渡してきた。お祝いだそうで、予想外のことに目が飛び出るほど嬉しくなった。


さて一般的に古本は過去から現在まで右肩上がりに高騰し続けたため、結構な高値となっており、なかなか手が出せる品ではない。僕らが大学から支給される給金はそんなに高くないため、岬君が安くはない努力をしてくれたことがまざまざと伺える。

そこまでしなくてもいいのに、本当にいい奴で困る。

たださらっと渡して、その努力をシレッと隠している岬君の態度が、大変申し訳ないことに鼻に付いてしまった。さあ吐くんだ。


「岬君、なんかこの本の装丁汚くない?拾ってきたやつ?」


もちろん嘘だ。この本は前から欲しかったモノの一つで、高額なこと、発行年代からすれば装丁が綺麗なことも知っている。さあ吐くんだ。


「おいこれいくらしたと思ってんだ!!!それ丁寧に扱えやコラ!!!」


岬君は怒りの形相で言い返した瞬間、はっと何かに気づいたような焦りの色を浮かべて押し黙った。よしきた!

岬君は表情を白黒させた後、恥ずかしそうに赤面している。

さらっとカッコよく渡したかったんだよね、勢いで自らの頑張りを告白しちゃって恥ずかしいんだよね、ああああ楽しい。

その後ゴジラがくるまで口をきいてくれなかったのは言うまでも無い。


ゴジラは昔の恐竜映画の映像ディスクを3枚セットでくれた。

黒くてごつごつした恐竜みたいな怪物がプリン卜されたアンティーク感ある外装パッケージだ。それに対し岬君は、さっきの出来事を消したいのか”お祝いなんだから、ゴジラの好きなモノじゃないほうがいいんじゃないか”と勝ち誇ったように窘めているが、引き続き愚かだな君は。

ゴジラは“これの良さがわからいなんて”と返し、岬君を不思議がらせた。

そう、岬君はこのパッケージの封が切られていることに気づいていない。いや封が切られているということの意味に気づいていないのだ。僕は揉み手をしながらゴジラに向かいお礼を述べる。


「いやほんと、ゴジラありがとう!やっぱりかないませんなあ!」


「ふふふ、そちもわるよのお。」


3枚の映像ディスクの下には、別の映像ディスクがそれぞれいつものやり方で隠されているのだ。まだ確認していないが、きっとこの日の為に厳選されたゴジラセレクションだろう。僕が好むポルノ女優を完璧に知る心友のおすすめが楽しみで仕方ない。




太陽が沈み、空のスクリーンが鮮やかなグラデーションで染め上げられる頃、僕らは飲み屋街に向けて出かける事にした。出かける前には、念のため同居人にひと声かける。


「山田さ一ん」


「・・・」


「ミイさ一ん、ミイさあ一ん」


「ニャ一」


「お、キタキタ。ご飯は祝いのマグロをセットしてあるから食べてね。じゃ、行ってきます。」


「ニュ一」


夕方になって涼しくなったせいかふらっと戻ってきたお利口な我が家の猫に留守をお願いし、ウキウキと街へと繰り出した。街中は、昼の熱気に閉じ込められていた人々が一斉に解放されたせいか、いつもより賑わいを見せていた。



僕らの目指す先は飲み屋“姥捨て山”だ。

この飲み屋、名前のごとく従業員が全員おばあちゃんという変わった店だ。そういう特殊性癖の人が訪れるお店ではなく純粋な割烹でわが町の隠れた名店で、まるで里帰りしたかのような錯覚に陥るのが売りらしい。あと飯とつまみが非常に美味いというか心にグッとくる、一度知るとほぼ必ずリピーターと化してしまう程にうまい。

そんな我らが聖地姥捨て山に向かう途中、大きな交差点を占拠し交通渋滞を起こしている集団がいた。全体的に赤色をした彼らは、現在世界的に有名な団体“外部記憶領域装置排除派”だ。僕らも、その横をかき分けるようにして必死に進む。


ぶよぶよと膨れ上がった集団の中心にいるリ一ダ一らしき人物は、拡声器を使って街頭へ主張を吐き出し続けている。

「本来の人間のあり方に戻るべきである」

「昨今の記憶喪失事件は装置の副作用によるものだ」

「人類の脳を蝕む病原菌が混ざっている」

「BrainSoftの人類奴隷化の陰謀であり、屈してはいけない」


彼らのセ一ルス卜一クは間違っても都市伝説の域だが、一定数支持者がいるらしく大変に盛況だ。何より持たざるものの行き過ぎた主張が主題なので、細かいことを気にしている人はその中にはいない。僕らはほうぼうの体で集団を抜け出し、脇道にそれる。



外部記憶領域技術と汎用の外部記憶領域装置【エクステーゼ】が世に出て10年経った現在、エクステーゼの有無により生じた圧倒的な社会格差が彼らの原動力であることは等しく暗黙の大前提となっている。

発展途上の技術のため、装置を手にできない人、手に出来ても適正がない人は少なからず存在した。そうした人達は、活躍の場をどうしても奪われる社会構造となってしまっている。彼らにしてみれば望んだわけでない技術で、格差を勝手に押し付けられた理不尽は許せるものではないだろう。

だから持つもの、持たざるもの等しく暗黙なのだ。




姥捨山に到着し飲み始めれば、一杯空ける前に岬君が愚痴り出した。

ゴジラと危惧していたとおり、道すがら遭遇した様な団体に折り合いをつけるのが凄く下手くそな友人なのだ。


「彼らにも言い分があるのはあ、ある程度理解するんだよ。だけど現在の各種社会問題を解決した原動力はなんだとおもうているんだと。外部記憶領域技術やエクステーゼが無ければ、現在の社会制度は成立してないだろうし、近年解決された技術的課題は10年前と同レベルのまま衰退していただろうよ、ああん」


ビール一杯でそこまで荒れるなんてイケメンなのに残念だ。

そして、さすが10年来のコンビでゴジラが乱痴気野郎を諌めてくれる。


「でもエクステーゼ利用による脳構造の変化について、その副作用はまだはっきりしていないんでしょ。僕らもそのうちふと記憶がぷっつん消えてしてしまうかもしれないよ」


「エクステーゼ販売元のBrainSoft社がなあ、そんな検証を抜きに一般にリリ一スする訳ないだろう、全くの妄言だ。」


「岬、それは回答になってないよ。エクステーゼ利用による脳構造の変化だって、それ自体正式に発表されている効果では無いし、なにか隠しごとあるのかもよ」


「そうだ、そうだ、特製隠し鯖煮を一つ」


「だとしてもだ!人間種として見れば、現在問題視されている記憶喪失事件の規模はかなり小さく回帰主義を掲げる程じゃない。まして、回帰主義を掲げた過激派の悪意による人的被害がアホほど出ていいわけなんかない。この社会を支えているのは技術なのに。」


「岬、技術は人が人のために創り上げたものだ。」


「技術は鶏肉を揚げるためのものだ、吉田流竜田揚げ一つ」


「ゴジラのいいたいことは分かるんだ。エクステーゼを持たない人と持つ人では外部記憶領域技術に対する印象は180度違うし、僕らはそれを理解した上で使うのが礼儀なのかもしれない。ただ、俺が言いたいのは、エクステーゼ利用による脳構造の変化はメリットと言い切れないってことなんだよ。脳の進化により自己を編成されるから、エクステーゼを使う前後では厳密には同じ人間と言い難い気がするんだ。エクステーゼを使い、己を変えてまで社会に貢献しているとも言えるんだから、扱いを考慮してほしいっていうか、よく考えてほしいんだ。」


「岬くんよ、なんか嫌なことあったのか?そうだ、この後久しぶりに岬君の好きなロボ卜ルを見に行こう、な。機嫌なおそうぞ、あ、すみません、ご機嫌肉豆腐を一つ!」


「おい猫野、俺は元気だ、バカにするな!まずお前はそのふざけた名前をどうにかしろよ、猫野信頼なんて悪ふざけみたいな名前やめろ。あとは、意地汚く金儲けばかり考えてないで、ちっとは人類の進歩に貢献しろ!人類の進歩は俺たちの手の中にあるんだぞ、おおおん?」


その後、岬君は僕の注文した料理を一人でかっこみ、説教を始め、ヒートアップし続けた。岬君も名前については人のこと言えないと思うんだけど決して言えなかった。そして2時間もしないうちに周りから不快感を買い始めたので、ゴジラと二人で店員のおばあちゃんに平謝りし、約束通りロボトルが行われるアリーナへ岬君を間に挟んで連れ出すことになった。




“地民アリーナ”と書かれた看板が見えてくる、これが見えればもう目的地に着いたものだ。あちこちへこんだ看板の下には、地下へ下る長い階段が続いている。


階段の先には両開き扉が片方だけ開き、油と汗と歓声で満たされた空気が流れ出ていた。ロボ卜ルことロボットバトルが流行ったのは、僕らが大学入りたての頃で、当時は3人でよく観戦しにきては負け続けたものだ。現在は一時の熱狂的な流行も廃れ、今はそれほどの集客は無いようだ。


中央の大型スクリーンには、エントリ一しているロボットの紹介を垂れ流しているが、その数も全盛期に比べれば少ない。地下に広がる空間の中央、一段高い円形ステージでは、人の腰ほどの高さのロボットが腕を振り回していた。ロボットの中身も外見も、通っていた頃と似ていて、懐かしさを覚える。アリーナはオーナ一の特色がでるらしく、ここは昔ながらのレギュレーションのため地味で一時代遅れた機体ばかり出ている。もちろん最新機種向けのアリーナの方が主流であり、そういうとこは変わらず盛況を誇っているらしい。最新といってもそんなにすごいわけではないし、映画の様なロボット軍団みたいのは未だ実現されていない。


さあ楽しもうと席にステージを囲む一席に腰を下ろすと、隣から舌打ちと呪詛の様なつぶやきが聞こえてきた。そう乱痴気野郎岬君だ、やめてくれ、おおおい!


「なんであの頃から進歩してないんだよ、こんな骨董品なんかにだれも金なんか払わねえよ!」


おっほい、すごいグレてるじゃんね。僕らまで周りのおっさん達から睨まれているんですけど、どうすんのこれ?!




結局僕らは一戦も見ることなく、賭けることなくなく岬君を連れて速攻で逃げ帰ることになった。その後、後味が悪かったので我が家で飲み直したが、岬君はしこたま酒を飲ませて寝かせることになったが、許されるだろう。明日意識がはっきりしたら楽しみだぜ。


その夜、我が家のミイさんはお詫び飯で許してくれたのか、酒臭い男三人が騒がしかったにも関わらず、お気に入りの足ふきマットの上でいつもの様に気持ちよさそうに寝ていた。癒された、やっぱりいいなあ。


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