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月桂樹は裏切りをさす  作者: 和久井暁
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カナリヤだった者

第九章 カナリヤの檻


全員予想外の展開についていけず、早くもショート寸前だ。

「なんかややこしいな。 誰かついていけてるやつ説明してくれ」

 頭を動かすことより脳筋的な部分の多い武斗が言った。

「琉惟と、麻斗、長谷井君もついていけてるんじゃないの」

 そう言われて今まで黙っていた長谷井が頭を振った。

「正直私もここまで話が込み入ってくると、何が何だかさっぱりです。 なんというか次元が違い過ぎると言うか」

「俺も正直わけがわからん。 香月はこんなものを背負ってたのかと思うと情けないくらいだ。 あいつ相当無理してると思う」

 失笑する麻斗に、みんな一様に重い溜息をつく。

「それにしてもなんだか、わけがわからないな。

 暗示めいた符号が多すぎる。

 麻斗、僕も図書館に戻っていいかな?

館内の外部からのアクセスや、二十年前とか金糸雀とかのキーワードで何か出てこないか探ってみる。

 香月さんは僕に顔が知られてるから、来場はしてないと思うんだ。

 それにもしかしたら、何かきっかけがつかめるかもしれないから」

「わかった、冬哉頼む。 こっちも何か、わかったら知らせる」

「オーケー、じゃあ、みんなまたね」

 そう言って冬哉も出て行った。

「じゃあ俺たちは香月さんが残したファイルと、このメモリーディスクの内容を見ますか。 パソコンは俺に任せて?」

 健治がここぞとばかりに張り切る。

 小説家の健治は年中パソコンの画面と対峙しているので、長時間のパソコン作業は得意なのだろう。

「じゃあ、ぼちぼちやりますかね」

 みんなそれぞれ移動して、ファイルを持って好きな場所で好きな姿勢で眺める。

 一方健治は、麻斗の寝室にあるパソコンを立ち上げて、メモリーディスクをセットする。

 ディスプレイに表示されたメモリー内のデータの呼び出しをクリックする。

「にゃ? えー?」

 健治の奇声に麻斗がやってくる。

「どうした? 壊れたか?」

「違う、このメモリ大量のデータ保存できる奴なんだけど、本人以外に見れないようにロックかけてある」

 ディスプレイの中央に小さな吹き出しで、『キーロック解除をしてください』の文字と、キーボードを打ち込むような空欄がある。

「あっちゃんなんかキーワードない?」

「さあ、これ使ってるところなんか見たことないしな。 キーワードって言われても……とりあえず香月の誕生日でも入れてみるか」

 19××1125 エンターキーを押す。

 文字の映ってる吹き出しが明滅して、無反応だ。

「なんか、違うみたい」

「たぶん違うが、一応守の誕生日も入れてみよう」

 20××0713 また同じ反応だ。

「あっちゃんにこれパスね。 俺がこれやってても永遠にとけないっしょ? とりあえず、資料組に加わるから、あっちゃんはここでロック解除ね?」

黄色いパーカーの前ポケットに手を突っ込みながら、肩を落とす健治はやれやれという調子で出て行った。

香月のことを考えながら入れてみた。

『canary』

 どう考えてもよく出てくるのはこの単語だ。

『canary』日本語に訳すと金糸雀。

エンターキーを押してみる。

画面が明滅して今度は音が流れてきた。

♪~

「『とうりゃんせ』だと?」

 音が以外にも大きかったらしく残ってた三人が見に来る。

 信号機の音にも以前使われていた、童謡の『とうりゃんせ』のメロディーが鳴り響く。

「何々? この音? 解除できた?」

 健治が画面を覗き込んでくる。

「『エラー、記録物を抹消しています』っておいマジか?」

「げっ、マジでかよ? ちょ、これ、どうにかならないか?」

 焦る麻斗はマウスを動かしたり、キーボードを触るが完璧に自制を失っている。

「落ち着いてあっちゃん。 これさ、曲がまだ途中だからなんとかなるかも、まだキーボード生きてる?」

「ああ、まだ……」

 冷静な健治が席を替わった。

「親友を翻弄するなんて意外と悪い子だね香月さん。

 俺も怒っちゃうよ」

 努めて冷静な口調だが、今までにないくらいの真剣な顔で健治が指をパキパキ鳴らして、キーボードに向かう。

「あっちゃん、なんて入れたの?」

「canary、金糸雀カナリヤのことだ」

「ふん、なるほどね。近いんだと思う。

 たぶんだから知らないけど、普通はロックが余計にかかって開けれなくなるか、一定時間操作できなくなるかだと思うんだよね。

 でも、削除ってことは、つまり見られたくない物があるってことだよね。 他に思いつく単語は?」

「月桂樹?」

 健治が『laurel』と打ち込む。

『エラー』の文字が出る。

「珊瑚?」

 『coral』またエラー。

「ちっくしょう! あっちゃん他は!?」

珍しく健治が声を荒げる。

曲も終わりかけだ。

 その時麻斗はふとあることを思い出した。

「cage of canary!」

 健治が急いで打ち込む。

 ピーっという電子音の後、メッセージが流れた。

『記録九十パーセント削除完了。キーロック解除しました』

 曲も止まった。

「畜生! ごめんあっちゃん……。 九十パーセントも削除って」

「いや、どっちみち、俺もすぐにキーワード思い出せないのが悪かった。 ありがとな、健治」

 健治が顔の真正面で合掌する。

「でもなんで『金糸雀の檻』だったの?」

「香月のメアドだ。 おそらく金糸雀組のことをそう例えてたんだろう」

「は? 香月さんのメアドは『mamoru.lily』だろ?」

 騒ぎで来ていた武斗が不思議そうに言う。

「今はな、付き合い始めたばかりの頃のメアドが『cage.of.canary』だったのを急に今さっき思い出した」

「でもなんで? 最初はなんか月桂樹だとか珊瑚とか言ってたの?」

 肩凝ったと言わんばかりに健治が肩を回す。

「あれはやっぱり思い出すって言ったら、出て行った日にわざわざ残したローリエの葉っぱとか、デートの時によくつけてた珊瑚のブローチしか覚えてなかったからな」

「後は酔ってたからあんまり記憶にないが一度言われたことがある。

『所詮私は檻の中の金糸雀』って、『籠の鳥じゃないのか?』って聞いたら『さあね』ってはぐらかされた」

「そーいうことは先に思い出してよ~」

 気の抜けた健治がだらしなく椅子に崩れた。

 ディスプレイではファイルが開けるようになっていた。

「これしかないみたいだね。 開くよ?」

 健治が引き続きパソコンを操作している。

「なんだこれ」

「これが例のウタってやつじゃないでしょうか?」

 そこにはメモ帳に保存された、六篇からなる詩のようなものがあった。

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