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月桂樹は裏切りをさす  作者: 和久井暁
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水龍の内部

第十七章 地下水道の配電室



「さて、健治さん。 では頼みますね? 二時間後に琉惟さんと連絡を……」

「ちょっと待って、長谷井っち!

俺があっちゃんの代わりに行くよ!」

昼食を終えた健治が勢いよく異議を唱えた。

「えっ? しかし、健治さん……」

「あっちゃんもパソコン使えるし、体力仕事があったら、長谷井っちとあっちゃんじゃキツイっしょ? だから俺が行く!」

「……どうします、麻斗?」

「いいんんじゃないか? 俺が残っても。 大丈夫だろ?」

「ではそうしますか。 行きましょう」

「はーい」

 長谷井と健治が中に入っていった。

「結構薄暗い上に、声が反響しますね」

 ぴちょぴちょと水音の滴りを聞きながら足場を歩く二人。

「長谷井っち、地図上では部屋があるのはどの辺なの?」

「やはりというか、蜘蛛の巣状に広がる中心ですね」

「へえ、やっぱりって感じだね」

「ところで健治さん、また何か隠してないですか?」

「へっ? なんのこと」

 健治が豆鉄砲くらった鳩のような顔をする。

「とぼけなくていいですよ? 浄水場の理事長室で見つけたと言う鍵の事です。 確かにどこに鍵があるかといえば、それは責任者の部屋が妥当でしょう。 しかしそれが理事である必要はない。

 部署の責任者でも良かったはずです。

 本当はどこで見つけたんですか?」

「参ったな……、長谷井っちって昔っから着眼点いいよねー。

 確かに理事長室じゃないよ。

 都合よく一番偉い人の部屋が開いてるわけはない。

 ……ロッカールームのね、ロッカーの上さ。

 関係ないからって入って調べなかったでしょ?」

「ええ、そうですね。 でもなぜありかが分かったんです?」

 通路をくねくねと右に左に曲がりながら、地図を指で辿って行く。

 迷う心配はなかった。

 地図があっても実際、迷う人が多いのは予想できた。

 曲がり角ごとに印があり、それを覚えながら道を的確に選んで二人は進んだ。

「女の子だよ」

「もしかして……、また、ですか?」

「うん、実はね。 浄水場に入ってすぐ、休憩室の入り口から覗いてみてたんだよねー、こっちを」

 健治は昔から霊感が強く、何かと見ることが多かった。

 それで昔からみんなで、いろいろとヤンチャをした覚えがある。

「たぶん里中茜さんだと思うんだ。 十歳くらいの女の子。

 長谷井っちは知ってると思うけど、俺、見えても聞こえはしないんだよね。 害があるわけでもなかったし。

 その子がさ、指さして教えてくれたんだよ」

「なるほど、それなら話がわかります」

 それから黙々と三十分ほど歩いた。

 すると、また、あの教会の地下通路にあったような、厳重な金庫のような扉がある。

「これはまた、凝ってますね……。 ここの研究者たちはよっぽど何か知られたくない事情があったと思われます」

真ん中に出っ張った円が三段階の大きさであり。

下から、大、中、小と円が重なって、それぞれの縁の側面に金属棒が突き刺さっている。

しかもどれも特定の角度で止まっていた。

「これどうすればいいの長谷井っち?」

「おそらく金属棒を同じ向き、重なり合うようにすれば動くんじゃないでしょうか?」

「よしっ、やろう」

「うーん、確かにやって探った方がよさそうですね」

 長谷井の同意も得て二人で棒を時計周りに動かし始めた。

「あれ? この棒止まっちゃたよ?」

 一番下の棒を動かそうとして健治が必死に体重をかけてみるがびくともしない。

「どうやら一番下の棒は一回、九十度回ったら止まるようですね」

 長谷井は真ん中の棒を掴んで下に回す。

「あっ、こっちも止まりました。

 ふむ、どうやら真ん中は一回、四十五度しか動かないようです」

 健治が一番上の短い棒を回す。

「一番上はだいたい六十度動くみたい。 反時計回りには回らないみたいだね。 でも、これじゃ一直線に並ばないよ?」

「というか、これって一回きりしか動かせないんでしょうか?」

「さあ……」

 もう一度真ん中を動かす。今度はまた動いた。

「また四十五度動きましたね。 もしかしたらこれは一回動かすと、他を動かさない限り、同じ棒を動かせないのかもしれませんね」

「なーんだ、じゃあ最小公倍数に合わせれば問題ないじゃん。

 早速やってみよう」

 そして棒を適当に回していく。

「ありゃ? おかしいな、回らない……」

 困惑した声で健治が呟く。 棒はまだ最小公倍数ではない。

 てんでバラバラだ。

「他の棒も回りませんね。 どうやらこれは最小八手で回さなければならないみたいですね」

 長谷井が唸りながら扉を見ている。

「にゃ? どうして?」

「さっきから数を数えてました。

正確には一番下一回、真中三回、一番上四回、回した途端ここにスイッチみたいなボタン出てきてますよ?」

そう言って長谷井が一番上の円の真ん中に四角いボタンを指す。

「とりあえず打つ手なしなので、ここは一つ押してみましょう」

 ポチッ……ギュイーン……。

 棒がそれぞれ最初の角度まで戻ってしまった。

「ほらね? 最小八手で解かなければならないんですよ」

「ちょっと、これマジで嫌なんですけど」

 健治が「うえぇ」っと言いながら脱力する。

「でも、これ自体すごくたぶん親切ですよ?

見てください、棒の位置を。

ようは全て百八十度の位置になるように、動かせばいいわけです。

 ゼロ度の位置に一番上と一番下の棒、真ん中の棒は位置的に三百十五度の位置にあります。

 時計回りにしか動かない、しかも最低八回で動かさないといけないと言うことは、今の棒の位置と真逆の位置にあたる百八十度、つまり三つの角度の最小公倍数である、真半分の所に合わせればいいはず」

「うわぁ、正直面倒くさい。

 で? そこまで言うんだから長谷井っちにはわかったの?

 棒のまわし方?」

「はい、一番下はまず二回、そして一番上が一番下に重なるように三回まわし、残る真ん中も八手引く五回の手数で、三回まわせば鍵が開くはずです」

 長谷井が、健治の代わりに扉の前に立ち、棒を動かし始める。

 一番上、真ん中、一番下、一番上、真ん中、一番上、真ん中、一番下。そしてボタンを押す。

 ガキィィイン

 扉が手前に開いてのけ反る二人。

「わお、ほんとに開いたよ。 長谷井っち天才!」

「これは二通りのやり方があるので、頭で整理したらできますよ」

自動的に明かりがついた。

「なんなんだここ?」

 中に踏み込んだ健治が驚きの声を上げる。

 中は浄水場以上の数のモニターが並んでいた。

 制御台のようなものには六つのレバーと英語が書かれている。

「モニターは映ってないですね」

「あっ、このレバー全部英語だね」

 健治が単語をスマホの単語帳で調べる。

「焼却場、金糸雀、教会、地下配電所、書庫、学校っと、これやっぱり例の詩の場所と対応してない?

 わけわからなかったし、解釈が少し強引な気もするけど、実験してたってくらいだから、焼却場はおそらく、色んな物の処分場も兼ねてたんじゃないかな?」

「それは同意ですね。 この村は閉鎖的な感じもしますし、歴史や過去を紐解くともしかしたら、とんでもないものに行きつくかもしれませんね」

「あっ、長谷井っち。 このレバーだけ下に降りてる」

 それは金糸雀のレバーだった。

「これは浅生さんや、男爵が言っていた金糸雀館の事ではないですか? とりあえずこのレバー全部下しましょう。

 地下配電室ってここの事でしょう。

 これでまた先に進めるわけですね」

 全てのレバーを下す二人。

 地下配電室のレバーを下すと、モニターが砂嵐を一瞬うつして、各々の場所を映した。

 多くの物は見覚えのない場所だ。

「長谷井っち、これ見て!」

 健治が指したのは全体的に薄暗い画面で、巨大な円柱型の水槽が写ったモニターだった。

「これは、香月さん!?」

 水槽の中、酸素マスクみたいなものを取り付けられているのは、間違いなく香月だ。

「健治さん、これってどこの映像ですか?」

「これは……金糸雀館だよ!」

 声に焦燥の色が滲む。

「とりあえず、ここを急いで出ましょう。 大分遠回りしましたが、琉惟さんたちとも合流して助けないと!」

 配電を終えたこの場所にはもう用はない。

 そう言いたげに二人は元来た道を逆走した。



 長谷井たちが謎解きし、地下配電室から戻っているとき、琉惟達は再び、図書館の書庫に戻って来ていた。

「はー、結局病院にもこれと言った資料なかったなー」

 ナースステーション、事務室の棚、過去のカルテはやはり一枚も残されてはいなかった。

「なっ、えっ?」

 三人は書庫に入った途端、驚いた。

 あの本棚が動いている。 奥には地下に行く階段が。

「ちょっと待てよ! 誰か俺たち以外にここに来たのか?」

「そうだね、でもここを離れたのってだいたい三十分だよね?

 どれくらい広いのかわからないけど、少なくともばったり出くわす可能性もあるってことだよね?」

 冬哉の話に顔つきがかわる三人。

「虎穴に入らずんば虎児を得ず。 入ろう。冬哉、残っててくれるか?」

「うんいいよ?」

「それと、もうすぐ連絡時間だから連絡頼む。

 俺と武斗が夕方までに戻って来なかったら、村の外に出て助け呼んで?」

「わかった。 じゃあ、二人ともきをつけてね」

 冬哉の見送りを受けて二人は階段を下りて行った。

 階段はだいたい二十段ほどで、まっすぐ伸びた通路になった。

 そして教会の地下にあったような厳重な扉がある。

「この扉って教会の地下のと同じだよな?」

 通路の壁には、貝殻の形のすりガラスの間接照明が、薄暗く照らしていた。

「そうだな、扉の開け方は……」

 扉にはハンドル上の取っ手と、碑文、そして六つのランプがあった。

「なになに?『全ての鍵は通路にあり、鍵は六つ、対応する答えを求めれば道は開かれるだろう』って、なんだこりゃ?」

 武斗がわけがわからないと言いたげに、口をへの字に結ぶ。

「とりあえずこの壁調べてみよう」

 壁をぺたぺた触ったり、叩いてみたりする。

「武斗、ここの貝殻の証明の数が六つだ。

 きっと関係があると思う」

 間接照明をよく観察すると、壁から燭台のようなアームが突き出て裸電球を貝殻のすりガラスが覆っている。

 琉惟はおもむろに一つアーム部分を掴んで引き下げた。

 ガコンっという音と共に、短い碑文とアイウエオの五十音ボタンが出て来た。

「これを解けば鍵が一つ解けるのかな?

 『彼は軍神にして火の名を冠した星、彼の名は?』」

 琉惟はとりあえず、そこをほっておいて、隣の照明も引き下げる。

 するとまた黒い石に銀の塗料で書かれた碑文が出て来た。

 『彼は音楽を好み芸術を好む。 灼熱の星の名を冠した彼の名は?』

 そしてさらに隣。

 『彼は神の中の神にして雷撃を操る。 木の星を冠した彼の名は?』

「武斗、こっち側の壁の鍵は答えわかった。

 そっちも順番に文章読んでって?」

「おう、『彼女は黄金の林檎に選ばれし美である、金の星を冠した彼女の名は?』

 その隣、『彼女は乙女と狩猟を好む、大地の星を周る彼女の名は?』

 さらに隣だ。『彼女は木の名を冠する彼の妻である。 その苛烈な激情はさながらレヴィアタンをもしのぐかもしれない』だとよ」

「なるほど、やっぱりな。

 武斗、最初に行った奴には『アフロディーテ』と入力してくれ。

 次は『アルテミス』、最後は『ヘラ』だ」

「あっそれなら知ってるぞ。 ギリシャ神話の結構出てくる神様だろ?」

「ああ、これは全て答えがギリシャ神話の神になってる。

 こっちはどうやら男神で、そっちは女神みたいだな。

 こっちの答えは『アレス』、『アポロン』、『ゼウス』だからな」

 琉惟はポチポチポチっと入力する。

 扉の六つのランプが点灯して、ガチャっと言う音とともに手前に開いた。

 中は綴り日もで綴じられた日誌のようなものや、子供の写真と名前付きのファイル。厚い革表紙の日記帳のようなものがあった。

 そしてデスクトップのパソコン。

 琉惟はパソコンの前に陣取るなり、起動させてデータフォルダを確認した。

 そしてCD―ROMに保存する。

「武斗、その日記と子供の写真のついたファイル全部持っていこう。

 今日はたぶんこれ以上の収穫はない」

 琉惟が三十冊ほどある写真付きのファイルを半分持ち出し、残りを武斗に押し付けた。

「けっこう楽ちんだったな」

「まあな」

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