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月桂樹は裏切りをさす  作者: 和久井暁
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六編の唄

第十章 六編の唄


太陽に恋いがれ 近づけば

 燃え尽きると 知りながら

 それでもなお 心を燃やし

 激情に身を任せ 身体ごと滅んでゆく


 檻の中で泣く 金糸雀かなりや

 自由を知らず 朽ちていく

 その身は 森の中にあるも

 外界へは 出られない


魂の故郷ふるさと 聖なる誓いの場所

開かない扉を 叩くのは誰?

鍵を開くのは 鳴らない鐘楼しょうろう

 

 清らかな真水を讃え

 地を這う 無数の水龍達の饗宴きょうえん

 水龍達のときの声に

 忘れられし地界の入り口は開く


いにしえを記した古書達の安置所あんちしょ

 日を嫌い 雨を避け

 紙の香りけむる中

 葬られた歴史達は何を望む?

 それはいつか自らに日が当たる事


 協調と和睦 義務と権利によって

 与えられる学芸と 肉体の躍動による喜び

 天使達の集い場 選ばれし悪魔は?


「最初のやつイカロス?」

「は、イカとロサンゼルスがなんで関係あんだ?」

 素でボケた武斗に健治が辛辣しんらつな突っ込みを入れる。

「もー、たっちゃんマジで頭悪いボケいいから。 ギリシャ神話の話だよ。

 確か蝋で作った翼で空飛んでたんだけど、父親の注意を忘れて高く飛び過ぎて、蝋が熱で溶けちゃって、落ちた人の話」

 小説家らしい健治の説明に「へー」と納得する武斗。

「頭悪いなそいつ」

「たっちゃんに言われたら、おしまいだよ~」

「うるさい! 健治、たっちゃん言うな」

 じゃれあう二人を置いておいて、長谷井と麻斗が画面を覗き込む。

「なんですかね。 最後の天使と悪魔が出てくるってことは最初の詩と関連して神話系ですかね?」

「キリスト教とかか?」

「でもそれじゃあ二つ目と、四つ目の金糸雀と水龍は宗教関係ないだろ? むしろここが金糸雀じゃなくて鴉ならわかるが、なんで金糸雀なんだ?」

「そうですね、確かに。 白い鴉ならギリシャ神話のアポロンの使いなんですけどね」

「ここは」

「そうですね」

 麻斗と長谷井は無言で頷くと、健治の肩をポンッと叩いた。

「へ?」

「お前の得意分野だ。 喜べ健治」

「のぉ~」

 頭を抱えて苦悩する健治。

「えー! こんな謎めいた文章の解読任されたら、気になって仕事できないじゃん! ちょっ、マジで?」

「大マジだ。 っていうかお前その年で、そのチャラいキャラよく保てるな」

「だって、これが俺の持ち味だもん。 っていうかこれなんか意味あんの? たまたま削除されなかっただけかもよ?」

「いや偶然じゃないだろ。

 一番最後にしたってことは、何か重要な意味を持つ可能性が高いだろ。 見られてもいい程度の物ならまっ先に処分してるんじゃないか?」

「さ、ここは健治に任せて、俺たちは資料を漁るぞ」

「じゃ、頼むな健治」

「殺生な~」

 健治の声を聴きながらリビングに戻ってくる麻斗と長谷井、武斗。

 リビングに座ろうとした時、麻斗の携帯が鳴った。

「もしもし?」

『もしもし、麻斗? 冬哉だけどさ』

「なにかわかったか?」

『うん、ボイスレコーダーにあったアソウって女占い師のことさ、司書の子たちに聞いたんだよ。

 そしたら偶然居場所知ってる子がいてさ。

 今から行ってみるとこ』

「そうか、こっちは残念な報告が一つある。

 メモリーディスクにロックがかかってて、解除に失敗してデータの九十パーセントが削除された。

 残りの十パーセントはなんか、意味不明な詩みたいな物が残ってただけだ」

『そうか、残念だね。

 でもま、こっちもあんま期待しないで待っててね。

 そうだ、図書館のデータはアクセス者多すぎて絞れなかった。

 さすが、わが図書館。

 特に二十年前の記録調べてた人はいなかったみたい。

 一度その女占い師のとこに行ってから、ちょっと徹夜で調べてみるよ』

「ああ、頼む」

 『じゃ』と短い返事の後電話が切れた。

 麻斗は時計を見る。二時過ぎ。

 色んな事が短時間であったので、実際の時間が遅く感じる。

 資料を見始める三人。

「しっかしなんだなー、香月さん写真でも趣味だったのか?

 ほとんど写真ばっかじゃないか」

 台紙に写真が一ページに二枚ずつ張られている。

「こっちもそうですね。 あとは鉛筆の文字が劣化してかすれて読めない」

 長谷井がパラパラとページをめくる。

「それに奇妙なことだが、人物の写真が今のところ皆無だな」

 風景ばかりが写っている。

 ただブレている写真も多い。

「あっ……、長谷井これ守が書いた絵に似てないか?」

 そこには十字架の石碑と台石の墓碑があった。

「確かに。 まんまこれでは?」

 覗き込んだ長谷井が、写真に目を凝らす。

「名前がありませんね。 誰の墓でしょう?」

「さあな。 それよりこの写真たちは一体どこの写真なんだ?」

「確かに、一つの町みたいなところだよな?」

「全体像が掴みにくいですが、恐らく同じ町内かなにかだとおもいますよ。 ただ、字がもう少しはっきりとわかればいいんですが」

 その後も風景の写真が続くばかりで、なんの手掛かりも得られない。 いたずらに時間だけが過ぎて行った。

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