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きっかけ

やはりシャルは私の夢を奪う敵だわ。


夕食後、お母様に怒られたのは私だけというのはいいけど、「私のせいでもあります」とシャルにかばわれる感じになったのは、納得いかない。


部屋に戻り一人でいるとどうしても、もやもやしてくる。目の前にある歴史のノートには乱雑に書かれた文字。昨日までの文字はもっと丁寧に書かれている。重い空気が口からでる。

勉強して見返そうにも今は冷静さを取り戻さなくてはいけない。


立ち上がり窓を開けた。さっき出した重い空気の分だけ大きく吸い込んだ。とたん冷たい空気が身体にはいり咳き込む。

「もーやだ」

咳き込んだためにでた涙をふき取ると暗闇が広がってる。部屋からは家を囲む樹木のため空しか見えない。空には丸い月が出ていた。


あの日の月も丸かった。もう10年まえになるだろう。ちょうど今と同じ時期、その時の下宿人。名前が思い出せないけど、私のことをかわいがってくれた人とお父様と話。

「混乱している公国の役人になっていいのでしょうか」

悩んでいるその人にお父様はきっぱり言った。

「行きなさい。混乱はすぐ止む。大学に庶民が入れる滅多に無い機会を逃してはいけないよ。この国が不安なら王都の大学で推薦を受け、中央の王国の役人を目指しなさい。君ならできる。・・・まぁとりあえずは村の学校の初夏に行われる試験で推薦をとることから目指しなさい」

「そうですね。気がはやいですよね」その人は横でその話を聞いていた私を見ていった「カナも将来王都に行くの」


私はその時うちに下宿する人が皆半年ぐらいで村からいなくなることに興味と不安とをもっていた。あんなに楽しそうにうちで過ごしていたのに安住することなくいなくなる。手紙では懐かしいと書きながらお父様に会いに来ても、すぐに手を振って去っていく。私はいつも手を振られるほう、立ちどまっているほうなのだ。行くほうはきっと期待に胸が膨らんでいるだろうが残される私は寂しい。


「私も王都に行きたい」


この一言は勉強をしたいという純粋なものではなく、不純な気持ちから出てきたもの。でもこの言葉を口にしたことで気持ちがずいぶん楽になった。あの日、私もここから出ることができるのだと分かった。あの言葉を私に言わせた人は、予定通り推薦を取り手を振り出て行った。ただそれを見送った私の気持ちはいつもより軽かった。


お父様は私より弟を王都に行かせたがっている。そして私には後を継いでもらいたいと思っている。

王都に行く機会は一度だけ、次の試験では弟が15才になるから譲らないとならない。

一昨日までチャンスが一度でも私は大丈夫だった。ここでは私に勝る人はいなかったから。


がんばらなくてはいけない。



ふと外を見ると月明かりに光るものがいる。

シャルだ。

物干しのところで何かしている。こんな夜中に冷たい風に吹かれ何しているのだろう。

ひらひらしているのを干している。

干しているものを確信して思わず身を乗り出す。

「ちょ、、ちょっとそんなの干さないでよ。ここから丸見えよ」

私はあせり大きな声をだす。


今日、使用したと思われる下着がきれいに並んだ洗濯物。シャルは私の悲鳴を聞こえないのか無視しているのか、満足いった感じでうなずいている。「なんでこんな夜中に、私の部屋のまん前に・・・」部屋から飛び出し、裏口から物干し台に急ぐ、居間の扉の前でお母様とぶつかる。


「カナ。家の中を走るとは何ですか」


「違うの。お母様。聞いて、外に洗濯物があって、シャルが干していて、私の窓から丸見えなの」

言っているめちゃくちゃだ。でもお母様は分かったようだ。お母様の後ろでかごを持ち、ぬそっとシャルが現れた。

お母様はシャルの方に向いて問う


「シャル。洗濯物を干していたの」

「はい。洗濯物を干してました・・あの何か問題でもありましたか」

「こんな夜に?」

「朝は干す時間が無いので、それに」

「出してくれたら私がします。遠慮しないように」


お母様の口調に少しシャルは戸惑いをみせた。しばらくうつむき何か言いたそうだったけど「ありがとうございます。これからそのようにします」とお母様の意見にしたがった。






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