決意
食堂に行くと、すでに夕飯の準備が整っていた。
既に席についている弟は身を乗り出して、隣の王子に何かを話している。私に話すよりも楽しそうな口調だ。
ムカムカする私にお母様が席に着きながら「カナ。席について。お父様は今日帰りが遅いので、先にお夕食を頂きましょう」と言う。
私がいつもより乱暴に座るのをお母様は黙ったまま静かに見ていた。多分寝る前に説教されるだろう。いつも私ばかりに厳しいのだから困ってしまう。お母様の視線をわざと気がつかないふりをする。前を向くから王子が食事に向って祈る姿が目に入る。ムカムカするが冷静に敵を知らねば・・・何者かそして、
「どうしてここにいるのだろう」
口に出てしまった。
シンとしたその場が固まる。
お母様がため息つく。
「姉ちゃん。シャルは王都に行くためにここにいるんだよ」
ムカ。
「でもね。シャルは王都に住んでいたんだって」
???王都にいた?
王子のほうを見るとばっちり目が合う。なぜか照れたように視線をそらしながら口を開いた。
「それは幼いころです。10の時にブルレア地方に移り住み、それからはそこで暮らしていました。半年ほど前、育ててくれていた人がいなくなってしまって、困っていたときにあなたのお父様に助けていただいたのです」
「ブルレア地方?」
「はい。ここよりもずっと北のほうです。多分ご存じないでしょう。小さな村が点在している。美しい場所です。こちらのように発展してませんからすべて自給自足でしたし、一番近くの家はここから学校までの距離がありました。だから稀に行商人がくると幼いころは喜んだものです」
「ここより田舎ってあるんだ」
しみじみ世の中は広いのだなと思う。
下宿しながら学校に来ている人の話でもここは大きなところだとは何度も聞いた。でもそれは学校があるか無いかだけで考えているのだろうとも思っていた。
私には知らないことが多い。
この村にある書物をすべて読んでも理解できないことがあるのは、本当の何かを知らないからだ。
でも王子は色々知っているんだ。
お母様と弟はすでに違う話で盛り上がっている。
私を取り巻く空気。私の世界。変わることの無い環境。
いままでもこのように下宿させることはあった。みんな良い人ばかりだったし、博識だった。でも王子ような感情を持ったのは初めてだ。同じ目標を持つ点やその目標が一人しか得られないということもあるのだろう。
「シャル。私、負けないから。王都に行くのは私なんだから」
食卓はシンとした。シャルは静かに私を見る。
「カナーディア様。承知してます」
落ち着いた様子で言葉を続ける。
「しかし私も行かなくてはなりません」
飛び散る火花に弟は「なんかかっこいい~」とつぶやきお母様にたしなめられていた。




