帰路
周りは薄暗く、だんだん冷えてきた。
背中の石も座っている地面からも氷みたいに冷たいけど、涙が止まらなくては家に帰れない。
涙止まれ~って、念じても止まらない。
「カナーディア様。そこにいらっしゃったのですね」
私の頭に温かい布がかけられる。嫌な人に見つかった。王子の声だ。
「大丈夫ですか。足を痛めたのですか」
心配そうにかける声が耳に響く。
私は視線を下げたまま黙っていた。
「横に座っても良いですか」
何も反応しなかったのに王子は許可なく私の隣に座った。ちょっとムッとしたけど、身体がかなり冷えていたようでしばらくたつと右側が心地よい暖かさに包まれた。
王子は何も言わないで私の横に座っている。
こんな人のせいで、なんで隣に座るの。なんで暖かいのよ。
また涙が出てきて、わからないうちに嗚咽まで漏れていた。王子は黙ったままだ。
私は泣いた。王子に見られてももういい。
恥も捨てて泣いた。
いくらなんでも黙ったままなんて、おかしいと感じるぐらい泣いた。
王子のほうをちらと見ると、目を閉じていた。王子を見るために動かした身体は微妙なズレを生じたのだろう重たくなって仕方なかった。気持ちよさそうな呼吸音がかすかにきこえる。
もしかして、じゃない、確実に寝ている。
この人、私がこんな悲しんでいるのに、寝てる。
私、泣いていたのに、信じられない。
胸の奥底からムカムカしてきた。
王子の体から離れ、横に仁王立ちになった。
すーっと息を吸い込み初めて王子に自分から声をかけた。
「いつまで、寝ているの。」
冷たい声をかける。
王子はぱっと起き上がり、私の顔を確認して、「大丈夫でしたか」と優しく言う。
気を使うなら、寝ないでよ。
「何が」
「泣いていましたよね」
「・・・・」
「落ち着きましたか」
同情なんてされたくない。極めて冷静に声をだした。
「私は・・・泣いてない。今、ここに来た。寝ているあなたを見つけた。そして起こした」
王子が訝しげな顔になるのがおもしろかった。
「早く帰らないと家族が心配します。あなたは慣れない道で迷子になって、うっかり眠ってしまった。のでしょうね」
王子は私の顔を凝視したまま立ち上がった。私は厚手の布をしっかり持ち、家に向う道に行った。
玄関を開こうとしたとき、王子が私の手を止めた。
「カナーディア様。家に入る前にマントを私に返して下さいませんか」
視線を下げると泣いていたときにかけられた厚手の布。これ私、朝、見た。
「これはあなたのマントね。なぜ私が持っているのかしら。知ってる」
王子様は私の眼力が届かなかったのか、優しい笑みを浮かべた。
私は恥かしくなって、マントをすばやく脱ぎ、前にぐっと押しだした。
「返す。ありがとう」
王子は丁寧に受け取ると、私の頭の上で手を伸ばし玄関の扉を開いた。




