試験まで
どうしてシャルはどうして王都に行きたいのか
いつも教えてくれそうで教えてもらえない。のらりくらり意味ありげに何かを呟き終わる。私は推測するのに時間がかかる。結果、勉強は進まなくなる。
もしかしてこれは私をダメにする作戦なのかしら。
シャルは試験が終われば消えていく人だ。私には関係ない。
そう、何者であろうがいずれここから出ていく。
私はこのままだと残ってしまう。永遠にここから出られない。この村でずっと、弟が出て行くのを送り、教え子が出て行くのを送り続ける。
「カナーディア様、お茶をどうぞ」
私の前にティーカップが置かれ、見上げると優雅にほほ笑む自称英雄の子孫。
「いかがされました。カナーディア様。」
「いいのに。もう。『カナーディア様』なんて言わなくても。呼び捨てでも、『カナ』でも・・・それこそ『がり勉』でも好きなように言えばいい」
シャルは私をじっと見ながら口元をほころばせた。まるで暗闇の中に光明を見つけたかのような神々しさ、って、この人何か勘違いしてたりする?私が降参したとでも思ってるの?
「申し訳ありません。今はけじめをつけないとなりません。いずれ改めてお願いします。」
試験が終わり、私が打ちのめされている時に改めて呼び捨てにされるのか。
じっと見つめられて宣言され、負けるものかと私の顔は熱くなる。シャルの顔も紅潮している。しかし見すぎでしょう。
「そんなに見ないで」
なるべく冷静に冷静に言ってみる。
そう、まだ結果は決まってないのだから。
シャルは勤勉だ。
家の仕事を手伝い、ご近所の畑仕事を手伝い、学業にも専念し、休む暇がない程。
私はシャルが来てから楽になり時間がある。でも悶々とした何かがその時間を奪う。
「カナ。ぼーっとしてるなら、各部屋のゴミを集めて」
お母様からの命令。
いやいやながら、お父様や弟の部屋とゴミ箱に入っているゴミを大きな容器に入れていく。
台所の横のシャルの部屋。ノックする。確か出かけているのよね。
「ちょっと入ります」
礼儀として部屋の何かにいう。
パッと見きれいだか、机の上にはいくつかの紙が散乱していた。
几帳面そうに見えるので不思議だった。
これぐらいはまとめよう、ふと紙に書かれている文字を読む。
『落胆し 涙する君を慰めり
お互いを包み 暖まる』
『気づかぬ君に
募る思いをどうして届けん』
詩の課題かしら、平凡ね。
私だったらどんな詩を書くかしら。たぶん恋の詩よねこれ。
「瞳の奥の燃える気持ち。胸に潜めし心。眠れぬ夜に君思い体抱く・・・」
ぶっ。自分で言いながら恥ずかしい。なーんちゃってと振り向くと、扉にシャルとお母様が目を丸くして突っ立ていた。
あ、
「ち、違うの。違うから。」
部屋から出ようとごみ入れ容器を持ち上げて、慌てて部屋から飛び出す。
「待って。カナーディア様」
「待たない。試験終わるまで。あなたとは話さない」
恥ずかしさのあまり捨てセリフをはく。
「私、負けないから」
私が去ったあとシャルの横にいたお母様が珍しく動揺した感じで「カナも承知しているの。」とつぶやいていた。
そして私の誰とも話さない暗い日々が試験まで続いた。