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英雄と王様

昔、悪い人がいて一人の英雄が倒した。

そこからこの国の歴史は始まる。


「その英雄が王様なんだね」

「すげーや王様」


違う。中にはもうこの授業を何回か聞いた子供もいるけど、なかなか覚えてくれない。

英雄は王様ではない。英雄は旅を愛し遠い地に旅立ったと歴史書は書いている。


でも私の考えは違う。

平和を得た王様は英雄の存在を嫌ったのだろう。絶対的な存在は一人でいいからだ。

そして英雄をこの国から追い出したのではないか。複雑な事情を持って旅に出たのだ。


自分の考えはこの国に住んでいる人はもってはいけない考えかもしれない。でも・・・


「普通に旅に出たと思いますよ。それに持ってはいけないような考えなら口に出してはいけませんし、こんな道端で記してもいけません」


ぎゃあ!!後ろからの突然の声にわたしは飛び上がった。シャルだ。

「なんでいるの」

「帰り道ですから」

そうだった。今は学校の帰り道だ。子供たちに教えた内容がきちんと理解できる話し方になっていたか気になって思い返しているうちに、いつのまにか歴史についてメモを取りながら考えてしまっていたようだ。とほほ・・・


「いつも考える時はここですね」

さりげなく私の横に座る。

「安心できる場所なのですか」


良い具合に木々に囲まれ、人の視線から逃れられるこの場所は確かに安心できる私の隠れ場所だった。

「あなたが来るまでは、安心できた場所ね」

ふう、と嫌味っぽくため息をつき木にもたれかかる。

シャルは胸元から布で包まれた焼き菓子を取り出し私に差し出した。コロコロとしたひとつをつまみ口に放る。ほのかに甘い。

「どうしたの、これ」

「おいしいですか?良かったです。そこを歩いていたらもらったのです。よければ全部どうぞ」

私の手の中に布ごと渡した。

戸惑う私ににこやかに微笑む。

「誰からもらったの?」

「さあ。見たことの無い女性でした」

「・・・怪しいのじゃない、この菓子。・・あ、手紙がある」 

小さな紙に私と去年まで級友だった女の子の名前が書いてあった。気の強い子で、私のことを影で『がり勉』って呼んでいた子だ。こんな優しいお菓子を作れるんだ。妙に感心してしまう。


鈍感な私でも分かるシャルに対しての好意の贈り物だ。

「これ、きっと私がもらってはいけないものだよ。食べてあげて」

「複雑ですか?」

「え、なんで」

何も思わないよ。シャルが誰と付き合おうか。なにしようが。なによ、そのからかいを持った目は、私が嫉妬するとでも思ったの?それなら・・・と、口に出す前に頭で考えを張り巡らせる。

「私は、単純に旅に出たかっただけだと思います」

「え、旅?」

「ええ、英雄は単純に王都に留まりたくなかったのです。自然の中で愛する人と自然に生きていきたかったのです。私のいたブルレア地方は英雄の生まれ故郷でそして英雄が帰った場所です」

ああ、分からない。私の書いたものについての話をしていたのね。急に話を飛ばさないでほしい。

「北の方と習ったけど・そう、ご近所さんなのね」

「祖先です」

「そ・・せん?」

「ええ、ところでカナーディア様はなぜ先ほどの考えになったのですか?」

くるくる回る頭を元に戻す。言っていいのか悪いのか。シャルは私の瞳を探るように詰め寄る。

「恐らくカナーディア様は二十年前の事件と関連つけているのでは?」

「待って、シャルは英雄の子孫なの?」

混乱して叫びたくなる内容のことなのにシャルはいとも簡単に「ええ」とだけ、まるで呼吸をするかのように簡単に答える。

「僕がなぜここにいるか、きっと誰も理解してくれないと思うけど・・・カナーディア様が王都に行きたいのと同じように私にも王都に行きたい理由があるのです。」

「英雄の子孫なら、絶対に王都に入れるじゃない」ふと出た自分の言葉に気が付いた。「王都に入るには許可が必要なの。知ってる?許可証を持ってないと門の前で返されるの。なぜ王都に普通に入れるあなたがここにいるのよ。それに学校だって、王都内に住んでいる人のほうが優遇され入学できる。」

それなのにここにいるとは・・・湧き出る言いたいこと、それを止めるかのようにシャルはいつものように私の瞳を覗き込み意地悪な顔をした。

「私が誰であれ変わらないことは一つありますよ。カナーディア様」黙る私に満足そうに続けて言う「今回は私が王都に行かせてもらいます」


「な、なんでよ」いつもの通り私は爆発してしまったのをみてシャルは予想通りと嬉しそうにほほ笑んだ。




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