変化の前
学校には早くついた。
あんなに走ったのだから当たり前だ。
よろよろしながら校門に寄りかかると、軽い木でできただけの門は私の体重で傾く。
不安定になる身体はくたくたになった足では支えられない。あっと声をもらしたと同時に私の腰に回る腕。支えた腕の持ち主は見なくても分かる。
助かったと安心しながらもシャルに助けられたことに複雑な気持ちを抱いてしまった。
ひょろひょろしていると思っていたけど、支えられている腰にある腕はしっかりとしたもので校門と違い私の体重で揺るぎもしない。安定感のあるものだった。
「大丈夫ですか」
私の顔を覗き込む。
私の家に居候をし始めてから三日目。このきれいな顔に慣れるのにはどのぐらいの時間がかかるのだろうか。いえいえ。考えたらだめ。意識したら絶対に顔が赤くなる。無意識無意識。呪文を唱える。
私が大丈夫だと思ったのだろう。優しい顔になり、よかった。といいながら情けなく傾いている門に目をやり、少し困った感じで
「それにしても簡易に作られた門とはいえ、寄りかかるだけで傾くとは」
といいながら、私の腹部あたりに視線を動かし、不躾な目で見ている。
はっ。もしかして私の体重で傾いたと考えているの。
「違うから。私のせいじゃないから」
顔をふるふるさせて否定するが、私、ほほ肉が結構あるから、ほほを震わせたら太っているように見えるじゃない。
ほほ肉震わせたの見たよね。きっと・・・
顔が熱くなり水蒸気が一気に私の周りに集まる。
あ~顔が丸いからほほ肉の震えは関係ないのって言っても信じないよね。
第一こんな寒いのだもの着太りしているって分かるよね。いえいえ、この人は気がつかなさそう。あるがままを見ていて何も考えてなさそうだもの。どうしたら太ってないって分かってくれるかしら。そもそも私は太いのかもしれないし、そうけして痩せてはいないかも・・・
混乱する頭で伺うように視線を上げると、シャルは真剣な顔をしていた。やがて私のほほ肉を撫でた。そしてつまんだ。私はどうしていいのか分からず、シャルの左腕に抱かれたまま、シャルの右手に親指と人差し指に頬をつままれている姿になった。
呆然となりシャルを見ると、シャルはあわてて身体を離した。「申し訳ありません」と私など見ないでつぶやく。支えが無くなった私はふらついた。いきなり離さないでと文句つけようとシャルに顔を向けたら既にその場にはいなくて、校舎に向う姿が見えた。
よく分からない出来事に集まった水蒸気たちもいなくなり、北風の中、一人残された私は、元凶の校門を少々傾いているけど、ほぼ元通りに直した。