走る私
今まで、嫌なことを言われたことがあったけど、変な顔って言われたのは、さすがにショックだった。
走るように学校に行く私の後ろから、一定の距離を保ち追いかけてくる。
「ついてこないで」
「カナーディア様。私も学校ですので、こちらの道を使うのでついていきます」
「離れて歩いて」
「同じ方向なので、一緒に行ったほうが楽しいかと。それに玄関で一緒に行くと約束しました」
面倒くさい人だ。
なにが楽しいのよ。ムカムカして、にらみつけようとするとそれを浄化させるような雰囲気を持った、男なのに、きれいな人がすべてを包み込むかのように下界の悪魔の心境の私に微笑みかける。
私もついつられて心洗われそうになる。
いやいや乗せられてはいけない。
この人はさっき私を『変な顔』と馬鹿にしていた人だ。ちょっとばかりきれいな顔しているからといっても許してはいけない。
私は早歩きから走り出した。持久力は誰にも負けない。
「あ、お待ちください。カナーディア様」
遠くから聞こえる声。
今までの経験上ひょろっとしている人に体力は無い。
私も見た目はひょろひょろだけど、生来の負けず嫌いが私を持久力のある人間へと成長させた。
そう、私はけして負けない。
風を切る音か爽快だわ。
川に架かる橋の石を抜けようとして、昨日のことをふと思い出した。
横から軽やかな声。
「ここですね。カナーディア様が泣いていた場所」
「え?はぁはぁ」
私の息がぜーはーしているのと反対に少々髪が乱れているだけのシャルがにこやかに私の横に走っていた
。
なんでこの人いるの。置いていったはずなのにここにいるの。
走ったの?でもぜーはーしていないよ。
この人、なんなのよ。
驚愕のまなざしをシャルにむけたら、少し照れたように地面を向いて
「競争すると楽しいですね」
心からうれしい感じで言った。
文句を言おうとしたけど呼吸の方が苦しくて苦しくて、酸素が足りないから多分顔も青くなっている私にはぜーはーしか言えなかった。もう走るのを止めて休みたい、せめて歩きたかった。
でも私の苦しさを嘲笑うように、横から「いちに。いちに」と掛け声を始める人にはここで死んでも負けたくなかった。
あ~~~話が通じない。心も通じない。この人どこかに行ってよ。
顔はきれいだし、校長先生に好かれているし、学校のみんなから歓迎されているし、お父様やお母様に気に入られているし、体力はあるし、王都に行きそうだし・・・
こんな人に私は負けたくない。
シャルは嫌だけど、負けそうな自分の心が本当は嫌。
私は残る力を搾り出して学校まで走りきった。