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僕は重い足取りでも家へと帰ってきた。涙が枯れるくらいに流し続けて、目元は真っ赤に腫れてしまっていたのを擦らずに堪えて帰ってきた。
そういえば、ここに来た時は自分の家だとは思えなかったけれど、いつの間にか僕はこの家の住人としての自覚があった。
そう感じられるようになったのは、この一ヶ月での色んな変化によるものだった。
この家に来て家族として迎えられたのにそう感じることが出来なくて、一人でいたところに綾女さんと会って。だけど、すぐに僕が突き放して困っているところに我流さんに会って、綾女さんと仲を取り戻した。それによって綾女さんとおばあちゃんとの関係も良くなることが出来た。
そして何より僕は――僕を見つけることが出来た。
他人と一定の距離を離れていて、ずっと自分のことを隠していたんだ。
それは他人から隠していただけじゃなくて、僕自身も僕について隠していたんだ。わかっているようでわかっていなかった。
ああやって、綾女さんや我流さんと会ったことで、僕は自分のことを見つめ直すことが出来たんだ。
僕は確かに変わった。
たった一ヶ月という短い期間。
それでも確かに僕という存在を変えていたんだ。
「私は歩に変えてもらったのよ」
おばあちゃんは僕を呼び寄せると、そう言ってくれた。
玄関を開けて待っていたのはおばあちゃんで、和室へと呼ばれれば、今日夕食にも顔を出さずに、出かけてしまったことを怒られるのかと思ったけれど、そう優しく話しかけてくれた。
「何十年もの間、私は姉さんが怖かった。それは歩が知っているように、子供みたいに恐れていたのよ。だからね、歩によって最後の最後で姉さんとわかりあえたことが嬉しかった。こうして歩とも話せるようになったのよ」
僕のおかげじゃない。
あれは綾女さんと我流さんのお願いによるものだった。後押ししてもらったから、こうして今僕はおばあちゃんと話せているのだ。
なのに、そう言われてしまうと僕は否定したくなるのだけれど、口を挟むことなくおばあちゃんはこう伝えてくれる。
「永遠なんてないのよ、歩」
おばあちゃんは僕の手を握りながら、語ってくれる。
「いつまでも続いていたことは、いつかは終わりを告げるのよ。それは永遠と一緒に過ごしてきた毎日が終わってしまうこともあるのよ」
それはつまり――綾女さんのことを言っているのだろうか。
僕はそう聞いてみた。
「えぇ、姉さんが私に別れを告げに来てくれたのよ」
「いつ?」
「今日の夕方くらいに。歩とはちゃんと話しておきたいから、姉さんはまた後でと言っていたけど、どうやら知っているようなのね」
おばあちゃんは綾女さんと僕よりも早く話をしていたようだった。
「永遠なんて人間には手の届かないものなのよ。生きていれば死に別れるのは当たり前。いつまでも続くと思っていても続かない。人間は絶対別れることになってしまうのよ」
「おばあちゃんもそう言いたい――」
「――でも、良いことだってあるのよ」
僕はそれを聞いて唖然としてしまう。
最初はおばあちゃんも綾女さんとの別れを受けれいろ、と言っているのだと思った。受け入れなければならないと諭されているように思ったが、そうではなかった。
「永遠がなくなることで、私たちは仲を取り戻すことが出来るのよ。姉さんとこんな短い間に色々なことがあったのは聞いたの。それでも、姉さんと別れたまま永遠に会うことがなかった、と歩ははならなかったのよ。それは私にも言えること。私も姉さんにずっと恨まれ続けるのかと思っていたのに、さっきみたいに一緒に笑いながら話せたのよ」
おばあちゃんは目頭に涙を浮かべていた。
永遠に別れていた姉妹は、ずっと言葉を交せないと思っていたのに、お互い笑みを浮かべて話せたのだろう。僕にはそれが容易に伝わってきた。
「永遠は辛いことなのかもしれない。――でもね、その永遠がどうやってそうなったのかによって変わってくるのよ。歩は悲しみを抱いて別れを告げるのかい? それとも笑顔で送ってあげるのかい?」
「僕は……――」




