表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大きな木の下で  作者: 小田 浩正
第四章
23/30

4-2




 一旦各々で休むことになって、叔父は病室で見守ると言って、三人は病室から一度出る。

 叔母とおばあちゃんは二人で待合室で肩を寄せ合って、七海が目覚めるのを祈っていた。

 僕は屋上に来ていた。

 とにかく涼しい風に当たっていたかった。

 そんな時、僕に近づいてくる気配を感じる。

「……歩……」

 すぅと何もないところから青白いオーラを放つ綾女さんが屋上に降り立つ。彼女は僕の顔を見ると、心配そうに名前を呟いた。

「僕のせいなんです、七海が交通事故に遭ったのは……。僕が七海に怪我を負わせてしまったんです……」

「歩、そのことなんだけど……」

 彼女が僕の方に歩み寄ろうとした時、屋上のドアが開け放たれる音が響く。

 後ろを振り返れば、そこには我流さんが立っていた。

「歩、そうやって自分を責めるな。――綾女、それはお前にも言える」

「え……?」

 僕は綾女さんの方に顔を向ける。

 彼女が責任を感じるようなことがあっただろうか。そんなことはないはずだ。なのに綾女さんは顔を伏せて、まるで自分にも責任があるような顔をしていた。

「あの子がああやって交通事故に遭ったのは誰の責任でもない。歩だって、綾女だって、それに歩のおばあちゃん――沙奈恵さんのせいでもない」

 我流さんはそう告げる。

 なんでおばあちゃんの名前を知っているのか、それは聞けなかった。今聞くべき事ではなかったから。

今聞くべきことは、こうだった。

「……どうしてそんなことが言えるんですか……。それになんで七海が事故に遭ったことをあの場でわかったんですか……」

 そうやって聞くと、我流さんは一度深呼吸すると、僕に伝える。

「なんでわかったのかは携帯に伝わってきた《気》を読んだからだ。そっちはどうでもいいんだ。――こうなってしまったのは、この街の歴史から話さなきゃいけないんだ」

 我流さんは屋上に置かれているベンチに腰を下ろす。僕も座るように手招きされたので綾女さんと一緒に我流さんを挟むようにベンチに座る。

 そして話は始まる。



「この街では、空海がこの土地に訪れたことがあったと伝えられている。その当時、この土地は貧しかったんだ。嵐がやってくればこの街を流れている水無川が荒れる。日照りが続けば川の名前の通り水が流れなかった。そんな街の様子を見た空海が一時期だけだが、川に安定して水を流してくださったんだ」

 それは美咲さんから話を聞いていた。教育の一環としてでこの街のことを知ってもらうために、小学生の頃に教わっていたのだと言っていた。

 だけど、この話がどう話と関わるのか、ピンと来ない。

「だけどな、空海はここにずっと残るわけにもいかなかった。だから、この街の者にあることを教えたんだ。――それは俺が使っている《気》の流れを読み取り、操るという能力だったんだ」

 我流さんの話はこうだった。

 空海から《気》について、伝授されたのが今の草壁の先祖なのだと。川の氾濫がいつ起きるか、それを予測して街の住民の避難誘導を初期は行っていたのだ。

 しかし、それでは街の農作物を守ることは出来ずにダメにしてしまう。それを改善するために、草壁の先祖は研究に研究を重ねて、あることを習得した。

「《人柱》を使うことにしたんだ。人の中には《気》がたくさん溜め込まれているんだ。それを使うことで、自分たちの思い通りに川の氾濫を抑える術を生み出したんだ」

「……人の命を使った、ということですか?」

 僕の問いに、我流さんは頷く。

 そうなると美咲さんから聞いた話とだいぶ重なる点がある。

「そうやって盆地であるこの街は少しずつだけれど、安全に農業をすることができて活発になっていったんだ。でもな、時代とともに川の氾濫を防ぐための整備がされて、俺たちの力を使わなくても良くなったんだ」

 この話がどこに行き着くのか、今の僕にはわからなかった。

 これでは我流さんの使う《気》についての歴史だった。

「それで終わってくれれば良かったが、そうはならなかったんだ」

 我流さんは一度間を空けて、話を続ける。

「ちょうど綾女が二十歳に近づきつつあった時のことだ。その頃にこの街では疫病が流行った。人はそれほど死ぬことはなかったけどな、山々に囲まれているこの土地だけに蔓延したということで、人々はこの街から続々と逃げ出しそうとしたんだ。そうなれば、この街は廃れてしまう。そう考えた、当時この街を治めていた俺の祖父にあたる草壁当主が禁忌を犯したんだよ……」

 我流さんは悔やむような顔をして告げる。



「綾女の《気》を使って、この街に呪いをかけたんだ、『この街から出て行くな』と」



「なっ!?」

 それを聞いて僕は立ち上がって、綾女さんを見る。

 彼女は顔を伏せていて、いったいどういう顔をしているのかわからなかった。だけど、この話が真実だということはその様子を見て一目瞭然だった。

「……呪いなんてできるんですか?」

 僕は一度深呼吸してから、そう聞いた。

 《気》についてはまだまだ知らないことがたくさんある。だから呪いも出来なくはないのかもしれない。それを確認しておきたかった。

「そう簡単に出来るものじゃないんだ。俺には到底できない。祖父にだからこそできたことなんだ。あの仕組みを完成させるには一族内でも天才と言われた祖父と、綾女以外にも人の《気》を使ったからなんだ」

「じゃあ――」

「あぁ、他にも二人分《気》が使われていたんだ」

 僕が思ったことは間違っていなかったようで、それで命を犠牲にした人は綾女さん以外にもいたということだ。

「綾女たちから奪った《気》をこの街の境目に張ったんだ。人が街から出ようとすれば、《気》を噴出させる。一般人には《気》なんて見えない。――だが、感じることはできる。計り知れないほどの気の量をその場に漂わせることで不気味な雰囲気を作り出す。そうだけで、人はその場を避けるんだ。祖父は人の性質を良く理解していた人だったから、《呪い》として街から人を一歩も出させないようにしたんだ。この街は山々に囲まれているから、出て行く道も限りがあった。だから十分に呪いとして効果が発揮されてしまったんだ」

「……」

 僕はそれを聞いて思い出すことがあった。

 昔、山を越えようとする人が綾女さんを見たと言っていたのは、もしかすると我流さんが説明したことによるものなのかもしれない。

「この街に流行った疫病は月日が流れていくうちに忘れ去られていった。元々死者は少なかったからな、だから、この呪いなしでこの街には人々が残ったんだ。そうなると、綾女たちはお祓い箱となる」

「ならどうして――」

「お祓い箱となっても魂は残り続ける」

「……消えることはなかったんですか?」

 我流さんはそれに対して首を横に振る。

「《気》にも一応寿命が存在する。肉体に流れる《気》がなくなることで人は死ぬんだ。だから、こうして何年何十年も待ち続ければ魂も消えて呪いも消える。――そう思ったんだ」

 悔しそうに下唇を噛む我流さん。

 そうならなかった。

 結果として今も綾女さんはこの場にいる。

「祖父は天才だった。俺たちには考えられないようなことをしていたんだ」

「それは……?」



「綾女たちを地縛霊に近い状態で《呪い》をかけたんだ」



 地縛霊とはその土地に残ってしまった霊だ。それは綾女さんは元々そういう類の幽霊なのだと僕は思っていたのだけれど、厳密には違うらしい。

「大地の中にも《気》が流れているんだ。それを上手く利用して綾女たちの《気》と絡み合わせて《呪い》を増幅させていたんだ。そうなると、どんなに年月をかけたとしても魂は永遠のエネルギーの供給によって魂が死ぬことはなくなっていたんだ」

「じゃあ、永遠にここから離れられないんですか?」

「いいや、そういうわけじゃないんだ。綾女たちを解放する手段は俺の親父が見つけたんだ。その方法は、綾女たちの元々の肉体であるもの、例えば骨とかに魂を移して火葬する。それだけで綾女たちは解放されるんだ」

 でも、疑問が残る。

 それは――その方法がわかっていながら、なんで綾女さんは今もこうして幽霊として存在してしまっているのか。

「……綾女の肉体が見つからなかったんだ。《綾子さん》の話は知ってるんだろ?」

 その問いかけに僕は頷く。

 《綾子さん》に会った子供は二度と親元に帰れないという話だ。

「街中の人間が《綾子さん》を探したが服だけしか見つからなかった、というのも知ってるだろ? その話は真実なんだ。綾女だけどうしてなのか、肉体が見つからなかったんだ」

 我流さんはずっと綾女さんの体を探していたのだと言う。この街を探しても見つからなかったから、何年もかけて全国を回ったのだそうだ。

 それでも見つからなかったのだ、綾女さんの肉体は。

 まるで神隠しのように。

「当時あの場にいた人間は綾女たち三人と祖父と幼かった親父。綾女たちは魂を切り離された時のことを思い出せないし、祖父はどこに隠したのか口を割ることはなく死んてしまった。だから永遠に闇の中へと葬りさられてしまったんだ。一応、もう一人子供がその場にいたんだが、その人とは話ができていない」

「その人って生きているんですか? だったら今すぐにでも聞けば――」

「――それが出来るならとっくにやっていたさ」

 我流さんは下唇を噛んで何かを堪えていた。

 それは綾女さんには理解しているようで、背中を摩る。

「生きているには生きているの。……でも、私たちでは話すことも、会うことも許されないと思うの……」

 僕は焦れったい思いをなんとか堪えながら、理由を聞いた。



「歩のおばあちゃん、沙奈恵さんは――綾女の妹だからだ」



 何を言われたのかわからなかった。

 僕は綾女さんから一度目を離して、我流さんを見てからもう一度、綾女さんを見た。二人とも目を瞑って申し訳ないような、そんな顔をしていた。

 綾女さんとおばあちゃんは姉妹。

 なら、僕は綾女さんと一応血が繋がっている、ということになる。

 だから僕と綾女さんの顔が全く同じように見えたとしても、血が繋がっているから似てしまうことも有り得ないことではない、そうなるだろう。

 一旦息を肺にまで送って吐かせる。

「……おばあちゃんが綾女さんの妹なら……なんでその当時の話を聞けないんですか? 別に困ることは何もないと思うんですけど……」

「――だからなんだ。妹だから聞けないんだ。いや、あの場にいた人間だったから聞けないんだよ」

 我流さんは僕の言葉を強く否定した。

 そして語り始める。

「俺はまだその時は生まれていなかった。だから、実際にこの目で見ているわけじゃないから、これは親父や綾女たちから聞いた話だ」

 綾女さんがおばあちゃんと歳がそう離れていないのなら、それは我流さんだって生まれている訳もなく、我流さんのお父さんだって幼かったはずだ。

「あの木は当時子供たちの遊び場だった。高台で見晴らしも良くて、近くに館があったり祖父が怖い人物であったのだが、それでも子供たちは多く遊びに来たんだ。綾女さんは面倒見の良いお姉さんで、親父も世話になっただってな」

 そう言うと、綾女さんは恥ずかしそうに当時のことを話す。

「私の家族はあの辺りに住んでいたから、近くの小さな子供たちの面倒を見るように言われていたのよ。私も子供は好きだったからね。宗博も可愛かったよ」

 綾女さんを見ていると、あまり過去のことを根に持っていないようだった。

 昔の思い出を軽い口調で言えるほど、彼女の中ではもう片付けられているのだ。そう感じ取れた。

「問題はここからなんだ。沙奈恵さんは《綾子さん》という幽霊に怖がっているわけじゃないんだ――綾女を怖がっているんだ」

 それがどうしてなのか、わからなかった。

「これは一度俺が会いに行こうとした時の彼女の様子を見ての憶測なんだが」と我流さんは言葉を続ける。

「沙奈恵さんだけがこの話の真実を知っているんだ。あの場に一緒にいたからな」

 そういえばまだ聞いていなかったことがあった。

 でも、聞くのには少し躊躇いがあった。

「……おばあちゃんはどうして……、どうして綾女さんと一緒にいたのに《気》を取られなかったんですか?」

 それに対して我流さんは事実を教えてくれる。

「祖父の行動に違和感を感じた幼かった親父があの木に駆けつけたんだ。いざ駆けつけてみれば、すでに麻里子と翔太郎の《気》は取られていたんだ。その光景を見て、祖父の暴走であることに気づいた親父は綾女と沙奈恵さんを逃がそうとした。だけどな、祖父から逃げられるはずもなかった。綾女は沙奈恵さんにも手を出そうとした祖父から庇ったんだ」

「……」

 そんなことがあったのか、と僕はただ話を聞いていた。

 そして思う。

 もし、その場で綾女さんも助かることは出来なかったのかと、そう思ってしまう。

 でも、それは不可能だったんだ。相手は得体の知れない《気》を扱う天才の大人だ。なんとかしておばあちゃんを庇うのが限界だったに違いない。こうして僕が生まれてきたのは、綾女さんのおかげなのだとそう思うとひどく胸が締めつけられる。

「沙奈恵さんはそうして生き残った。そして恨んだんだ、草壁家をな。姉である綾女を殺されたと思ってな」

「……」

「その後、祖父は亡くなったんだが、《綾子さん》の噂を聞くようになると、それが綾女だということをすぐに理解したんだ。そして沙奈恵さんは思ったんだ――自分だけ生き残ったことを綾女に恨まれている、と」

「そんな……」

「今話したことは憶測だ。それが実際にそうなのかは本人に聞くしかない」

 憶測だとしても、僕は全て繋がったように思えた。

 《綾子さん》について。

 あの北にある木になぜ《綾子さん》はいるのか。

 草壁家について。

 この街の真実について。

 何もかもが繋がったように思えた。

「そして、あの子――七海は沙奈恵さんから間違った話を聞いてしまったんだ。俺が十年ぶりに現れたことで前のようなことが起きるんじゃないか、と」

「それはおかしいですよ! だって我流さんがそんな人なんかじゃ――」

「――一度してしまったことは疑われて仕方ないんだ。たとえ俺が祖父じゃなくても、その子孫であれば、な」

「……そんな……そんなことって……」

 わかってしまう。

 それが理不尽なことであっても、おばあちゃんの気持ちはわからなくなかった。

 それによっておばあちゃんは七海に話してしまったんだ、我流さんが話した本当の真実とは違う真実の話を。

 それを聞いた七海は、どこか、商店街のおばちゃんとかに僕が我流さんと一緒にいるところを話で聞いたんだと思う。その話に出てくる人間が揃ってしまっていれば、もう疑うことはしないだろう。七海は僕に電話をかけて逃げるように言ったんだ、僕を守ろうとして。焦っていた理由もわかった。

 誤解から招いてしまった事故。

 だからおばあちゃんは「私のせいだ」と何度も言っていたのだ。

 これは悲劇だ。

 僕の経験したことと同様、いや、七海が死にそうになっているからそれ以上の悲劇になりつつあるのだ。

「そこでお願いしたことがあるのよ――、歩」

 綾女さんは立ち上がって、夜に近づきつつあるため冷えた屋上のコンクリートに膝をついて、土下座をされる。

「沙奈恵の誤解を解いてください!」

 頭が床のコンクリートにつくほど綾女さんは下げる。

 僕はその姿を見て、困って声が出なかった。なんて言ってあげたららいいのか、わからなかった。

「あなただけが頼りなのっ! 私たちでは沙奈恵を説得することはできないの……。あなたにしか出来ないの……。私たちの思いを伝えるのはっ!」

 誤解を解くのは賛成だった。

 でも、簡単には誤解なんて解けるものじゃないはずだ。それに、僕は今まで一度もおばあちゃんと一体一で話したことすらないのだ。それなのに、いきなり誤解を解くことなんて出来るとは思えなかった。

「……僕には出来ませんっ!」

「なんでだ?」

 我流さんはすかさずそう聞いてくる。

 本当は僕だって嫌だ。

 こうして僕よりも長い人生を歩んできた人に土下座してまで頼まれているのに、僕は出来ないと断っている。それは辛くて、自分がだんだんと嫌になってくる。

 でも、出来るとは思えなかった。

 僕は綾女さんと同じ顔をしている。それが原因で、きっとおばあちゃんは僕のことを信じてくれない。怖がってしまって聞けないはずだから。ただでさえ七海を事故に遭わせてしまったと責任を感じているのだ。そんな人にこれまでの話はこういうことだったんだと納得させられるほど、僕は強くなかった。

 弱虫なんだ。

 何にも出来ないんだ、僕は。

「――なぁ、歩」

 我流さんは俺の瞳を覗き込むように見る。

 そして僕に告げる。



「自分を信じてみろ」



 僕はハッとなる。

 その言葉が僕の心の中で反芻する。

「相手を信じることも大事だ。でも、何より大切なことは――自分を信じることなんだ」

 自分を信じる。

 それは当たり前のように思えることだけれど、なかなか気づくことは出来ない。

 そんな言葉だった。

「歩は大丈夫だ。沙奈恵さんは歩のおばあちゃんなんだ。怖がられていても、突き放されていても――二人は家族なんだ。一緒にいてあげるべきなんだよ、歩」

 僕はただ頷くことしか出来なかった。

 我流さんの言う言葉はその通りなんだ。

 おばあちゃんは怖がっているだけなんだ。

 そうでなければ僕は仲良く出来ていたんだ。

 なら、だったらそれを取り除くだけでいいんだ。

「歩、自分の名前を気にしたことはあるか? 親にどうして自分にそんな名前が付けられたか、気にしたことくらいあるんじゃないか?」

「えっと……、まぁ」

 授業で一度、両親から自分の名前の理由を聞いてこい、とそう言われたことがあった。

 その時両親が言ったことといえば、「男の子女の子どっちが生まれてきても良いようにその名前にしていたんだよね」ということだった。それなら《あゆむ》でもいいじゃないかと思ってしまうのだけれど、

「《あゆむ》だと言葉が続かないんだよね。そこで言葉は終わっちゃうのよ。だけど、《あゆみ》なら、その後に言葉を繋げることができるの。《歩み合い》、《歩み続ける》とか。中でも《歩み寄る》が私たちは気に入ったのよね。誰とでも歩み寄って仲良くなる。もし喧嘩をしたとしても、お互い近づいて仲直りするの。それがあなたの名前の意味よ」

 と言ってくれた。

 それまで女の子の名前でからかわれていたから、僕はいつも嫌だと思っていた。

 それを聞いてからはあまり気にしていなかったけど、今の今まで忘れていた。

 自分にはそんな思いが詰められていたのだ。

「自分の名前が一番身近にあって、簡単に自分自身について理解できるものなんだ。もし、自分がブレるようなことでもあれば、自分の名前を思い出せばいいんだ。俺は我流だ。自分の道を、自分なりにやっていけ、という意味だ。だから俺はそうして行動してきたんだ」

 我流さんに言われて僕は思い直す。

 両親は、僕から《歩み寄る》ように言っていたんだ。僕から離れていくんじゃなくて、何があっても僕は近づいていかなければならなかったんだ。

「我流さん、僕は――」

 僕は心を決めた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ