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第三章《始》
僕は決して一人でいたいわけじゃない。
あえてそうしているだけなんだ。
そうしなければ、僕をさらに一人へと追いやることになる。
でも、今の現状でも徐々にだけど、僕の周りから人が離れていくのは目に見えていた。
「友達が出来ないまま一ヶ月が経とうとしていますが、お気持ちは?」
そういうことを聞かれるのは、だいぶ心が締め付けられるのですが、七海さんはそういうことがわかっていってくれないだろうか。
「クラスでも一人でいることが多いよね。ほら、例えば先生から隣の席と相談してくださいと言われたとき――」
「――それ以上言わないでください」
ジリジリと僕の精神を削っていきたいのか、と七海に聞きたくなる。それほど僕をいじめたいのか、とも。
「私、心配してるんだよ。もし私が同じクラスじゃなかったら、今頃誰とも話せないで家に帰ってくることになってたんじゃないの?」
「……」
「そうだよね、やっぱり」
否定できないところが痛い。
もし、これを否定するなら先生と授業などで少し言葉を交わすだろ、なんて言えばいいんだろうけど、結果としては自分自身で墓穴を掘ることになるだろう。
「なんで友達作らないのっ!」
七海がそう言うのと同時に、僕に野球ボールを投げつけてくる。
今、彼女とは家の前の公園でキャッチボールをしているのだ。あまりやる気がなかったのだけれど、無理やり手を引っ張られてやらされている状況なのだ。本当は野球は好きだ。だけど、今の僕にはやる気なんて起きるわけがなかった。
今でも僕は綾女さんのことを気にしていた。
七海が僕に投げたボールはあまりコントロールが良くなく、頭をゆうに越していく。
「野球やってたのに下手くそっ!」
いくら僕が経験者だと言っても、それは理不尽だと思う。
僕はボールを追いかけながら考える。
友達を作っていいのだろうか、と。
実際、作ってみても良いのかもしれない。
別に症状が出ない可能性だって十分にあり得るのだ。
ただ、もし出た時のことを考えると、やはり僕は一歩も前に足を踏み出すことは出来なかったのだ。
「従弟として心配なんだから、早く友達を作りなさいっ!」
僕がボールを握った時に、向こう側からそう声が届く。
そんな時、ふとある疑問が浮かんだ。
そういってみれば、友達はどうやって作るんだろうか。
なんだか簡単そうなことが、今の僕にはできないように思えてきた。
症状が出る前から僕には友達があまりいなかった。あまり意気投合するような人と会うことが出来ていなかったのだから、仕方ない。
それに、数少ない友達は小さい頃からの友達で、なんとなくいつも近くにいたのだ。どうやって友達になったのかも覚えていない。
だから言ってしまえば、僕は友達の作り方すらわからないままだったのだ。それに今まで気付いていなかった。症状があったからすっかり忘れてしまっていたのだ。
そう考えると、僕はこのままだと友達が作れないままなのかもしれない。
作り方を知らないのだから。
「はぁ……」
それに気づいてしまって僕はため息が出てしまう。
症状が治ったとしても、もしかすれば七海が心配するようなことになってしまうのかもしれない。
それを考えてしまえば、ため息が出るのもおかしくはなかった。
「友達百人なんて作れるとは思えないよな……」
ふいにある曲が思い浮かんでしまう。
僕には到底できるとは思えないな、と苦笑してしまう。
でも、あの人なら出来るかな、と僕は思ってしまう。
――草壁我流。
あのお祭り以来会えていないけれど、僕は彼にもう一度会えることができるようになったのだ。あの試合では見ず知らずの青年だったのに、街全体で有名な人間であることを知ったのだ。情報が一つも得られないことなんてないはずなのだ。
僕は我流さんに会う。
そして僕が困っているこの症状を打ち明けて、解決してもらう。
解決してもらうことができれば、僕は友達も少しずつだけれど作っていけると思う。
それに綾女さんにも謝ることができると思う。
今の僕には出来ないから、必ず症状を直す。
症状を治すためには、あの人の助けが必要だ。
あの人なら僕のことを救ってくれる。
そう信じて僕は、七海にボールを投げ返した。




