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序章

目前歩もくぜんあゆみ

草壁我流くさかべがりゅう

綾女あやめ

相川七海あいかわななみ

諏訪部美咲すわべみさき

 



 とある夏の一日。

 僕は緑の多い丘に寝ていた。

 花が咲き誇っているのではなくて、僕の周りは鬱蒼とした草木に囲まれた丘には、そよ風が僕の頬を掠め、吹き抜けていく。

 木漏れ日は少し眩しく感じ、僕は夏本番がすぐそこまで来ていることを理解する。

 一度目をつぶる。

 セミがやかましく鳴いている中でも、風が吹き抜けると草が揺れて、それらが奏でる音は一音一音耳に入ってくる。

 時間は過ぎ去っていく。

 僕が思っているよりも、長いようで短い。

 気づけばセミの鳴き声は消えていた。

 時間は止まっているようで。

 時間は動き続ける。

「いつまでもこの時が止まっていれば……」

 あの時に僕はそう思った。

 でも、そうはならなかった。

 そうは出来なかったのだ。

「……」

 僕は立ち上がって近くの木の幹に寄りかかる。

 そして前を向く。

 一ヶ月と少し前までは、今見ている視界には一本の背丈の高い大きな桜の木を収めることが出来た。

 樹齢が千年に近く、幹の太さは十分に僕が収まってしまうほどの大きさであった。

 だけど、そんな高樹齢の木を人々は恐れ、何十年もずっと近づこうとはしなかった。

 ずっと、あの木は孤独だった。

 しかし、永遠に続くと思われた孤独の時間は打ち砕かれることとなる。

 春を迎えた頃、僕はあの木に巡りあった。

 それが僕の人生を変えていくれた。

 なのに、その大木はなくなってしまった。

 炎に包まれ、天へと昇っていってしまったのだ。

 あの木は最後の最後まで一人で生涯を終えることにはならなかった。

 ――僕と出会ったから。

 それがあの木にとって幸せだったのか、今でも僕にはわからない。

 でも、最後は笑顔でこの世を去っていったから、幸せだったんだと思う。僕は人生で初めて大いに泣いにないた。

 別れることはしたくなかった。

 あの木があったところに今は何もないのだけれど、新たな命が大地から生まれようとしているのがわかる。

 それを僕はただ待つのみ。

 いつまでも待ち続ける。

 あの木が残していったモノを見守り続けるために。

 人生はまだまだ長い。

 いつまでも待ち続ける覚悟は出来ている。

 人の人生なんて短いと思う人もいるようだけれど、僕はそうは思わない。

 一人でこうして誰もいない空間にいれば時間なんて永遠に続いていく。

 でも、僕はいつまでもここにはいられない。

 永遠なんてないんだから。

 だから僕は立ち上がって夏の日差しを浴びながら、街を見下ろす。

 小さくも大きくもない田舎町は、動き続けている。

 僕は人が行き交うあの街で生きている人間だから、それに付いていかなくてはいけない。

 彼女が願っていたことを守らなくちゃいけない。

 小学生の時に失ったものを少しずつだけど取り戻しつつあるから、それを手放してはいけない。

 だから僕は坂を下っていく。

 人としてちゃんと生きていくために。






 僕はあの日、人生の中で最高の出会いをした。

 まだ十二年間しか生きていないから、これからもそういうことはあるかもしれないけれど。

 それでも、僕の人生を確かに変えてくた存在に出会うのは少ないと思う。

 そんな出会いをしたんだ、僕は。

 だから、あの時から思い続けているんだ。





「ありがとう、綾女さん」







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