第7話
「失礼します。冬季です」
冬季はミルドからのギルドへの所属の提案を出されて、2日が過ぎた時、ミルドの書斎を訪れる。
書斎のドアをノックした時、書斎の中からは何かが落ちる音とともにミルドの悲鳴が聞こえた。
「大丈夫ですか?」
「た、助けてくれると嬉しいかな」
冬季は書斎の中から聞こえた音と声に、ミルドがまたも本に潰されている事を察したようで遠慮がちにドアを開けると床に落ち、積み重なった本の中から、ミルドの苦しそうな声が聞こえる。
「何をしたら、毎回、本棚から本が落ちてくるんですか?」
「わからないね。ありがとう。助かるよ」
ミルドを本の中から引っ張り出した冬季はため息を吐くと、ミルドは気まずそうに苦笑いを浮かべた。
「それで、私を訪ねて来てくれるって事は、決めてくれたと言う事かな?」
「そうなりますね。実際、王の対応を見ていると、俺としてはまだミルド様と組んだ方が都合が良さそうですから、今はですけどね」
2人はソファーに腰を下ろすと、ミルドは冬季が自分の所に訪れた理由を聞き、冬季は考えた結果、王ではなくミルドと組むと決めたようで頷く。
「そう言ってくれると思ったよ。まぁ、今を強調されている事が気にかかるけど」
「ミルド様にはお世話になっていますが、それとこれは別ですから」
「そうだね。そう思った方が良い。どんな事があっても、何を使っても君は元の世界に帰りたいだろうしね」
冬季の目的はあくまでも元の世界に帰る事であり、ミルドも冬季の意見を尊重しているので、2人は顔を見合わせると苦笑いを浮かべる。
「それに、流石に生き死にがかかってるのに勝手に自分の都合を押し付けられて良い気はしないですからね」
「そんなに酷かったかい?」
「ええ、文字を教えてくれている文官は戦争や討伐と言ったものに関係する言葉ばかりを教えようとし始めますからね。露骨過ぎる。さっさと、封書を読んで王都から出て行けって言われてる気しかしませんよ」
王は冬季が封書に書かれた命令通り動かない事に痺れを切らしたようで、冬季の教育をしている者達に圧力をかけ始めており、冬季は隠す気もない王の態度に嫌悪感しかないようで眉間にしわを寄せた。
「それは災難だったね。それじゃあ、さっそくだけど、行こうか? ギルドに所属している人間と交友を深めるのは重要だからね」
「ずいぶんと急ぎますね」
「外の様子も知りたいだろ。王は兵士を自分の警護のためにしか使おうとしないから、王都の外が実際はどんな様子かも君は知らされてないだろ?」
「そうですね」
ミルドは冬季を早くギルドのメンバーに引き合わせたいようであり、彼を促すがその行動に冬季の顔は若干、歪む。
しかし、ミルドには考えがあるようであり、どこか抜けているところはありながらも、冬季を支援してくれている彼の様子に嘘はないと考え直したのか、冬季は頷く。
「ギルドに所属している者達はそれを知っている。獣達の生息地域、魔王の眷属である魔族がどこで暴れ回っているか、それに精霊様が捕えられている場所も噂程度に入っているかも知れない。多くのギルドのメンバーと話をする事は君の視野を広げる事になる。自分の目には見えず、聞こえないものは、誰かに聞き、その情報が正しいかを君が選べば良い」
「そうですね。俺達の世界でも情報がどれだけ重要かって話がよく言われていましたからね」
ミルドはクレメイアに冬季が召喚されて出会った中で、誰よりも情報の重要さを理解しており、その成否を判断する力を冬季に養うように言っている。
冬季はミルドの考えが、元の世界に近いものがあると感じ取っており、その言葉に素直に頷いてしまう。
「それじゃあ、行こうか?」
「はい。よろしくお願いします」
「と、私は着替えてくるから、玄関で待っていてくれるかい」
「着替え?」
「いや、流石に正装で王都の中を動き回ると面倒だからね」
ミルドは貴族の格好で街中を歩くつもりはないようで、イタズラな笑みを浮かべると自分の寝室に向かって歩き出す。
「と言うか、いまいち、性格がつかめない人だな」
冬季はそんなミルドの背中を見送り、小さくため息を吐くと玄関に向かう。