第22話
「……疲れた」
「何が? 何もしてないでしょ」
冬季は周囲を警戒しながら調理を続けていた事もあり、精神的な疲労がたまってきているようで夕飯の後片づけを終えると直ぐに地面に腰をおろした。
その様子にミリアはだらしないと言いたげだが、彼女自身も朝から働きっぱなしな事には変わりなく、その表情には疲れの色が見える。
「いや、割と重労働だから、これが後何日続くのかな?」
「知らないわよ。だいたい、裏切り者がいるかも知れないのに、何で、こんなに緊張感がないのよ?」
今まで料理などした事がなかった冬季は、野盗に監視されているとどうしても考えてしまうようで早くグリッツに帰りたいと言う。
ミリアは早く裏切り者をどうにかしたいようだが、何もしないロッドやレイに腹を立てているようである。
「一応は、表向きは知らないって事になってるからね。2人は確定だとしても、他にもいるって可能性が否定できないから、公けに何かするわけにもいかないんだよ」
「それはわかるんだけど……」
ミリアの性格を理解できてきた冬季は彼女をなだめようとするも、これが無駄な事である事も理解できているようでため息を吐く。
「ねえ。冬季、一応、確認しておくけど、あんたは裏切り者じゃないでしょうね?」
「……その答えは予想していなかった」
「な、何よ? だって、あんた、新入りだし、もしかしたらって思うじゃない?」
「仮に思ったとしても聞かない方が良いと思うけどね。本当に俺が裏切り者だったら、ミリアさんを口を封じる可能性だってあるわけだし」
ミリアが口にした言葉に冬季は絶句するが、新入りであり、異世界から召喚されたと言う事を隠しているため、ミリアには冬季を信じるだけの情報はない。
その事もあり、ミリアは当然の事だと主張するが、聞くにしてもまったく警戒をしていない彼女の様子に冬季はもう少し考えて話をして欲しいと肩を落とす。
「大丈夫よ。冬季、弱いし、わたしでも勝てるわ」
「何だろうね。その認識は、これでも王宮の兵士とは対等に戦えるくらいの剣技は身に付けたんだけど……新人の兵士とだけど」
ミリアは冬季など相手ではないと胸を張って言い切る。
冬季はクレメイアに来てから、イヤな顔をせずに訓練に付き合ってくれた王宮の兵士達の顔を思い出したようで、自分だけではなく、その人達もバカにされたような気がしたのか、むっとする。
「王宮の兵士に知り合いがいるの? まぁ、知り合いだって下っ端でしょ。それに王宮の兵士なんて、何の役にだって立たないわ。兵士なんて、自分の身が可愛いだけでしょ。国民の義務だからって、高い税金を持って行くくせにいざとなったら我先にって逃げ出すんだから」
「ミリアさん?」
ミリアは兵士達に良い印象を持っていないようであり、兵士とともに訓練をした冬季など相手ではないと言う物の、彼女自身、過去に兵士達と何かあったのか小さく表情を歪めた。
「何でもないわよ。取りあえず、冬季の事は信じてあげるわ。ただ、裏切ってみなさい。その時はどんな手段を使っても、あんたを殺すわ」
「りょ、了解。って言うか、裏切らないからね!? そんな物騒な事を笑顔で言わないで」
ミリアは余計な事を言ってしまったと思ったようで、冬季から視線を逸らした後、1度、深呼吸をすると笑顔で、冬季を脅す。
冬季は彼女の笑顔に一瞬、目を奪われるが、その物騒な物言いに驚きの声を上げる。




