第18話
「ミリアさんって、基本的に尾行とかに向かない人間だよね?」
「……わたしのせいじゃないわ。冬季は初心者なんだから、冬季の尾行が気付かれたのよ」
2人組の尾行を始めて直ぐに2人の背後には音もなく、人が近づいてきており、冬季とミリアの首筋には背後からナイフの刃が当てられている。
冬季とミリアは見つかったのはお互いのせいだと罪をなすりつけ始めるが、今はそんな状況ではない。
「……こんな状況なんだから、もう少し緊張感を持ったらどうだ?」
「へ? ラ……」
「声を上げるな。尾行していると言う事を思い出せ」
2人の様子に背後にいる襲撃者はため息を吐く。
その声に冬季もミリアも聞き覚えがあり、驚きの声を上げようとするが、ライは手で2人の口を塞ぐ。
冬季は了解と言いたいようでこくこくと頷くとその手は放される。
「あの、ライさん、さっき、俺とミリアさんの首筋に当ててたナイフは?」
「ナイフなんて当ててない。ただ、できもしない事に首を突っ込もうとしたお子様2人にお仕置きをしに来ただけだ」
「……あれが本気の殺気って奴? 俺、簡単に死にそうだよ」
ライはこのまま、冬季とミリアを尾行させていては大変な事になると思ったようで2人を引き止めにきたようであり、口元を緩ませた。
その表情はいつも酒に飲まれているようなライとは違っており、冬季は今まで対面した事のない恐怖を実感してしまったようで顔を引きつらせる。
「ちょっと、できもしない事ってどう言う事よ?」
「良いから、村に戻るぞ。お前達2人が行っても捕まるか殺されるだけだからな」
「ライさん、でも、追いかけなくて良いんですか?」
ミリアはライからの評価が納得のいかないようなものであったようで頬を膨らませるが、ライは首を横に振る。
冬季は野盗と通じているかも知れない2人組をそのままにしておくにはいかないとも思っているようで2人組が歩いていった先に視線を移す。
「一応、もう1人尾行している。尾行って言うのは尾行している相手に気づかれないようにするものだぞ」
「確かにそうかもしれないですね」
「と言う事で戻るぞ。2人がいないと昼飯が当たらない」
「また、食事の準備?」
ライは2人に尾行などまだまだ役不足だと言いたいようであり、冬季は実際に実力差を見せつけられた事もあり、素直に頷く。
しかし、ミリアは自分は食事当番のために来たのではないと言いたげに頬を膨らませる。
「当たり前だ。新入りは経験を積ませるために連れてきたが、お前は今回は料理当番として連れてきたんだからな」
「それって、ど!?」
「ミリアさん、大声を上げないで、ばれるから」
ミリアはライの口から出た食事当番と言う言葉に納得がいかなかったようで声を上げそうになるが、冬季は慌てて両手で彼女の口を塞ぐ。
ミリアは冬季の行動に自分が短慮な事をしそうになった事は理解できたようで頷くがその目を見れば文句がありそうな事は誰が見てもわかる。
「ほら、行くぞ。あんまり遅くなるとまた飯を食って直ぐに夕飯の準備をしないといけなくなるぞ」
「そう言うなら、手伝ってくださいよ」
「手伝えって、朝は俺に手を出すなって言っただろ。ほら、急がないとまた迷子になるぞ」
ライはミリアの反応に仕方ないと思っているのか苦笑いを浮かべると村に向かって歩き出し、2人は迷子にはもうなりたくないようで慌ててライの後を追いかけて行く。