第15話
「冬季、覚悟は良いわね?」
「ま、待って、ミリアさん、落ち着こう」
「大丈夫よ。わたしは落ち着いてるから、しっかりと冬季の眉間にナイフを突き刺す事ができるわ」
冬季は村から逃げ出すとそばの林に逃げ込むが、若くともギルド員として動いているミリアには素人の冬季を追い込む事などたやすいようで、冬季は逃げ道もなくなり、背中には冷たい汗が流れている。
この生命の危機から脱しようと冬季はミリアを落ち着かせようとするが、ミリアのナイフの切っ先はしっかりと冬季の眉間に向けられており、その目はどこか怪しい光が灯っている。
「冬季、覚悟は良いわね」
「良いわけがないよ!?」
「冗談に決まってるでしょ」
「……へ?」
ミリアがナイフを投げようとし、冬季は自然に手でミリアが狙っていた眉間を覆い隠すが、ナイフが放たれる事はなく、冬季の反応が満足できるものだったようで楽しそうに笑う。
ミリアの笑い声に冬季は何が起きたかわからないようで間の抜けたような声を上げた。
「ちょ、ちょっと、冗談にしては悪質だよ!!」
「うるさいわね。元はと言えば、わたしをバカにした。冬季が悪いのよ。それより、戻るわよ。そろそろ、お昼の仕上げに移らないと……ねえ、ここってどこ?」
「どこって、林の中だけど……迷った?」
死ぬかと思った冬季は我に返ると直ぐに声を上げる。
しかし、ミリアは自分が悪いとは微塵も思っていないようで村に戻ると言うと周囲を見回すが、どこから来たかわからなくなってしまったのか顔を引きつらせた。
冬季はミリアが何を言っているのかわからないようで首を傾げるも、命の危険にさらされていた事もあり、がむしゃらに走っていたせいか、戻る道がわかるわけがない。
「ど、どうするのよ? 何で、こんな林の中に逃げ込んだのよ!!」
「どうしてって、ナイフを向けられたら、逃げるでしょ。こっちは本気で殺されるかと思ったんだぞ」
「本気でそんな事をするわけがないでしょ!! それくらい、察しなさいよ」
「……止めよう。このののしり合いは不毛だ」
「そうね」
冬季もミリアもお互いに自分は悪くないと言いたいのか、大声をあげてお互いを責め始めるが、直ぐにお互いの間抜けさに気が付いたようで2人は肩を落とした。
「とりあえず、こう言う時は、何を目指して歩けば良いの?」
「わかんないわ……そう言うのはバカ兄貴に役目だったし」
「あー、何となく納得」
林の中で迷った時に対応をミリアに聞くが、ミリアは首を横に振るとミリアの性格が何となく理解できたようで冬季はミリアをあてにしてはいけないと思ったようで改めて、周囲を見回す。
「何してるのよ?」
「いや、何か村へ戻る目印になるものがないかと思って、元々はこの林の木を切って林業をしていた村なんだから、切った木を運ぶとしたら、それなりに広い道を作ってるんじゃないかと思って、後はキリカブで方位とかは……無理だな。精霊の力で植物が育ってるって言ってたし、年輪とかが出来てるかもわからないし」
ミリアは冬季が何をしているかわからずに首を傾げると冬季はこの林がかつての村人の生きるすべだった事を思い出し、そこから何か見つけられないかと言うも、彼の中にあるちょっとした知識はクレメイアで使えるかわからない。
「とりあえず、大きな道がないか、探してみたら良いのよね? わたしはそっちを探すから、冬季はそっちを」
「いや、2人で動かないとどっちかが迷子になると大変だから」
ミリアは方針が決まると冬季に指示を出すが、冬季はミリアの指示にダメだしをすると2人で村に戻る道を探す。




