第14話
「この村で良い材料が取れるって言うけど、そんなに良いのか? グリッツの周辺にだって木はあるよな?」
「それはあるけど……問題はそこじゃないのよ」
昼食の準備を粗方終えると冬季は村の周辺に生い茂っている木々へと視線を移す。
ミルドがグリッツへと運びたいほどの価値があるのかと首を傾げるとミリアは何かあるのか少し遠い目をして言う。
「問題?」
「問題は王都じゃ、仕事がないって事、王都の近くの木々を伐採しても、仕事を失った者達のためには使われない。労働力として雇って貰えたって、そのお金が懐に入るのはごく1部よ。それにね。ずっと住んでた土地って言うのは特別なの」
「特別か? ……それは何となくわかるかな?」
ミリアの様子から、彼女が大切な故郷を失った人間である事は読み取れる。
冬季自身も今まで住んでいた世界から、縁もゆかりもないクレメイアに召喚された事で望郷の思いが募っているようで少しだけ寂しそうに笑った。
「本当にわかるって言うの?」
「わ、わかってるつもりだけど」
しかし、ミリアは冬季の身の上を知らないようで、自分へ同情したと思っているのか不機嫌そうに聞き、そんな彼女の様子に冬季は委縮してしまったのか声を震わせる。
「ねえ、冬季、ずっと気になってたんだけど……なんで、わたしが話すと少し警戒してない?」
「そ、それはあって、直ぐに怒鳴られるは、脅されるはしていれば……いくら、可愛くても警戒はする」
「わたし、怒鳴っていないし、それこそ、脅して何かいないわ。変な言いがかりをつけるのは止めてよね」
「自覚ないんだ」
ミリアは冬季の態度が気になったようで首を傾げるが、彼女に振り回されっぱなしの冬季にとっては当然の態度であり、自覚のない彼女の様子に大きく肩を落とす。
「まぁ、良いわ。同じ年くらいだし、今更だけど、仲良くやりましょう」
「……本当に今更な気がするけど」
「何か言った?」
「いえ、何も」
料理の準備も終えた事で機嫌が良いようで笑顔を見せるミリア。
冬季は納得がいかないようで首を傾げるも文句を言えないようで直ぐに頷く。
「それで、昼食の準備がキリの良いところまできたなら、休憩に入って良いかな? 流石に働きっぱなしだから疲れたんだけど」
「それはわたしも一緒よ。むしろ、働いている時間で言えば、わたしの方が長く働いてるの。こっちは水浴びに行く時間だってなかったのに……何よ?」
休憩を希望する冬季の様子にミリアは自分の方が休憩がしたいと言うと自分の汗の臭いが気になるようでクンクンと自分の体臭を嗅ぐ。
その様子に冬季は少しおかしかったようでくすくすと笑うとミリアは不機嫌そうな表情をして彼を睨みつけた。
「いや、何も」
「言いたい事があるなら、言いなさいよ」
「……言うと怒るだろ」
ミリアは冬季の態度が気に入らないのか、頬を膨らませるが、冬季には冬季の言い分があり、大きく肩を落とす。
しかし、その態度がいけなかったのであろう、ミリアは腰のホルダにしまってあった投てき用のナイフを抜くと冬季に狙いを定めるような視線を向ける。
「ちょっと、何をする気?」
「何をする気だと思う? ……ねえ、冬季、あなたもギルド員よね。それなら、ちょっと訓練に付き合ってくれない?」
「いや、俺は休憩したいんだよね……と言う事で」
「待ちなさい!!」
冬季の危険を察知するレーダーはすでにレッドゾーンに突入しており、全速力で逃走を始め、ミリアはナイフで冬季を狙いながら、彼の後を追いかけて行く。
「仲、良いね」
「良いのか?」
そんな2人の姿を見て、周りのギルド員達は苦笑いを浮かべる。