第13話
「そして、朝食後、直ぐに昼食の準備」
「仕方ないでしょ。この人数分を作ってみたら、もう始めないと間に合わないんだから」
ミリアの味付けした朝食はコンビニ弁当やインスタント食品に比べて薄味ではあるが、しっかりとしたものであり、充分に堪能する事が出来た。
冬季は朝食で腹が膨れて満足感を味わっていたのだが、直ぐにミリアに捕まり、冬季は再び、ジャガイモのような野菜の皮むきをさせられており、大きく肩を落とす。
「と言うか、このまま行くと今回の依頼内で専属料理人にされそうな気がする……まぁ、野盗と戦うよりは気が楽だけど、だからと言って、このままでいいのかな?」
「似合ってるし、良いんじゃないかな? それに朝食は美味しかったよ」
「ミルドさん? 美味しいって、言っても味付けもほとんど、ミリアさんがやったんであって、俺は野菜を剥いていただけですよ」
ミリアが鍋を見に行くとスキを狙ったかのようにミルドが現れ、包丁片手の彼の様子にからかうように笑う。
冬季は自分は何もしていないと思っており、からかわれている事にため息を吐く。
「と言うか、ミルドさんから、料理を手伝うように言ってくださいよ。ミリアさんに負担がかかり過ぎですよ」
「いや、みんな刃物と言えば、料理する材料は食材じゃないし、包丁やナイフは手に合わないみたいで」
「……いきなり、物騒になったよ」
依頼主であるミルドからの指示が出れば、ギルド員も食事の順部に協力してくれるのではないかと考えるが、ミルドは笑顔でその考えを否定する。
その言葉はまだこの世界になれていない冬季にとっては物騒なものでしかなく、彼の顔はひきつって行く。
「と言う事で、冬季がミリアの手伝いをしていてくれないかい? ……彼女、怒ると怖いから」
「それは何となく、理解しましたけど、怒らせる前に手伝いを増やしてください。このまま行くと俺が料理されそうです。逃げようとするとナイフが飛んできそうなんで」
「飛んできそうじゃなく、間違いなく、飛んでくるよ。彼女の得意武器はナイフの投擲らしいから、実際、他のギルド員が逃げるのは彼女の性格もあるみたいだから」
ミルド直々にミリアの手伝いの指名を受けるが、冬季はどこか命の危険にさらされている気しかしないようであり、もう1度、増員を願う。
しかし、ミルドの答えは1つであり、笑顔で冬季を応援と言う名の厄介事を押し付ける。
「いや、そんなところで俺も仕事したくないんですけど」
「大丈夫だよ。なんだかんだ言いながらも、冬季は上手くやっていけそうだから、相手を尊重する事も知ってるし、自分の立ち位置もしっかりと見えてるし、当たり障りなく上手くミリアの怒りを買わせるよ」
「それ、ひよってるって言われてる気しかしなくて、誉められてる気がしないんですけど」
冬季なら、上手くミリアの怒りを交わせると笑うミルド。
しかし、冬季はバカにされている気しかしないようで大きく肩を落とす。
「まぁ、大丈夫だよ。取りあえず、任せるから、よろしくね。私はそろそろ、退散しないと危険だから、行くね」
「あっ……逃げられた」
冬季の様子にミルドは苦笑いを浮かべるとミリアに睨まれる前にと逃げて行ってしまう。
取り残された冬季は文句を言いたいが誰にもぶつけられないため、ぶつぶつと言いながらも料理の続きをして行く。