第12話
「……飯作るのって、こんなに大変だったんだな。母さんに悪い事してたな。もっといろいろと話すんだった」
「冬季、何か言った?」
「いや、何でもないよ」
朝食の準備を初めて、直ぐに元の世界にいる母親の顔を思い浮かべる。
当たり前のように用意されていた食事や、その時に母親が聞く料理の事、「美味しい」と聞かれても特に何も答える事もなく、冬季は母親との会話がなくなってきていた事も思い出したようで感傷に浸ってしまう。
その声が聞こえたのか、ミリアは首を傾げると彼女に自分は別世界から来たと言うわけにもいかないため、冬季は何もないと直ぐに首を振る。
「しかし、20人分を2人で作るのって、無茶じゃない? それも俺はほとんど役立たずなのに、1人の方が速いんじゃないの?」
「そう言って、逃げる気でしょう? みんな冬季みたいな事を言って逃げたんだから、そんな事はさせないわ」
「いや、だからと言って……皮むき器欲しいな」
冬季はジャガイモに似た野菜の皮を剥くように言われたのだが、学校の調理実習くらいでしか包丁を持った事のない冬季の手は出血まで行ってはいないがところどころ手の皮が切れており、自分の才能のなさを感じたため、逃げだそうとする。
しかし、ミリアはすでに何人ものギルド員に逃走されている事もあるため、絶対に冬季を逃がす気はない。
ミリアの様子にロッドの逃げ出し理由が良くわかった冬季はどこか諦めが出てきたようで、元の世界に有った調理器具を思い浮かべてため息を吐いた。
「だいたい。ここにだって、数日、滞在するんだから、最終日くらいにまで上手くなってくれてれば良いのよ。最終的に楽できるようになって居れば良いわ」
「……それって、確実に俺が料理担当になるって事だよな?」
「そうね。言っておくけど、昼の準備で逃げたら、ただじゃおかないわ」
「わ、わかったから、ナイフを向けないでくれ」
ミリアは先を見越して冬季に料理を叩きこむつもりのようであり、逃げないようにと言う脅しなのか、冬季の鼻先にナイフの先端を向けた。
流石に殺される事はないにしても、ナイフを向けられるような事は経験した事のない冬季には充分な脅しになっており、顔を引きつらせる。
「それじゃあ、早く、それの下準備を終わらせて」
「終わらせてって言われてもな……量、多すぎだから」
「おーい。新入り、ミリア、朝飯はまだか?」
速く終わらせようと腕まくりをして気合いを入れるミリア。
しかし、冬季は無理な問題を押し付けられただけであり、大きく肩を落とす。
その時、ミルドへの説明が終わったようでライが2人に朝食の催促しに現れる。その手には酒が入ったカップを持ってである。
「……ライさん、朝っぱらから、酒を飲まないでください」
「と言うか、催促するなら、手伝ってよ。ただでさえ、この人数分を2人で作るのは大変なんだから」
「あ? そうか、それなら」
朝から、酒をあおっているライの様子に冬季とミリアはため息を吐く。
ミリアから手伝えと言われるとライは楽しそうに口元を緩ませ、鍋の近くに歩いて行く。
「ミリアさん、俺、酷くイヤな予感がするんだけど」
「奇遇ね。わたしもよ……ライ、何をする気?」
「決まってるだろ。味付けにこいつを」
2人はライが何をするつもりか察しがついたようで、顔を引きつらせるとライは2人の予想通り、手に持っていた酒を鍋の中に入れようとする。
その様子に冬季とミリアは慌てて、ライの腕をつかむ。
「何する気ですか!! せっかく、ここまで作ったのに、台無しにする気ですか!!」
「いや、どうせ、雑な奴ばかりなんだ。これで良いだろ」
「良いわけがないでしょ!! あっち、行ってて」
ライは味なんて誰も気にしないと言うが、ここまで作ったミリアから見れば暴言でしかなく、顔を真っ赤にしてライを怒鳴りつけると彼を尻を蹴り飛ばす。