第10話
「まったく」
「冬季、ライ、お帰り」
水浴びを終えて、拠点にしている村長の屋敷に戻ると数名のギルド員が朝食の準備をしており、それを眺めていたミルドが冬季達に気づいて声をかける。
「ミルド様、ちょっと良いか?」
「とりあえず、場所を変えた方が良さそうだね」
ライは先ほど、自分達を監視していた目があった事を報告しておく必要があると思ったようで周囲を警戒しながら、ミルドを呼ぶ。
その表情はいつもの酒に酔った感じではなく、ミルドはそんな彼の表情に何かを察したようで表情を引き締める。
「俺も行った方が良いですか?」
「いや、新入りは普通にしていてくれ。人数が増えると目立つからな……ロッドに川であった事を伝えておいてくれ」
「わかりました。ちょっと、行ってきます」
「冬季、任せるよ。」
冬季は監視されていた事もあり、1人になるのは不安のようで、ミルドとライについて行きたいようだが、ライはロッドへの言伝を頼む。
状況が状況のため、冬季は頷く事しかできず、ロッドを探しに歩き出す。
……と言うか、1人で動き回って良いのか? どこにいるかくらい聞けば良かった。
冬季は歩き始めて直ぐにロッドがいる場所に心当たりがないため、失敗したと思ったようで大きく肩を落とした。
「何、肩を落としてるんだ?」
「ロッドさん、良かった。見つけた」
「いや、見つけたのは俺だけどな。それで、俺を探してたみたいだけど、何かあったのかい?」
肩を落としている冬季を探し人であるはずのロッドが気づき、声をかけると冬季の様子から何かあったのだと気付いたようである。
「それが、さっき、川で……俺達を監視している人がいるって、ライさんが」
「あー、様子を見にきたわけか? 聞いておくけど、ライ以外にその監視の目に気づいたギルド員はいたかい?」
「わかりません。そんな事を気にする余裕もなかったです」
冬季は声量を抑えるとロッドに監視されていた事を話す。
その説明にロッドは直ぐに状況の整理を始めたようで、冬季に他のギルド員の様子を聞く。
しかし、冬季にそこまで気にする事はできず、首を横に振った。
「それも、そうだ」
「あの、他に気づいた人がいたか、確認取った方が良かったですか?」
「いや、必要ない。気づいていれば、裏がなければ依頼主のミルド様に報告が行く。それがないなら、気がついていないか……知っていて、あえて報告をしていない可能性もあるからな」
ロッドの言葉は裏切り者がいる可能性があると思っているためか、警戒しないといけないと思っているようで真剣な表情をして頷く。
「そ、そうですね」
「不安か?」
「それは……まぁ、ライさんの言う通り、俺は新入りだし、信頼して良いギルド員もいないですから」
「それは君にとっては俺も信頼に足る仲間じゃないって事かな?」
冬季は改めて、自分がクレメイアには頼れる人間がいないと思ったようで、表情を強張らせると、それに気づいたロッドは信頼して欲しいと言いたいのか優しげな笑みを浮かべる。
「それは……」
「少なくとも俺達は仲間を見捨てるつもりはないんだ。そうだな。良い機会だし、俺とライがよく一緒に依頼を受けている奴らを紹介しておくか? 今回も同行している奴らがいるから」
冬季は自分を気にかけてくれるライやロッドを信頼したいようだが、やはり、何かが引っかかってしまい言葉につまってしまう。
その様子にロッドは苦笑いを浮かべて冬季の頭を撫で回し、彼の知り合いのギルド員を紹介すると言う。