第8話
「流石に風呂は無理だよな」
「無理だ。朝になれば、まだ、獣の襲撃も減るだろうから、川で水浴びくらいはできるぞ」
簡単な食事を終えると馬車での移動で座りっぱなしだったせいか、数名のギルド員は剣や槍を振り、固まった身体をほぐしている。
冬季は食事の間中、酔っ払いのライの相手は勘弁だと思ったようで、その中に混じり、剣を振っていたのだが、集中していたようでかなりの汗をかいてしまい、汗で身体に張り付いた衣類にため息を吐く。
冬季が剣を振っていたのを遠くで見ていたのか、両手に木製のカップを持ったロッドが苦笑いを浮かべて冬季に声をかけた。
「あ、ありがとうございます」
「心配しなくても酒じゃない。俺も依頼中に酒を飲むのは遠慮したいんでね」
ロッドの持っていたカップの片方は冬季の分で合ったようであり、ロッドは冬季に渡す。
冬季は中の液体を見て、一瞬、戸惑いを見せ、ロッドは彼の考えた事を苦笑いを浮かべたまま否定する。
「そ、そうですか。いただきます」
「ずいぶんと集中していたみたいじゃないか?」
酒じゃない事にほっとしたようで、冬季はのどの渇きを感じていたようで直ぐに口をつけ、ロッドは冬季が剣を振っていたのを長く見ていたようであり、冬季に心境を聞く。
「いや……ちょっと、これを振っていれば、まだ、気持ちが落ち着くんで」
「それは剣の腕に自信があるって事か? それは心強いな」
「い、いえ、王都から出るのも、こんな形で依頼を受けるのも初めてだし、初めてづくしで何をしていたら良いのかわからなくて、落ち着かないんです」
「初めてって話だったな。それなら、仕方ないか。ミルド様も冬季が野盗が紛れ込んでいる可能性も考えているって言ってたからな」
冬季は苦笑いを浮かべながら、1晩をどう過ごして良いか不安と言う事を話してしまう。
その答えにロッドは仕方ないとも思ったようで小さくため息を吐くも、ミルドから、冬季の様子を見てくるように言われていたようで真面目な表情をする。
「……ロッドさんは野盗と組んでいるギルド員がいると思ってますか?」
「いないとは言えないな。ギルド員って言ってもお互いの素性を知ってるわけでもないからな。信頼できる人間なんて20人居ても4、5人だ」
「そんななかで良く平気でいられますね」
裏切り者が居て当たり前だと言うロッド。
冬季は信じられないようで眉間にしわを寄せるも、ロッドはそんな冬季の様子が面白いようでくすくすと笑う。
「笑い事じゃないんですよ」
「まぁ、笑い事じゃないな。だけど、裏切り者がいるとしても、初日からは仕掛けてこないだろうな。最初から、ここを夜盗が張ってたとしても、戦力がわからないうちに仕掛けてはこない。最短で今晩あたり、もしくは明日の朝になってから、周囲の探索時に裏切り者が夜盗と接触くらいはするだろうし、それを見てこちらの行動も決めないといけない。初日はこちらも警戒が強いからな。気が緩んだ時を狙ってくるだろう」
ロッドは今晩の夜盗の襲撃はないと判断しているようであり、少し張り詰めた空気を緩ませろと言いたいのか、乱暴に冬季の頭を撫でる。
「ちょ、ちょっと、何をするんですか!?」
「ミルド様から、冬季の境遇は聞いている。無茶なところに放り出されたんだろうけど、ここで過ごすしかないなら、生き残るために多くのものを学べ、命の危険にさらされた時に身をもって学んだ事は、きっと、お前の力になる」
「いや、できれば命の危険にさらされたくないんですけど」
「確かにそう言われるとその通りだな」
ロッドは今回の依頼で多くの事を冬季に学ぶように言うが、冬季は危険な事に足を突っ込みたくないと大きく肩を落とす。
その様子にロッドは同意できる事もあるようで苦笑いを浮かべた。