第7話
「結構、広いな。20人で屋敷? って、思ったけど、これなら余裕っぽい?」
「新入り、遊んでないで、荷物を下ろし手伝えよ」
「手伝うけど……早く酒が飲みたいから張り切ってるわけじゃないですよね」
馬車から降りると冬季は村長の屋敷を覗き込む。
廃村の村長屋敷と言う事で、あまり大きな屋敷を想像していなかったのだが、屋敷自体は冬季の想像を超えた広さであり、多少、破損個所はあるものの、数日くらいの宿泊は問題なさそうに見えた。
冬季が屋敷を見ていた様子に、ライは大声で冬季を呼ぶ。
その声に気づき、荷物運びを手伝おうと駆け寄る冬季だが、酔っ払いであるライを信じ切れないようで疑いの視線を向ける。
「何を言ってるんだ? 何もない廃村なんだ。酒くらいしか楽しみがねえだろ」
「いや、酒くらいって、野盗が出るかも知れないんだから、少し自重してくださいよ」
「自重したって、くる時はくる、こない時はこないんこないんだ。変に気を張ってるといざって時に身体が動かねえぞ。それに俺は酔えば酔うほど、強くなるんだ」
「酔えば酔うほど強くなるって、酔拳かよ……と言うか、みんな、近付いてこないのはそう言う事か?」
しかし、冬季の心配をライは笑い飛ばすと彼の背中をバンバンと叩き、冬季はライの周辺をギルド員達が近寄ってこないのは酔っ払いの相手をしたくないからだと察して大きく肩を落とす。
「何だ? その酔拳ってヤツは?」
「あー、酒を飲みながら、戦う戦士がいるんですよ。拳ですけど、動きはふらふらなんですけど予測できない動きで相手の攻撃を交わし、反撃をする。それもめっぽう強い」
「そんな戦い方があるのか? ……いいな。それ、新入りはそれ使えないのかよ」
冬季はこれ以上、ライの相手をしたくないようで荷物を手に取り、運ぼうとするが、酒を飲みながらと言う酔拳の説明にライは食いついてしまう。
「いや、俺、未成年だから、酒なんて飲んだ事無いし」
「何? その年で酒を飲んだ事がない? お前、16だろ」
「そうだけど」
「酒なんて、15で解禁だろ」
「悪いね。俺の住んでたところでは20からだったんだよ」
ライはクレメイアでは飲酒は15歳から許されると言うが、酔っ払いの発言であり、冬季は信じる気もないようで足早に歩き出す。
「20からね。ずいぶん、遅いじゃないか? まぁ、とりあえずは、その年なら酒飲んでも問題ないんだ。夜にでも付き合えよ。新入り」
「イヤです。こんなどうなるか、わからない状況で酒なんて飲めません」
「そうか? それなら、グリッツに戻ったら、付き合えよ。それくらいは良いだろ」
「それくらいなら……」
「おし、それじゃあ、約束したからな」
しつこく食い下がるライの様子に冬季は折れたようでため息交じりで頷くと、ライは冬季の背中を叩いた後に、荷物を取りに戻って行く。
「危ないな。ったく、ガキと一緒に酒を飲んで何が楽しいんだよ。と言うか、死にフラグっぽいのが起きたんだけど、大丈夫だよな? まぁ、現実で死にフラグなんて、起きるわけないか、くだらない事を言ってないで、さっさと済ませよう」
背中を叩かれ、落としそうになった荷物を担ぎ直すとライと交わした約束が微妙に引っかかり、冬季は眉間にしわを寄せるが、フラグなど映画やマンガなどのただのお約束だと言うと屋敷の中に荷物を運んで行くが、自分自身、お約束の異世界に飛ばされている事は忘れているようである。