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召喚勇者は現実主義者?  作者: まあ
第1章 勇者の旅立ち……いいえ、旅立ちません。
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第1話

「魔王から、世界の平和を取り戻すため、勇者よ。旅立つのだ!!」

「む、無理です」


 冬季が勇者になる事を受諾すると、王は直ぐに簡素な剣と鎧、そして、少ないとは言え旅の資金を用立てくれ、冬季に旅立つように言う。

 しかし、その言葉に冬季は即答で首を横に振り、予想外の返事だったようで、謁見の間をおかしな静寂が包む。


「……どう言う事だ? お主は勇者になる事を認めたではないか?」

「確かに認めました。しかし、私はこの世界に呼び出されはしましたが、この世界の事を何も知りません。どう言う事かわかりませんが、言葉は聞き取れ、この世界の言葉を話す事もできます。でも、それ以外は何も持っていません。文字も読めなければ書く事もできない。勇者とは言われはしましたが、私が住んでいた世界は平和そのものであり、私自信は剣を持った事もありません。そのような者が魔王の力を受けた者達と戦えるでしょうか?」

「確かにそうだな……」


 静寂を王自らが破る。その目からは今更、怖じ気づいたと言うのではないかと思っているようで、断る事は許さないと言う圧力がある。

 冬季はその視線に威圧されそうになるものの、ここで引いてしまっては、戦う術のない自分にとっては直ぐに野垂れ死にだと思っている事もあり、引く事はできなく、現在の自分が如何に無力かを解く。

 その言葉は冬季の心からの言葉であり、王は兵士達と比べて、何弱にも見える冬季の姿を見定めるような視線を送り、冬季の言葉に納得できる事があるようで小さく頷くと彼を本当に勇者と認めてしまった良いのか悩み始めたようで両手を組み考えだす。


 ……王様の様子を見ていると、俺をこの世界に呼び出したのは王様じゃないって事か? だとすると、誰だ?


 冬季は王の様子に彼が自分をこの世界に呼び出したのではないと直感的に感じ取ったようで、自分をこの世界に召喚した魔術師のような人間がいないかと謁見の間にいる人間に視線を向けるが、誰もが冬季の言葉に戸惑っているようで、謁見の間にはそのような魔術師がいないようにも思える。


「……お主の言う事ももっともだ。お主はこの世界の希望であり、魔王を打ち倒す前に失ってしまっては、お主をこの世界に呼び寄せた精霊様に申し訳が立たぬ。最低限、我が国で戦う術や冒険に必要な知識を学ぶ必要があるな。しばらくはこの国に駐留するが良い。勇者に寝所を用意しろ」

「ありがとうございます」


 王は冬季の言い分に納得したようであり、冬季にこの世界で生きる術を学ばせる事を約束するとそばに仕えている大臣に指示を出し、その言葉に大臣は頷くと足早に謁見の間を出て行く。

 冬季は王が自分の話を聞いてくれた事に胸をなで下ろすと王に向かい深々と頭を下げた。


「良い。元々、この世界の事だ。異世界の住人であったお主を巻き込んでしまった事を遅れてしまったが、謝罪させて欲しい」


 王は改めて考えると何も知らない異世界の住人である冬季を巻き込んでしまった事を申し訳なく思ったようで冬季に謝罪をするが、王が自ら頭を下げた事に面白くないと思っている兵士達も多く、冬季に向かい攻撃的な視線が向けられている。

 

 ……形だけだろうな。さっきの話を聞く限り、俺を呼び出したのはこの国の人間ではないみたいだし、俺が本当に魔王を倒す事が出来た時のメリットを考えてだろう。ただ、少なくとも頭が回るって事だけはわかるよ。そして、あんたを信用してはいけないって事も。


 王の行動は何も知らない人間から見れば、素晴らしい行動かも知れない。

 ただ、冬季は何度もテレビで形だけで頭を下げる政治家達を見て来ている事もあり、その行動がそれと同じものだと言う事が理解できた。

 王が頭を下げながらもどこかで損得勘定をしている事を察した冬季はこの王を信用してはならないと思ったようで気を引き締める。


「ありがとうございます。知り合いも1人もいないこの世界で、私を見つけてくれたのが、この国の人で良かったです」

「そうか? そう言ってくれるとこちらもありがたい。この国がこの世界にとってはお主の故郷だ。それを覚えておくのだ」

「はい」


 王の腹の中の黒い部分に気が付きながらも、機嫌を損ねて何も知らない世界に放り出されるわけにもいかない冬季は王の優しさに感動したと言う態度を見せる。

 王は彼の本心に気づいているかはわからないが茶番を続け、冬季の手を取った。

 2人の様子に謁見の間には誰から始めたかわからないが温かい拍手が響き渡るが、2人の腹の中にある感情はそんな素晴らしいものではない。


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