第6話
……一先ずはギルドに登録してみたけど、現状は今と変わらず、戦闘訓練だよな。
ミルドの屋敷に戻り、冬季は登録したギルドの事を考えようと思ったようで、キレイに片付けられたベッドの上に寝転ぶ。
……実戦経験か?
そんななか、ギルド員であるライと言う男性が言っていた言葉を思い出す。
命を奪う事ができない人間は強くなれないって言われたって、俺にできるのか?
ライの言葉は冬季に重くのしかかる。
冬季自身、考えないようにしていた事である。戦闘訓練で戦う術を覚える事は可能であろう。
魔物と言った獣相手なら何とか戦えるのではとも考えていた。
しかし、ネットやゲームの中では生活が苦しくて野盗になり下がってしまった人間と戦う事は良くあることである。
そんな人間と対峙した時、冬季は武器を抜く事ができるのだろうか?
そう考えると利き腕である右腕が震え始め、冬季は震えを抑えようと左手で右腕の手首を抑えるが震えが止まる事はない。
……殺せるわけがないだろ。
震える右腕を押さえながら、こみ上がってくる恐怖に冬季の顔は血の気が引いて行っているようで蒼白になって行くが、彼に不安をぶつける相手などない。
「冬季、いるかい?」
その時、冬季の寝室のドアをミルドがノックする。
しかし、冬季にはその声に返事をする余裕などないようでその声は彼の耳に届いてはいない。
「……冬季、開けるよ」
「……」
「冬季、どうしたんだい?」
ミルドは中に人の気配がするが、返事がないため、もう1度、声をかけるとゆっくりとドアを開けるとベッドの上で腕から身体全体へと震えが広がっている冬季の姿が目に映り、ミルドは慌てて冬季へと駆け寄る。
「な、何でもないです」
「何でもないと言う顔色じゃないよ。話すんだ。話せば心が軽くなる可能性だってあるんだから、そうだね。お茶を飲もうか? すぐに用意させるから、レミさん、お茶を2人分用意してくれるかい?」
「……承知しました」
冬季の顔色にただ事ではないと察したミルドは直ぐに声をかけるが、冬季はこの震えの原因はこの世界の人間にはわからないと思ったようで首を横に振った。
しかし、ミルドはこのまま冬季を放っておけるわけもなく、彼を少しでも落ち着かせようと思ったようで、廊下に控えているレミへと声をかけ、レミは1度、頭を下げるとお茶を取りにその場から放れて行く。
「落ち着いたかい?」
「そう……ですね。少しは楽になりました」
レミが運んできたお茶とお茶菓子を前にミルドは冬季に声をかけると、人がいる事で恐怖が少しだけ和らいだのか、冬季の身体の震えは右腕だけに戻ったようであり、彼の左手は右腕を押さえたままである。
「それで、右腕を押さえているけど、どうしたんだい?」
「……ミルドさんにはきっとわからないと思います」
ミルドは冬季が右腕を押さえているのに気付いており、彼の不調がそこから来ていると気付いたようで冬季に原因を聞くが、冬季は首を横に振った。
「……そうかい? 確かにクレメイアは君のいた世界とは全く違うから、私には力になれない事もあるのかも知れない。それでも話してくれないかな? さっきも言ったけど、他人に話せば心が軽くなる事もある。私は君の力になると決めたんだ。だから、少しでも君の不安を預けてくれないかい?」
「だけど……」
ミルドは冬季の顔を見て、柔らかな笑みを浮かべて話すように言うが、冬季は話す勇気が出ないようで目を伏せてしまう。




