招かざる訪問客(虫界のスカンク)
時刻は1:20。
夏休み明けのテストに向けて勉強をしていた私は、静寂を破るそれに気付いて顔を上げた。
ゔぅ……ん
ゔぅ……ん
部屋の中央にぶら下がっている洒落たデザインの照明に、狂ったように体当たりを繰り返す真っ黒なボディの何か。
「ぅうあぁっ!」
心の中で(夜中ですから)叫んで、思いっきり部屋から逃げる。なんだアレは。蜂か。あの大きさは蜂なのか。
実は私、ついこの間大きな蜂と一夜を共にした輩である。気付かなかったんだ。知ってたら彼とは一緒にならなかった。……何の話だ。
とにもかくにも、部屋に不法侵入の人では無い何かが錯乱状態に陥っているのは、気持ちの良いものではない。
とりあえず部屋の扉の外から、中の様子をそっと伺う。
犯人は落ち着いたのか、今はベージュのカーテンにしがみついていた。
……おおぅ、もう動かないようだ。これはチャンス。やつの正体を確かめようではないか。
そろりそろりとカーテンに近寄り、やつを見つめる。
やつの正体を確認した私は、硬直してしまった。何故って?
やつは……彼は、いわゆる虫界のスカンクさんだったからだ。
ちなみに私は虫の中で、G、幼虫、彼、の順で嫌いだ。蝶とかマジで元から綺麗な格好しとけよ、と思う。
私はため息をついて机の前に腰かけた。お互いが共存するためには、何かを我慢しなければいけない。
……なに?逃がせばよかろうだって?
触れねーから嫌いなんだって。
とにかく私はさっきまで熱中していた古文の本をめくった。
その時だった。
ヴゥゥゥウウ!!
「いやぁぁぁああ!」
またしても彼の精神状態が危なくなっている!つかこれ電気消した方が良くね!?
半ば半泣きになった私は、彼との戦いに負けた。そう。自ら土俵から降りた。
カーテンレールに鎮座した彼の真下にあるベッドから、タオルケットを一枚掴み、大事な勉強道具を抱えて、さっきまで自分の支配下だった部屋を後にする。
「勝ったと思うなよ」
そう吐き捨てると、彼は怒ったように羽を鳴らした。私は慌てて扉を閉めた。
喜ばしい事に、リビングの近くには和室があり、ふわふわの布団が常備されている。しかし、彼との攻防戦に敗れたとて、涙で布団を濡らすわけにはいかない。
明日、必ず彼を成敗してくれる。
………………母が。
私は勢い込んで古文の本を開くのであった。