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風見鶏の店長さん。  作者: 武蔵(タケクラ)
店長さんと、異世界の日常。
4/43

店長さんの、日常。

店長さんの日常と言うよりは、帝国の都に住む人々の常識と風見鶏での業務ですかね?

今回もまた説明過多です。

更に、臨の周りで暮らしている人や交流のある人達も登場します。


お気に入り、評価有難う御座います!!



 傭兵ギルド『風見鶏』で働く日本人、久松臨が現在生活している“アパート”は『風見鶏』からほど近い場所にある。


 赤に塗り上げられたドアに羽のある魚らしき意匠が取り付けられた、赤レンガで出来た三階建てのアパートだ。

“赤い飛び魚”が、アパートの通称である。

見たままの通称だが、住所と言う物が存在しないこの世界では特徴の無い建物はドアを飾る事で目印にする。

よって、通称は自然と見たままを指す物が多くなるのは仕方がないと思ってほしい。

 赤いドアから中に入って見ると、当たり前だがずらりとドアが並ぶ。

薄暗い廊下を挟んで左右に部屋が並んでいるのだが、

部屋番号はどの扉にもついておらず、変わりにフックがついていた。

 フックに掛かっているものは、大抵がプレートだ。

名前だけが書いてある長方形のシンプルなものから、文字の書かれていない何かの形を模った物などそれぞれ違う物だ。

プレートの素材は様々で、木製であったり金属、革、何かのウロコもある。

プレート以外にも、ぬいぐるみやリースなどを掛けている少数派も居るが、

とにかく居住者の居る部屋にはそう言った物が掛かっているのだ。

 赤い飛び魚の三階、階段から一番離れた角部屋の住人である臨は、そんな少数派の一人だ。

 最近ではすっかり馴れた(諦めて開き直った、の方が正しいかもしれない)が、暮らし始めた当初はドアに掛かる物を見る度に臨の頬は引き攣っていた。

部屋を手配してくれた“保護者”から、輝かんばかりの笑顔で、引っ越し祝いとして贈られたそれは・・・。

 底に、漢字で“久松”と彫刻が施された、直径20cm程のフライパンだった。

「護身用にはなるけど、調理用にはならない特注」だとエエ顔でのたまられては、怒りや呆れを通り越した脱力感しか沸かなかった。と臨は語る。


 話しを戻そう。

 表札代わりのフライパンが掛かった臨の部屋は、キッチン付きのワンルームだ。

キッチンと言っても、オーブンレンジと水道のない流し台が在るだけだ。

レンガを組んで作られた真四角なオーブンは窓際にあり、煙突が壁に組み込まれている。

外から見ると判るが、アパートの壁面には窓の横に長方形の出っ張りが存在した。

オーブンの上は鉄板が置かれていて、それを退けるとコンロの代わりだ。

規模は違うが風見鶏でも同じものを使っている。

 臨の部屋に限らず、赤い飛び魚内の部屋は全てこの形である。

先ほども言ったが、部屋の中にある流し台は上水が流れ出す水道は無い。

変わりに下水は流せるが。

 室内で使用する上水は、共同の井戸から汲み上げなくてはいけないものだ。

その他、共同であるものは、洗濯場、風呂とトイレ。

アパートの裏手に小さな庭と水路が通っていて、その施設が固まる共同スペースだ。

アパート住人達が自然と集うそこは、ある種社交場になっている。


 帝国で暮らす住人の一日は、大体日の出の鐘の音で始まる。

鐘の音で起床、もしくは行動の開始。大抵は前者で、臨も前者である。

顔を洗って着替えを済ませると、まずやることは生活用水の確保だ。

流し台の横に置かれた瓶の水を捨て、水を補充する。

水魔法が得意な者以外は人力で。

 臨は人力の方だ。

人が使ってるのを見て便利だなとは思うが、臨は魔法を使ってみたいとは思わなかった。

その気持ちの所為か、それ以外の理由からかは判らないが臨は魔法が一切使えない。

それどころか、臨は魔力と言うものを欠片も持っていなかった。

 この世界で普通に暮らしていれば、魔力と言う物は体内に蓄積されるものだ。

だが、一年と少しこの世界で暮らしている臨の体内に魔力の欠片も存在しなかった。

 そんな理由もあって、今日も臨は欠伸を噛み殺しながら桶を持って井戸へ向かう。


「ノゾムさんおはようございまーす」

「おはようメル」


 ぼんやりしながら裏庭へ向かう最中、ご近所さんと挨拶を交わす。

赤い飛び魚は傭兵を含め、ギルド関係者が多いアパートだ。

そうじゃない者も住んで居るが、ワンルームのアパートなので独り者が多い。


「おはようノゾム、寝癖ついてるぞ」

「おはようジム、気にするな後で直す」


 釣瓶を落として水を汲み上げ、三階まで運ぶ。

中々骨が折れる仕事だが、流石に一年もやれば誰だって馴れる。

二往復して瓶を満たしたら、朝食。

掃除と洗濯は休みの日に纏めてで問題ない。

 朝食を終えて片付けをしたら出勤だ。

この辺りが国中の、大体の者の出勤時間になる。


 さて、時間の話が出た所で少々補足をしよう。

ゼノ帝国では、各家庭や店などに時計が無い。

各自が時計を持っているのかと言えば、それもNOだ。

 大きな日時計が“城、街の広場、教会”の三ヶ所に設置されており、時間は城の鐘で伝えられる。

鐘が鳴るのは日の出、正午、日の入りにそれぞれ三度だ。

一度に付き、大体20分置きに三度鳴る。

当番によって鳴らし方も間隔もまちまちだが、その辺りはご愛嬌だ。

余談だが、昼の鐘は昼休憩の目安でもあるので心なし少し長めの間隔を取られる事が多い。

閑話休題。


 出勤後、その日の当番が早い場合は、店の掃除を任せ臨は前日に仕込んで置いたパンを焼く。


「パン屋があれば楽なんだけどな」

「パン屋か、ノゾムはたまに面白い事言うな」


 その発想は無かった。と、カウンターを拭きながら本日の当番であるジムは言う。

パンは各家で焼くものと言う認識がある為、ゼノ帝国や東大陸どころかマギソー自体でパン屋と言う業種が無かった。

 パスタの様な乾麺や、米や麦は商店に並んでいる。

ときたまファンタジー独特の奇妙な食材もあるにはあるが(血液など)、大体の食材は地球の物と変わらない。

 パンを焼きはじめた後、料理の簡単な仕込みをする。

大抵その頃になると、商業ギルドを通して各商店に注文していた品が届く。

商業ギルドについては、後々詳しい説明をする事にしよう。


「おはよーございまー」


 無気力な挨拶と共にドアを蹴り開けて現れたのは、濃い灰色の直毛を肩の辺りで揃えた少女だ。

前髪を逆立てる様に持ち上げてヘアピンで止めている為、デコ全開。

ゆったりしたシャツとハーフパンツにサンダル履きと言う服装の、「女子力?何それ、食えるの?」という言葉を体言している彼女は担いで居た木箱を床に置く。


「おはよう、ドアを蹴るなって何度言えば覚えるんだグレーテル」

「耳ダコだけど、毎度手ぇ塞がってるんで。ってか何時ものよろしく」


 野菜や牛乳、卵など、昨日の朝注文した品に間違いが無いか確認してから木箱をジムに任せ、猿の様に長くうねる尾を揺らすグレーテルが投げたノートと携帯用のペンを臨は受け取る。


「ああ、明日休みだから今日は二日分の注文な」

「はーいはい、てかやっぱ変なサイン」


 発注する調味料や食材の名前を走り書きで書き連ねた下に、通称ではあるが店舗名である風見鶏と書く。

“久松”と漢字でサインを書き込む臨の手元を覗き込むグレーテルが肩を竦めると、臨はノートで彼女の頭をぽすりと叩いた。


「煩い、いいからさっさと次ぎ行け配達屋」

「ふぇーい、それじゃまたー」


 ひらひらと手の変わりにノートを振ったグレーテルが去ると、徐々に傭兵達が集まってくる。

欠伸をかみ殺していたり、すっかり目が覚めていたりと傭兵達の態度はバラバラだ。

飲み物や朝食をオーダーして好きな位置に座る者、事務所へ依頼を見に行く者などがいる。

 個人個人、好きに過ごすのは昼過ぎも同じなのだが、この時間は比較的静かな物であった。

 今日の当番が、落ち着いた雰囲気のジムであるのも要因の一つだが。

一番の原因は、若年トリオが顔を出して居ない事だろう。


「ノっゾムちゃんおはよー!!」

「はざーっす」

「店長ー!俺、今日外だから弁当よろしく!」


 大抵ハイテンションで、外から入って来るアリソン。

ギルド側からはチンピラファッションのシャムと、大剣を担いだロバートがやって来て風見鶏の食堂は賑やかになるのだ。

 更に騒がしくなるのが昼時で、ギルド外の客も入り、三日に一度はクレアが来店する。

外部からの常連客はほとんどが魔法使いだが、一般人の客も多い。

安くて旨い。

更には傭兵達から少々変わり種な話が聞けるとあれば、人は自然と集まるものだ。

 昼のラッシュを終えた後の山場は、何と言ってもティータイムだろう。

元々製菓は臨の専門外なのだが、客からの要望もあり日替わりで“おやつ”を提供している。

しかし、このおやつ・・・。


料理とは違い当たり外れの振り幅が異様に大きい。



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