修練場の小戦争1
オリバーの姿を見つけて歩みを速めたコリーから多少距離が開いてヴァンがいた。
その直ぐ後ろにギルベルト、翔太、梓と続き、クレアと臨が横並びで最後尾を勤めていた。
一応、手続きを完全には終えていない翔太と梓が同行している為、こんな隊列だったわけだ。
本来は城内を好き勝手に連れ歩いて良いものでは無いのだが、執務室内での最高権力者が「気になるなら皆で行く?」と胡散臭い笑みを貼り付けて一言吐いた為に翔太と梓も同行している。
距離が開いていたのはコリーとヴァンの間だけでヴァン以降は某RPGよろしくずらずらと並んでいた為、事故が起きた訳だ。
ヴァンとギルベルトの体格差も事故の原因だが、それは言っても仕方ない事だろう。
それは兎も角。
「で、さっきの爆音は何だったんだ?」
「・・・・・・っ」
顔を背けてちょっと待てとばかりに片手を上げたコリーの肩が震えている事に、溜め息を吐いた臨の背後から「それで?」と梓が声を上げた。
「コリーさんは置いとくとして、そっちの美人さんとメイドさんは臨さんの質問に答えられるんじゃないの?今外ってどーなってるの?」
「ばっ!」
「まあ、美人さんだそうですよオリバー殿下。前妃殿下は御美しい方でしたもの、似ていらして光栄ですわね」
彼女を良く知る者からすれば含みのある・・・満面の笑みを浮かべたレミーリアが、ふふと声を上げて笑った。
オリバーの身分を充分に示すキーワード盛り沢山の台詞に、ギルベルトと梓が青褪める。
梓を止めようと口を挟みかけた翔太は溜め息を吐き、少々癖のあるレミーリアの性格に臨とクレアが苦笑した。
「オリバー、彼女達こっちに来たばっかりなんだ。非常時・・・とは言い難いが、まあ多少の無礼は目を瞑ってくれないか?」
「ああ、構わない」
煩いのも周りに居ないだろ?と苦笑しつつ首を傾げた臨に対し、鷹揚に頷いたオリバーが微笑んで梓と翔太に視線を向けた。
「うはーテライケメソ!」
「バッカ!だから王子だっての!すみません、コイツ馬鹿で!」
目の保養!ゴチです!と黄色い声を上げた梓の頭を盛大にドツいた翔太が勢い良く頭を下げた。
皇子どころか皇太子、何年後になるかは解らないが後に皇帝となる可能性が限りなく高いオリバーの前では梓だけではなく、翔太の謝罪、臨の軽い問い掛けすら不敬罪に当たる可能性もあるのだがオリバーやコリー、レミーリアが特に気にしていないらしく、彼らの他に人影も見当たらない為不問になるようだ。
ド突き漫才の様な翔太と梓の様子に、漸く笑いを納めたコリーがまた一つ吹き出した。
「無知ってのは凄いな」と内心で思ったのはコリー以外が知る事はない。
今度はすぐさま咳払いをして笑いを納めたが、ヴァンと臨は呆れたような視線をコリーに送った。
そんな視線を知ってか知らずか、にこりと笑顔を貼り付けたコリーは翔太の台詞に訂正を加える。
「王子じゃなくて皇太子だね。
殿下、此方ショー・クワァッシュ・ラケルとアズサ・イシカワ。
つい先ほど手続きの書類を回したばかりの元勇者とその共です」
「そうか、ゼノへようこそ。俺はオリバー・・・オリバー・ゼノ・ドラグニルだ」
「そして私は皇太子殿下に御仕えさせて頂いております、レミーリア・サックスヤードと申します。どうかお見知り置きを」
コリーの紹介を受けて、それぞれ名乗ったオリバーとレミーリアに変な声が飛び出しそうになった梓は自分の口を手で押さえた。
少々勢いが良すぎてベチンッと言う音が廊下に響いたし、口元が痛いがそれどころじゃない。
弾幕ごっこの一人紅○館!!
ああ、でも名前が伸びてるのが惜しい!!
以上が飛び出すのを押さえた梓の心の声である。
因みに、普段であれば何してんだとばかりに呆れた視線を送る翔太も同じような事を考えていたらしく、梓に突っ込む者は居なかった。
閑話休題。
そして、再び修練場に視点を戻そう。
「ほぉーら!もうちょっと頑張ってくださいよーぉ、殿下が動く気配が微塵も無いじゃないですか!」
傷だらけの泥だらけになり転がり、伏せる騎士達の呻き声が
あちこちで上がる修練場のど真ん中で、全くもう!と両手を腰に当てたオリヴィアがぷりぷりと怒る。
「あー・・・あ!そうだ。手加減するのもそろそろ飽きてきました。
こーんなプライドばっかりのへなちょこ騎士サマだけでなく、見学されている“勇者サマ”やお供の方でもお相手していただけます?私暇なんです」
現在帝国最強に名を連ねる『龍騎士様』が出てくるまでは。
小ぶりな白い花弁の花をポンポン振りまきながら修練場の入り口や廊下に広がっていた野次馬に笑顔を向けたオリヴィアに対し、「良いだろう!」と威勢の良い声が上がった。
野次馬の中から修練場に歩み出る数人の中に“勇者”の姿は二、三と言った所だろう。
殆どが勇者と共に東大陸に渡ってきた武闘家や剣士、戦士の類。
つまり、好戦的な部類・・・言い方は悪いが脳味噌まで筋肉?と訊ねたくなるような部類の者達だ。
「わぁ!いい暇潰しになりそうな方々ですねー。あ、そうそう。
子供だとか女だとかで手加減したなんて言い訳、後で吐かないで下さいね?
そう言う事言う人私キライなのでーうっかり殺しちゃうかもしれませんよ?と、予め」
ふわりと舞い散る花と同じような笑みを浮かべ、瞳だけをぎらつかせたオリヴィアが「自己責任でお願いしますね。」と笑い、地面に突き立てて居た大剣を「よいしょ」と両手で引き抜いた。
「うーわ、あの子絶対性格悪ー」
「っは!アズサちゃん当たり当たり!やっぱ女の子はその手の勘が強いねー」
オリバーやレミーリアと同じように窓から修練場を見下ろしていた梓が鼻の頭に皺を寄せて呟いた言葉に、吹き出したギルベルトがパチパチと小さく拍手を送る。
「あの子の別名『毒花』の由来はねー。さっき彼女が言ってた“言い訳”をした敵の気管に、融解毒のある花弁を詰めて窒息死させる所から着てるのね?
で、最終的に苦しんでお亡くなりになった敵さんの首がボロッと落ちちゃうのを見てきゃらきゃら笑っちゃったりすんのよー」
「うはぁグロぉ・・・」
げっ、と引いた梓にケラケラ笑ったギルベルトが声を潜めて梓に顔を寄せる。
「本人の耳に入ったらその敵さんと同じ末路辿る事になっちゃうもう一つの名前もあってねー」
「いやぁああああ!!聞きたくなーい!」
「“首喰らいの悪女”」
小声だったにも拘らず、その場の全員に聞こえたもう一つの通り名にそう言えば。と言うような反応を示したのはレミーリアだった。
「そんな名前も御座いましたね?そちらの方が有名でしたのに今では毒花の方を良く耳に致しますわ」
「知ってた半数の首がもげて、残りの半分が口を閉ざしたからだろうねー」
「いーやー!!聞きたくなかったのにぃいい!!」
耳を塞いでしゃがみ込んだ梓を見て、ギルベルトとレミーリアが小さく笑い声を上げる。
「・・・て、事はあの子がブリューゲンの毒花?」
「うーわー・・・ノゾム、今の今まで話しに着いてこれて無かったわけ?」
横に居たクレアにこっそりと訊ねた臨の声に、信じられ無い。とぼやいたのはヴァンだ。
「あれ?臨さん謁見室に来た・・・んすよね?」
「あ、うんうん。ぼんやりだけど何となくあたしも覚えてる」
「確かに行ったけど・・・それが?」
翔太と梓の言葉に首を傾げた臨に、コリーが失笑を漏らした。
「あの場に彼女達も居たんだけど覚えてないの?並び順で誰が大佐か判ったはずだけど」
「・・・あー、居た・・・ような?それどころじゃなかったからちょっと記憶が曖昧で」
「ノゾムの観察力の無さについてはもう良いよ。画力と同じ位信用して無いしねーあ、ほら!それより外が面白い事になってるっぽい」
臨の拳が振り下ろされる前にほら!と、窓を指し示すヴァンの言葉に、特等席に集った者達の視線が修練場に戻ると丁度真下辺りからマレイラ・バグラーチが姿を現した。
近場から舌打ちが聞こえた翔太がふと振り向けば臨が眉間と鼻の頭に皺を寄せてバグラーチを睨んでいたが、翔太は何も聞こえなかったし見なかった事にしたらしい。
触らぬ神に祟り無し、と呟いた翔太に首を傾げたのは梓だけだった。
「接触が上手く行かなかったのかしら?随分遅い到着ですね」
「・・・レミーリア」
「失礼致しました」
あらまあ、と皮肉っぽい言葉を吐いたレミーリアを諌めたオリバーがそのまま窓辺を離れた。
「オリバー、外はもう良いのか?」
ふと、怒りを静めて気安い声を掛けた臨に、オリバーは緩く首を振った。
「否、下に行く。・・・ノゾムは」
「コリー、どうする?同行許可が出たけど」
「殿下のお誘いなら喜んで」
楽しそうに同意を示したコリーが翔太たちに声を掛け、オリバーとレミーリアに続きぞろぞろと階段へ向かった。




