砦の国の大佐と、皇太子。
ところ変わって城内修練場。
轟音と共に立ち上った土煙が晴れた修練場に立って居たのは、大きな両手持ちの剣に手を添えた桃色の髪の少女だった。
「大口叩いた割りに、帝国騎士団様がこのザマですか・・・がっかりです」
わざとらしい溜め息をこれ見よがしに吐いて見せた少女・・・オリヴィアは、足元に突っ伏している騎士を蹴り飛ばした。
小柄な少女が軽く蹴ったとは思えないほど、蹴飛ばされた騎士は剥き出しの地面を転がり小さく呻く。
「喧嘩売ってきたのはそちらでしたよね?無力な妖精族が大佐まで登れたのは落ちぶれた小国だから、でしたっけ?無知なお坊ちゃまはお家に帰ってママのお膝に泣きついてお乳でも強請ったらよろしいのでは?ブリューゲンの毒花に喧嘩売ってそれで済んだんですから精霊様と皇帝陛下に感謝なさいな。・・・・・・さて、私まだ気が済んでないんです。もうちょっと手応えある方いませんか?」
「なあ、姫さん。ゼノの面子潰す前に適当なとこで止めとけよ?」
「えー・・・でも」
修練場の隅でオリヴィアの一人無双を傍観していた薄い藤色の長髪を垂らした部下の言葉に、オリヴィアがむぅっと頬を膨らませて不満だとアピールする。
「怖い人、出てくるんじゃない?」
「ガートルードの言う通りだな、ほら」
緑色のイガグリ頭の短い言葉に、長髪の男が顎をしゃくって二階の窓を示す。
そこに視線を向けた瞬間、子供らしく膨れていたオリヴィアがニタリと肉食獣の様な笑みを浮かべた。
「良いですねぇ“怖い人”・・・ガートルード少尉、リッキー中尉。教えてくれて有難う御座います。私もうちょっと頑張って暴れてきますね」
うっとりとした声で部下二人にそう答えたオリヴィアは花を辺りに振りまきながら、機嫌良さ気に笑んだ。
そんなオリヴィアの様子に、部下の男二人は肩を竦めて口出しを諦める事にしたらしい。
あれは、言っても無駄だろう。
「もう手応えがどうのと文句は言いません!オリバー殿下を引っ張り出す為に、皆さん・・・」
――潰れてください。
大輪の花を撒き散らして無邪気に笑うオリヴィアの姿を見下ろしていた人影は、小さく溜め息を吐いた。
修練場に面した二階の窓辺に立つ人影は二つある。
溜め息を吐いた影はその内の片方で、
すらりとした体躯に黒髪赤眼の美丈夫であり、着ているものはシンプルながらも上質な素材と仕立てだ。
オリヴィアが修練場に呼び出そうとしている“オリバー殿下”
それが彼、オリバー・ゼノ・ドラグニル。
ゼノ帝国の皇太子だ。
「狙いが変わった様だな・・・」
「ええ、此方に視線を向けておりましたから、殿下を引っ張り出す腹積りかと」
オリバーの言葉に、傍に控えていた銀髪のメイドが言葉を返して小さな笑みを浮かべた。
「直ぐに向かわれますか?このままでは調子こいたボンボン共・・・失礼、新人騎士が全て使い物にならなくなってしまいますよ?」
「・・・だが、俺が行った所で・・・」
「そうですね、結局全員使い物にならなくなってしまいますもの。結果は目に見えていましたね」
出過ぎた真似をいたしました。とクスクス笑い声を上げながら頭を下げたメイドに、オリバーが小さく眉を顰めた。
「・・・解っていてそう言う物言いをするな、レミーリア」
「ですが、その方が面白いじゃないですか。私が」
「・・・・・・・ああ、そうだな。お前がな」
うふっと笑って言い放ったメイドのレミーリアに、疲れた様な溜め息を吐いたオリバーは此方に近付いてくる複数の慌しい足音に顔を向けた。
「ああ、何だ。殿下が傍観なされてると言う事は大事じゃないんですね?」
少々風変わりな一団を率いて早足に現れた執事・・・に見せかけた宰相、
つまりコリーがあからさまにほっとして歩みの速度を緩めた。
「・・・い」
「駆け付け早々そこですか、閣下。ですが、ご明察の通りです」
つらつらと言葉を並べたレミーリアに、言葉を遮られたオリバーは眉間に小さな皺を寄せる。
が、それに気付いたのはちらりと背後を振り返って彼を確認したレミーリアだけだ。
「ところで閣下?後ろで素敵な事故が起きてますが宜しいのですか?それと、そちらの方々は?」
「・・・・・・順番が逆だ」
「それは失礼致しました。わざとです」
問い掛けの順序が逆だとひっそり突っ込んだオリバーの言葉を拾ったレミーリアは、決め顔を作って言い切った。
コリーの後続に着いていた日本人組が見たら「ドヤ顔だ」と補足しそうな所だが・・・。
日本人組のみならず、コリーの執務室に居た一団はちょっとそれどころでは無かった。
と、言うのも
「だっ!大丈夫ですか?!」
「っ痛ぁあああああ!!誰だぁああああ!!オッサンの腰にヒジぃいいい!!いだだだだ!!」
「・・・・・・重ぇー」
「ちょっ!翔太!誰が重いって!?」
「ぃ・・・か、ら・・・ど・・・・・・・・・」
「・・・クレア、ギルの下からヴァン引っこ抜くの手伝って」
『車は急に停まれない』じゃないが、殆ど走るような早足で先頭歩いてきたコリーが急な減速をした為、後続が玉突き事故を起こしていた。




