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風見鶏の店長さん。  作者: 武蔵(タケクラ)
店長さんと、城と勇者と軍人と?
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店長さんと、少年少女と、店長さんの敵。2


「で?ラケル君、僕の質問の答えはー?」

「え、あ、ラケルの方も、本名だけど。日本での名前は坂上翔太・・・コイツと同じ学校で、学生。高校生だった」

「サカガミショータって事は、ショータが名前でサカガミが家名であってる?語感はやっぱり東諸島風かー」


そっかそっか。とコリーが用意していたペンを勝手に使って手帳にメモを取るヴァンを押しのけ、ソファーに戻ったコリーがクッキーをテーブルに置いて首を傾げた。


「ラケルも本名って事はやっぱり養子になったのかい?」

「あー・・・そうじゃなくて、気がついたらこっちの世界で4歳児だった・・・んです」

「へぇ、そう言うパターンもありなのかな・・・切っ掛けとかなんかあった?ノゾムは交通事故で死んだから、らしいんだけど」


召喚術とは関係ないのかなー、とぼやくヴァンがポロっと漏らした臨の過去に、ぎょっとしたのは翔太と梓だけでなくギルベルトもだった。


「ちょ、待った待った!オッサンそれも初耳なんだけど!」

「ああ、言ってなかったし」

「そういえば言ってなかったな」


そうだった。とあっさり頷くコリーと臨の軽さに三人が唖然とする。


「だって、臨さん身体あるのに・・・重態の状態でこっちに来たんですか?」

「否?五体満足だったな。その辺は良く判ってないんだけど、まあそう言う物だと思ってるから、スルーしてくれないか?身体能力も健康状態も今までのままで何にも問題ないし・・・論文染みた小難しい話は聞きたくないし」


そう言い切った臨の視線がクッキーに手を伸ばすヴァンに向き、コリーも一つ頷く。


「取り敢えず、納得したよ。ショーもアズサもノゾムと同じ世界の出身って事で良いよね?それじゃ、君達のこれからについて話そうか」


猫かぶりの笑みを浮かべたコリーが数枚の書類を翔太と梓に差し出して話を進めた。



―――――――――――――――

――――――――――



時間を少々戻して。


退室を促され、部屋を出たマレイラ・バグラーチは足取りも荒く己の執務室に向かっていた。


皇帝に長く仕える五大貴族の一つであるバグラーチ家の次男にして、家柄だけでなく実力もなければ着任出来ない近衛騎士団の中でも小隊を任せられる一隊長の座に在る自分が何故、こんな使いっ走りの様な真似をしなければならないのか。

相手にそれなりの地位があるならまだ多少の納得も行くものの、今日案内した相手はギルド職員の下っ端だ。


「ッッッんで!アイツなんだ!」


力任せにドアを閉めた瞬間、怒鳴り散らしたマレイラの脳裏に浮かぶのは、今日“初めて”目にした“元々”気に食わなかった人間で、観るからに弱そうで、ひょろひょろした女の様な優男・・・。


要するに臨だ。

マレイラもまた、誤解している者の一人だった。

誤解と言えば・・・もう一つ。


「クレアもクレアで、あんなナヨナヨしたのの何処が良いんだ・・・クソッ!」


机に向かったマレイラはギリッと歯を食いしばるとペンを手に取り仕事に取り掛かった。


簡潔に言おう。

マレイラはクレアに片思い真っ最中だった。

真っ最中どころか片思い歴で言えばかなり長く、大まかに300年程度になる。

マレイラやクレアが城に就職する前、まだ子供であった頃の学生時代からの片思いだ。


と、まあもう一つの誤解は此処に掛かってくる。


クレアが思いを寄せる相手は、臨ではなくジムだ。

ジムもまたクレアとマレイラと同い歳で、学生時代の同窓。

クレアの片思いもマレイラと同じく学生時代からと言う長いものだ、ここ数十年でクレアが大胆なアピールを始めた為そうだと知らない者も多いのだが・・・。

と、まあ風見鶏の関係者や常連客であれば、誰しもが知っているそれは、風見鶏に足を運ばない者にとっては常識ではなかった。


それに加え、クレアが風見鶏に足繁く通うようになったのは臨が食堂の店長になってから。

以前は、九割不味い一品メニューのお陰か、傭兵ですら風見鶏に長居していなかった。

その為、足を運んだ所でジムに会えるとは限らなかったクレアが、風見鶏に頻繁に通うようになったのは臨が来てからだった。


つまり、だ。

風見鶏に縁遠い者からすれば、クレアの思い人が臨であると勘違いするのはそう難しいことではない。

要するに逆恨みから来る態度の悪さと今現在の機嫌の悪さ、と言うことだ。


苛立っている状況では書類の文面に集中することなど出来ず、数枚の書類にサインを殴り書きしたマレイラは机にペンを叩き付けた。

ちょっとばかりペン軸から鈍い音がしたが、ペンも書類仕事

も構わずに勢い良く立ち上がったマレイラは大きな歩幅でドアに向かう。


機嫌の悪さを隠そうともせず、廊下を足取り荒く進むマレイラが向かおうとしている先は修練場だ。

彼の心境を理解している者からすれば、物凄く判りやすい八つ当たりだが・・・

苛立ちの原因から何から全て正しく理解している者は、本人以外には居なかった。


唯でさえ強面で巨躯を持つマレイラが、今にも噛み付きそうな顔で修練場への道を真っ直ぐ歩いていれば大抵の者は慌てて道を空け、声も掛けずにさっさと退散するものだ、が。

何事にも例外はある。


「あ!マレイラ!丁度良かった!」

「なんっ・・・・・・」


暢気な声を上げ、マレイラの背中をぽんと叩いたのは声同様に暢気な顔つきをした少年だった。

よく言えば純朴、有り体に言えば田舎臭い痩身の少年は、

5歳から15歳までの国民が通う、学校の高等部の制服を着ており胸に付けられているバッヂは最上級生を示している。


怒鳴るように振り返ったマレイラは、少年の姿を目にするや否や根性で怒気を納めて略礼を一つした。


「・・・っの、御用でしょうか、リチャード殿下」

「固いなー。継承権なんてあってない様なもんなんだからリックで良いのに。

そうそう、ナルが修練場が“面白いな状況”になってるからマレイラを呼んで来いって。後、ジェニー見なかった?」


帝都よりも農村が似合いそうな少年の名は、リチャード・ゼノ・フォニクス。

アイザックの側室、リアナ妃の息子で第二王子だ。


彼については色々と補則しておきたい所が多いが・・・


急ぎみたいだったー。とリチャードが笑った瞬間、“面白い状況”になっているらしい修練場方面で爆発音が轟いた事で、マレイラが走り出したので後にしよう。



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